2024年9月6日公開
横浜市立大学附属市民総合医療センターではパーキンソン病に対する脳深部刺激療法治療の取り組みを行っています。
パーキンソン病は脳の変性によりドパミン神経細胞が障害され、脳内で作られるドパミンが減ることで発症する神経変性疾患です。
主な症状として体の動きがゆっくりになる、手足が震える、筋肉がこわばるといった運動症状のほか、便秘、不眠、疲労感といった多彩な非運動症状が出現します。
治療の中心はドパミン不足を解消するための薬物療法で、レボドパ製剤をはじめとするパーキンソン病治療薬の適切な使用で、症状改善がはかれます。
一方、病期の進行とともに、運動合併症と呼ばれる困った症状が出現することがあります。
これには内服の効果が不安定になり次の内服までに薬効が切れてしまう、ウェアリング・オフ現象やジスキネジアと呼ばれる身体が勝手に動く不随意運動が代表的です。
こうした場合に考慮されるのが脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)です。
「脳深部刺激療法(DBS)」(以下、DBS)とは、脳内に留置した電極と前胸部に埋め込んだ刺激発生装置を接続し、脳内の標的部位に弱い電気刺激を行うことで症状を改善する治療法です。(図1)。 パーキンソン病に対するDBSは30年以上の歴史があり、世界中で広く実施されています。 当院でも2009年から脳神経内科・脳神経外科を中心に多診療科・部門が連携して医療チームを構築し、250人以上の患者さんに治療を行ってきました。
薬が効かないオフの時間帯の症状改善、薬物の減量、不随意運動であるジスキネジアや震えの強力な抑制です。 また、脳内に留置した電極を用いた刺激は、患者さんの症状に応じて調整が可能であり、症状の左右差や進行にも対応できる場合があります。(図2)
外科的手術でありながら内科的治療も必要とする点です。
脳神経外科による電極留置手術はもちろん重要ですが、手術後の管理がさらに重要です。
パーキンソン病に対する薬物治療と同様に、患者さん個々の症状に合わせた刺激の設定や内服薬の調整が必要です。
このため、当院では多診療科・部門が協力して、患者さんに安全かつ効果的な治療を提供しています。
DBS治療は30年以上の歴史があり、体外充電で15年以上使用できる刺激装置やMRI対応機器など、多彩な選択肢があります。
例えば脳内に留置する電極も改良が進み、初期の頃に使用された電極に比べ現在の電極はより細かく柔軟な刺激設定ができる製品が登場しています。
刺激発生装置も以前は左右の脳内に留置する電極に合わせて、左右に一つずつ埋めこむことが標準的でしたが,より小型の装置を一つ使用するだけで良いものに改良されています。
また日々のメンテナンスがほぼいらない非充電型の刺激発生装置のほか、簡単な充電で15年以上の長期使用ができる充電式の装置も使用できます。
そのほか脳内電極を刺激だけでなく局所脳波の記録用電極として使用し,患者さんの状態を長期的にモニタできる機能をもつ装置,またその状態をもとに刺激設定を自動変更できるアダプティブDBSといった機能を有する装置もあります。
当院では患者さんのメリットになる新規デバイスは積極的に採用しており,刺激を患者さんの症状に合わせて自動設定できるアダプティブDBSは世界で初めて当院で稼働しました。
(商業用デバイスとして世界初.メドトロニック社調査)
当院では、患者さんの希望や症状、介護者の状況などを総合的に判断し、最適な機器を提案しています。
ただし、DBSはすべての患者さんに適しているわけではありません。
当院では、進行期パーキンソン病患者さんに対して、DBS以外にもレボドパ経腸療法やレボドパ持続皮下注射などのデバイス治療を積極的に導入し、最適な治療法を提案しています。
薬物治療が効果を示さない運動合併症にお困りの患者さんがいらっしゃいましたら、横浜市立大学附属市民総合医療センター 脳神経内科外来へご紹介ください。
パーキンソン病の患者さんで内服薬をきちんと服用しても症状の変動がある(くすりが効いた身体の動きが良い時間とくすりの切れた動きの悪い時間がある)患者さん、ジスキネジアやふるえといった不随意運動でお困りの患者さんがいらっしゃいましたらぜひご紹介ください。
70歳前後までの患者さんはDBSが効きやすく、DBS治療を行いにくい患者さんには他の治療法をご提案させていただきます。
またパーキンソン病以外にもふるえや身体のねじれ、不随意運動でお困りの患者さんがいらっしゃいましたらぜひご紹介ください。
簡単な病歴と現在の内服薬、過去の検査結果がありましたらご提供いただけますと大変ありがたいです。
DBS治療を導入した患者さんは術後の半年間程度は症状が変動しやすく、その後症状が安定しDBS治療の効果が実感できる時期になります。
この期間は当院で経過を見せていただき、安定した後逆紹介で地域の先生方と一緒に診療にあたらせていただきます。
もし症状の急激な変化や精神症状の出現、そのほか先生方がお困りの症状などありましたら、当院への受診をご指示くださいますと幸いです。
こうした新規デバイスを用いた治療を導入するためには専門的な知識も多く必要とします。アダプティブDBS治療をはじめとした新規治療の研修のために他の医療機関からの医療関係者の見学を受け入れており、海外から当院へ訪問する例もありました。
脳神経内科
診療講師 木村 活生
脳神経外科
講師 川崎 隆