2026年1月30日公開
はじめに
世界中で肥満症の患者数は増加していますが、本邦でも肥満症の患者数は増加の一途を辿っています。
肥満症の治療は、食事療法、運動療法、行動療法を柱としますが、最近になり肥満症に対する外科治療が広がりを見せつつあるのに加え、肥満症に使用可能な薬剤も増えており、肥満症治療の選択肢が広がっています。
診断
肥満の判定に関しては、本邦の基準とWHO(World Health Organization)基準では異なる点があり、本邦では25≦BMIの際に肥満と判定しますが、WHO基準では25≦BMI<30を過体重、30≦BMIの際に肥満と判定します。
本疾患の診断において重要な点は、「肥満」と「肥満症」とが区別されるべき概念であるという点です。
体格指数(BMI)が25を超える場合に「肥満」と判定されますが、肥満に加えて健康障害を有する、あるいは内臓脂肪の過剰な蓄積が確認された場合には「肥満症」と診断されます。
特にBMIが35を超える症例は「高度肥満症」と定義されます。肥満症は、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧症など、肥満に起因する疾患を合併する病態であり、これらの健康障害(表1-2-1)を改善することが治療の主要な目標となります。
◇肥満の定義
脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI=体重[kg]/身長[m]2)≧25のものを指す。
◇肥満症の定義
肥満に起因ないし関連する健康障害(表1-2-1)を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患。
以下の表1-1に肥満症の診断のフローチャートを示しますが、当院で肥満、肥満症を診断する際には、二次性肥満症を見逃さないために初診時に内分泌学的評価を行い、内分泌性肥満や視床下部性肥満の除外を行います。
また内臓脂肪の評価のためにCTで内臓脂肪面積を測定し、BIA法、DXA法で骨格筋量、体脂肪量を評価しています。
治療
表2に肥満症治療指針を示しますが、肥満症治療を開始する際にはまず減量目標を設定します。肥満症の際には減量目標を現体重の3%以上とし、高度肥満症の際には現体重の5~10%と設定し、そのうえで行動療法(30回咀嚼法、グラフ化体重日記、食行動質問票)を取り入れ、食事療法、運動療法を導入します。
その後に定期的に体重や健康障害の有無を評価した上で、目標を達成できない際には薬物療法、外科療法の導入を検討します。
肥満症の薬物療法はこれまで適応が限られていました。2024年からはGLP-1受容体作動薬が肥満症の治療薬として使用可能となり、肥満症の治療は様変わりしました。
GLP-1受容体作動薬を使用したこれまでの報告では、この薬剤による十分な体重減量効果が示されており、体重減量に加えて血糖、脂質、血圧の改善にも寄与することが報告されています。
注意点・フォローの仕方
会社や職場の検診などではBMI、肥満度を評価することが多いですが、肥満度に加えて肥満により引き起こされる健康障害の有無が肥満症の診断には必要になります。
そのため、これらの併存疾患の有無についての評価も重要になります。
患者さんを紹介する際の必要な情報や基準について
BMI、肥満度の程度に加え、肥満に伴う健康障害の有無について情報提供を頂けますと薬剤治療の導入が円滑になります。
肥満症に対する薬物療法(GLP-1受容体作動薬)の開始要件は以下のとおりです。(2025年11月時点)
①BMIが27以上であり、かつ糖尿病・脂質異常症・高血圧症のいずれか少なくとも一つを有し、それらに対して薬物療法を実施していること。さらに、糖尿病・脂質異常症・高血圧症を含む肥満関連健康障害(表1-2-1)を2つ以上有すること。
②BMIが35以上の場合には、糖尿病・脂質異常症・高血圧症のいずれか少なくとも一つを有し、かつ薬物療法を行っていること。
逆紹介後のフォローアップで気を付けて欲しいこと
肥満症の薬物治療(GLP-1受容体作動薬)開始後は当院に通院いただき経過観察を行います。
薬物療法の適応にあてはまらない際には近隣の先生方に経過観察を依頼することがありますが、肥満症の薬物治療が適応となる際にはご紹介を御検討ください。
診療科からのメッセージ
本邦でも肥満が増加していることは認知されていると思いますが、肥満症という疾患に関しては未だに多くの方に認知されていないのが現状かと思います。
これまでの肥満症の治療では食事療法、運動療法、行動療法により減量を目指していましたが、リバウンドを経験されるなど効果を十分に得られない方もいらっしゃいました。
現在は、GLP-1受容体作動薬による薬物療法や手術療法が新しい治療として選択することが出来るようになり治療の幅が広がっています。
肥満症で悩んでいらっしゃる患者様がいらっしゃいましたら是非当院へご紹介ください。
2006年 横浜市立大学医学部医学科 卒業
2006年 国家公務員共済組合連合会 横浜栄共済病院 臨床研修医
2007年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 臨床研修医
2008年 国家公務員共済組合連合会 横浜南共済病院 内分泌代謝内科 医員
2009年 横浜市立大学附属病院 内分泌・糖尿病内科 シニアレジデント
2013年 横浜市立大学大学院 医学研究科 博士課程修了
2013年 国家公務員共済組合連合会 横浜南共済病院 内分泌代謝内科 医長
2015年 横浜市立大学附属病院 内分泌・糖尿病内科 助教
2016年 ハーバード大学 医学部 ジョスリン糖尿病センター(リサーチフェロー Rohit N Kulkarni Lab)
2019年 横浜市立大学 先端医科学研究センター トランスレーショナルリサーチ推進室 特任助教
2021年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 内分泌・糖尿病内科 助教
2023年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 内分泌・糖尿病内科 部長 講師