2021年11月26日公開
口腔癌とは、口の中や唇にできるがんのことをいいます。舌・歯肉・口底・硬口蓋・頬粘膜・口唇など、できる部位によってさまざまな種類があります。口腔癌にかかる患者は、がん患者全体のおよそ1%といわれており、女性より男性に多いという特徴があります。また、好発年齢は60-70歳代ですが、若年者にも発生します。
初期症状が口内炎と似ていることから、がんであることに気づかず放置してしまい、進行がんになる人もいます。初期の口腔癌では、口内炎と同じように舌や口の中の粘膜がただれた状態になり、できものや傷、粘膜の荒れが見られます。見た目から口腔癌と口内炎を見分けることは困難です。割合から考えると、舌や口の中の粘膜のただれは、そのほとんどが口内炎と考えてよいです。
しかし、なかなか治らない場合には、口腔癌が疑われる可能性があります。また、口腔癌のなかでも歯肉癌の場合には、歯肉腫脹、出血、歯の動揺など歯周病とよく似た症状が現れることがあります。口腔癌にはその前段階となる前癌病変が存在します。口腔癌の前癌病変としてもっとも代表的なのは白板症です。白板症とは、舌や口の中にこすっても取れない白い病変が生じることをいいます。白板症ができたから必ずがんになるということではありません。
しかし、おおよそ5%程度が癌に進展する可能性もあるため、白板症が生じたら事前に切除などの治療を行うことがあります。舌や口の中が白っぽく変色していて、こすっても取れない場合や長期間それが治らない場合には、白板症の可能性を考え専門医の受診を検討する必要があります。口腔癌の治療は手術が標準治療ですが、口腔組織が切除されると摂食嚥下の機能が低下するため進行した状態での切除はQOLを著しく損なうことになります。そのため進行口腔癌の切除では再建治療を実施したり、臓器温存を目指した化学放射線治療が実施されます。
口腔粘膜の腫瘍性病変が疑われる場合は、かかりつけ医の先生で副腎皮質ホルモン軟膏を2週間使用していただき、症状の改善の有無を観察します。また歯肉の場合には歯周炎と間違えて外科的な処置を実施してしまうと進行してしまうので、局所的な異常な骨吸収を伴っていたり、やはり局所的な肉芽形成・腫瘤形成をしている場合は抗菌薬の処方など保存的な経過観察など慎重な対応が望まれます。ご紹介いただくに際し、局所的なものであるかどうか、発生からどのくらい経過をしているか観察した上で、上記の保存的治療が2週継続しても変化がない場合に紹介をご検討ください。ただし明らかな腫瘤形成や白板がある場合や、急速に進行してくる場合にはすぐにご紹介ください。
実際に口腔癌であった場合には当院での加療後5年間は経過観察をしますが、同時に有事の応急処置をお願いするための逆紹介をしてダブル主治医制を取らせていただきます。手術部位の粘膜のただれや感染は起こり得る事象であり、上記の副腎皮質ホルモン軟膏や抗菌薬の処方をお願いすることがあります。口腔癌ではない場合は引き続きかかりつけのクリニックにて定期的な経過観察をお願いすることになりますが、粘膜の病変ではその範囲・厚みの増大、硬さ(硬結)の出現に注意してのフォローが望まれます。また口腔粘膜に異常が出現する患者さんでは一箇所が改善したとしても異時性に新たな病変が他の部位に出現することがありますので、口腔内全体の経過を見ていただく必要があります。逆に同時多発性に出現する場合には局所のがんというよりは全身疾患が疑われますので内科・皮膚科専門医の受診が望まれます。
多くのがん同様、口腔癌も早期に発見し治療を行うことで予後がよくなります。しかし、初期の口腔癌は、口内炎や歯周病と勘違いされ見過ごされてしまうこともあります。そのため、気になる症状があれば、まず専門医への受診をご検討ください。