2022年12月2日公開
肺癌の罹患数(新たに診断される患者さんの数)は年々増加しており、本邦では2019年に約12万人に達しました。男性の方が女性の約2倍多く、また高齢になるにつれて、罹患率が上昇します。死亡率では、本邦では1998年に胃癌を抜き、第1位となりました。難治性疾患として知られる肺癌をいかに克服するかは、がん治療の喫緊の課題と考えられます。
肺癌は肺の細胞の遺伝子が傷つくことで発生します。遺伝子を傷つける原因はいくつかありますが、一番の原因は喫煙です。たばこの煙の中には約4,000種類以上の化学物質が含まれていますが、そのうち200種類以上が有害物質であり、この中に約60種類の発がん性物質が含まれています。喫煙は肺癌を発生させるリスクを3~4倍上昇させるため、肺癌の予防には禁煙が最も重要と言えます。一方、非喫煙者からでも肺癌が発生することが分かっています。女性を中心として近年増加傾向にありますが、非喫煙者から肺癌が発生するメカニズムについては未だ明らかではありません。
肺癌の早期発見には胸部X線による検診が有用です。重喫煙者では胸部X線に喀痰細胞診を併用した検診が有用です。毎年X線検診を行う事で肺癌死亡率を減少させる事ができますので、積極的な検診への参加が望まれます。
肺癌発見時の進行度(ステージ)は、その後の治療成績に大きく影響します。転移を全く認めないステージⅠ期非小細胞肺癌の5年生存率は80%を越しております。従って、いかに早期に治療を開始できるかが、肺癌治療成績向上の大きな鍵になります。
左肺上葉S1+2に約2cm大の結節陰影を認めます。腫瘍辺縁は不整であり、内部に一部気管支透亮像を伴っています。
右肺上葉S1,2に約5cm大の結節陰影を認めます。腫瘍は胸壁と接しており、一部で浸潤を認めています。
肺癌治療は手術療法、化学療法、放射線療法に分類されますが、それぞれ単独で行う場合と、それらを組み合わせて行う集学的治療があります。限局性の肺癌に対しては手術療法が適応となりますが、進行例では術前や術後に化学療法や放射線療法を組み合わせる集学的治療を行います。手術療法が適応とならない症例では、化学療法、放射線療法の単独療法、あるいは併用療法を行います。近年、肺癌治療は目覚ましく進歩しています。手術療法では、患者さんへの負担を軽減する低侵襲手術の発展が著しく、当院でも従来の傷の小さな胸腔鏡手術に加え、胸腔内で精密な操作が可能なロボット支援下胸腔鏡手術を導入しています。
また、早期癌の患者さんでは、切除する肺の範囲を縮小して呼吸機能を温存する区域切除術を行っています。これにより、入院期間も短縮傾向(平均で1週間以下)となっています。化学療法では、従来の抗癌剤に加え、腫瘍の遺伝子変異に応じた分子標的薬を用いており、副作用の軽減と生存率の向上で大きな役割を果たしています。近年では、更に免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療を行っており、優れた治療効果を示しております。放射線療法では、手術が困難な早期癌の患者さんを対象としてピンポイントで肺癌を狙い撃ちするSBRT(体幹部定位放射線治療)を行っており、良好な治療成績を示しております。
肺癌は治癒切除を行っても、各ステージによって一定の再発を認めますので、定期的なCTによる画像診断、および腫瘍マーカーのチェックが必要です。CTによる画像診断、および腫瘍マーカーのチェックは当院で行います。かかりつけ医の先生方には、引き続き、高血圧、糖尿病などの併存疾患に対する診療をお願い致します。万が一肺癌が再発した場合は、息切れや痛みなどの症状を認める場合がありますので、気になる症状を認めた場合は、すぐに当院への受診をお勧め下さい。
術後は、肺癌については当院で、高血圧や糖尿病などの併存疾患についてはかかりつけ医の先生に診て頂くダブル主治医制をとりながら、しっかりと患者さんをフォローアップさせて頂きます。
胸部X線で肺癌が疑われる場合は、すぐに御紹介ください。早期診断が予後の延長につながります。
特に紹介の際の基準はございません。
肺癌は高齢者の罹患率が高く、既に心臓、肺、腎臓、脳、血管などに様々な疾患を抱えている患者さんが多くいらっしゃいます。また、様々な難治性疾患でステロイドや免疫抑制剤などの薬剤を内服されている患者さんも多くいらっしゃいます。当院は手術数のみならず、様々な併存疾患を抱えた患者さんの手術経験も大変豊富です。年齢や併存疾患などで御紹介を迷っている患者さんがいらっしゃいましたら、是非一度当院へお声かけ下さい。
1998年 山梨医科大学医学部医学科 卒業
2010年 横浜市立大学 医学博士取得
2018年 横浜市立大学 外科治療学 講師
2019年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 呼吸器病センター外科 担当部長
2020年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 呼吸器病センター外科 准教授