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連携NEWS「不育症について」

2023年3月31日公開

不育症の診断

「不育症」とは、妊娠は成立するものの、流産・死産により生児を得られない場合を言います。
流産は10-15%の頻度で生じますが、2回以上の流産の頻度は4.2%、3回以上の流産既往は0.88%と報告されています。
流産には様々な原因がありますが、一般的に、流産の約半数は受精卵における染色体異常と言われ、受精した瞬間から流産することが決まっています。しかし、染色体が正常な受精卵であっても、流産になることがあり、流産を2回、3回繰り返す場合には何らかの原因が存在することが考えられます。

図1 不育症のリスク別頻度図1 不育症のリスク別頻度
参考文献:AMED研究 不育症の原因解明、予防治療に関する研究を基にした不育症管理に関する提言2019

不育症のリスク因子と頻度は、図1に示したものが挙げられます。
当院では、異所性妊娠や絨毛性疾患を除いた、2回以上の流死産の既往がある場合に、検査を行っていきます。
また、不育症の主要なリスク因子である抗リン脂質抗体症候群の臨床基準に「1回以上の妊娠10週以降の原因不明子宮内胎児死亡」があるため、このような流死産が1回でもあれば、不育症に準じて検査治療を行います。

不育症の検査

不育外来での検査

基礎体温に合わせての採血もあるので、検査期間としては2~3か月を予定しています。
検査中は避妊をお願い致します。

血液検査

  1. 凝固機能、自己抗体、抗リン脂質抗体症候群などの検査
    • 抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント
    • プロテインC、プロテインS、第12因子、APTT
    • (自費検査)抗PE抗体
  2. 内分泌検査
    • 甲状腺機能、糖尿病
    • TRHテスト、LH-RHテスト、プロゲステロン、エストラジオール、プロラクチン、テストステロン
  3. 夫婦染色体検査

婦人科診察による検査

  1. 子宮・腟の感染症検査・・・クラミジア、細菌性腟症
  2. 経腟超音波検査・・・子宮の形態、卵巣の状態

流産絨毛染色体検査

当院では、「流産検体を用いた染色体検査(G バンド法による染色体検査に限る)」が保険適用内で実施可能です。2回目の流産から適用となり、流産の原因が受精卵の異数性によるものかどうかを判定することが可能です。

不育症の治療

リスク因子別治療法の概要

全検査が終了した段階で、結果を総合的に判断し、治療に必要性を含め方針を検討致します。

1)抗リン脂質抗体症候群 低用量アスピリン療法+ヘパリン皮下注
2)凝固機能異常 低用量アスピリン療法
3)子宮形態異常 必要あれば当院婦人科で手術
4)甲状腺異常、耐糖能異常 内科的治療
5)高プロラクチン血症、黄体機能不全 薬物療法(内服薬、腟坐薬)
6)夫婦染色体異常 治療法はありませんが、着床前診断を検討
7)リスク因子不明 無治療、カウンセリング、予防的低用量アスピリン療法

1)抗リン脂質抗体症候群

表20 国際抗リン脂質抗体学会の抗リン脂質抗体症候群診断基準表20 国際抗リン脂質抗体学会の抗リン脂質抗体症候群診断基準

上記診断基準に適合するかどうか判定します。
治療は、妊娠前から(排卵後から)低用量アスピリンを内服し、妊娠判明後から分娩直前までヘパリンカルシウム投与を行います。
分娩後も抗凝固療法を行います。

2)凝固機能異常

上記、抗リン脂質抗体症候群の診断にならない凝固機能異常では、低用量アスピリン+ヘパリンカルシウム併用療法が、低用量アスピリン単独療法以上に妊娠予後を改善することはないと言われており、妊娠前から低用量アスピリン内服の方針としています。

3)子宮形態異常

中隔子宮での手術療法は、経過観察群に比べ妊娠成功率が高い傾向が示された報告はあるものの、双角子宮に対する手術は、生児獲得率を改善しなかったという報告もあり、当院の婦人科と相談し慎重に判断します。

4)甲状腺異常、耐糖能異常

当院の内分泌内科に紹介し、内科的治療を行います。

5)高プロラクチン血症、黄体機能不全

プロラクチン濃度を下げる治療は、より高い妊娠成功率(86 vs 52%)と関連していたという報告や、妊娠初期のプロラクチン濃度は、流産した女性で有意に高かったという報告より、カベルゴリン内服を行います。

6)夫婦染色体異常

流産・不育症の原因と考えられる均衡型転座などの染色体構造異常が見つかった場合、当院の生殖医療センターで着床前診断(着床前胚染色体構造検査:PGT-SR)が可能ですので、ご希望があれば紹介します。また、当院には臨床遺伝専門医が在籍しておりますので、詳しい説明をご希望された場合には、ご説明します。

7)リスク因子不明の場合

原因が特定できない場合は、既往の流産が胎児染色体異常の繰り返しである可能性があること、その後の妊娠では、TLC(Tender Loving Care、支持的ケア)などの精神支援を行った上で、投薬治療なしでも妊娠継続できる可能性が高いと言われています。実際、投薬治療を行わなくても、胎児染色体異常による流産を除くと、その後の妊娠で健児を得られる率は81.3%であったという報告もあります。
また、夫婦染色体構造異常がない原因不明不育症に対して、自費診療にはなりますが、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の日本産婦人科学会の施設承認を、当院の生殖医療センターで施行可能ですので、希望があれば生殖医療センターへ紹介しています。

患者さんを紹介する際の必要な情報や基準について

不育外来では、異所性妊娠や絨毛性疾患を除いて、2回以上の流死産の患者さんに検査を行います。
ただし、抗リン脂質抗体症候群が疑われる場合は、1回の流死産でも検査を行います。
また、妊娠していない状態からの治療が必要な場合もあり、検査中は避妊をお願いしておりますので、患者さんに情報提供して頂けると幸いです。
流産に関する診療内容も必須ですので、ご紹介の際には、紹介状をお渡し頂き、月曜日13:30に、直接母子医療センター外来に受診してください。事前予約なしでも受診可能です。

当院との連携について

不育外来にて、検査が終了し、方針決定した後は、妊娠待機となります。
妊娠中の支持的ケアは、精神的安定のみならず、妊娠継続にも有効であるという報告があることから、当院では妊娠成立後から妊娠13週まで、毎週通院して頂き、超音波検査で胎児の状態を確認します。
当院の不育外来通院中の患者さんが、妊娠を主訴に受診された場合は、当院分娩でなくても、早めに不育外来受診もしくは当院への連絡の指示をお願い致します。

診療科からのメッセージ

総合周産期母子医療センター 助教 笠井 絢子

総合周産期母子医療センター 助教 笠井絢子の写真総合周産期母子医療センター 助教 笠井絢子の写真

いつもご紹介ありがとうございます。
総合周産期母子医療センターは、ハイリスク妊娠の管理と分娩を主に扱っております。
ハイリスクでなくても、地域の方の分娩にも対応しています。
また、大学病院の専門外来として不育外来を月曜日午後に行っております。
不育症は、決して稀な疾患ではありません。
適切な検査により、リスク因子を抽出し、治療を行うことで、さらなる流産を避けられる可能性があります。
当院でも、不育外来通院中の多くの患者さんが、流産を乗り越え、妊娠、分娩しておりますので、積極的にご紹介して頂けると幸いです。

2002年 弘前大学医学部医学科 卒業
2004年 横浜労災病院 産婦人科 
2005年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 総合周産期母子医療センター 
2006年 横浜市立大学附属病院 産婦人科 
2007年 横浜南共済病院 産婦人科 
2009年 横浜労災病院 産婦人科 
2012年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 総合周産期母子医療センター 助教
2018年 横浜労災病院 産婦人科 副部長
2020年 横浜労災病院 分娩部 部長
2022年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 総合周産期母子医療センター 助教

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