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大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)に対する股関節鏡手術について

2024年12月24日公開

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)に対する股関節鏡手術について

概要

股関節はご存知の通り人体で最も深部に位置するため関節内に到達するのが難しく、関節鏡手術の技術として他関節に比べ最も遅れていたという歴史的な背景があります。そのため他の関節鏡手術に比べまだ施行数は少なく、発展途上でありますが2003年に報告されたFemoroacetabular impingement(FAI)の概念(Ganz)が認知され、デバイスの開発と技術向上により股関節鏡手術の重要性は高まっております。現在、股関節学会による技術認定医は全国で36名であり、そのうち2名(小林、雪澤)がセンター病院で股関節鏡手術を行なっています。
 

コンピュータナビゲーション支援股関節鏡手術

股関節鏡手術の最も良い適応は若年者のFAIであり、関節唇縫合とcam形態(大腿骨頭頸部移行部の骨性隆起)の形成を行います(図1)。当院での技術的特徴はcam形成の際、コンピュータナビゲーションを使用することにより正確で安全な切除を実現している点で、これは世界に先駆けて臨床応用しています。骨形態異常のない関節唇損傷単独例も股関節鏡手術の良い適応になります。

図1 コンピュータナビゲーション支援鏡視下cam形成術(右上ナビ画面)
図2 関節唇縫合術の鏡視所見

図2はスポーツ等で受傷した11歳女児の股関節唇損傷に対する鏡視下縫合術の様子です。このような若年者におけるスポーツ外傷も良い適応で速やかな除痛が得られます。一方で50歳以降の青壮年期、高齢者では関節症変化を伴う例も多くなり、人工関節との選択を慎重に行う必要があります。化膿性股関節炎、滑膜性骨軟骨腫症や類骨骨腫、色素性絨毛性滑膜炎など良性腫瘍や腫瘍類似疾患も適応になります。いずれもオープン手術の適応もありますから利点欠点をよく吟味して手術適応を判断します。

手術後について

入院期間は関節唇縫合単独であれば1週以内に全荷重で退院、cam形成を加えている場合は2週で全荷重退院としています。スポーツ復帰としては3ヶ月程度でランニングを開始し、サッカーなどコンタクトスポーツの復帰は半年程度を想定します。

ご紹介について

股関節唇損傷は単純X線写真のみでは診断がつきません。またF A Iも軽微な形態異常のため、見慣れないと判別が困難です。明らかな画像上の異常所見がはっきりしないにも関わらず長い期間症状が改善、もしくは悪化するような場合はご紹介ください。

診療科メッセージ

整形外科
部長 小林 直実


明瞭なFAI形態を有する症例、またX線写真で一見異常がないように見える患者さんで股関節痛が遷延化し日常生活やスポーツ活動に支障を来たしているような場合、またはT H Aを行うにはまだ早すぎると思われたり患者さん自身が関節温存を強く望む場合には股関節鏡手術が適応となる可能性がありますので是非ご紹介頂ければと思います。

1997年 山形大学医学部 卒
1997年 藤沢市民病院 初期研修医
2003年 米国クリーブランドクリニック 留学
2006年 横浜市立大学附属病院整形外科 常勤特別職
2007年 横浜市立大学附属病院整形外科 助教
2010年 横浜市立大学附属病院整形外科 講師
2019年 横浜市立大学市民総合医療センター整形外科 部長 准教授