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がんゲノム医療の実践を目指して–難治胆道癌に新たな治療選択肢を– 胆道癌の稀少フラクションに対する特定臨床研究と付随研究の実施

2025年12月1日公開

難治胆道癌研究へのご支援のお願い

 胆道癌は、治療の選択肢が限られた難治性のがんです。
私たちは、がんゲノム医療を活用し、新たな薬の可能性を探る臨床研究を進めています。
このページでは、その研究の概要と、未来の胆道癌治療を支えるために行っている、クラウドファンディングの取り組みについてご紹介します。
【URL】https://readyfor.jp/projects/Cancer-Genome

対象疾患の概要

<胆道癌とは>

胆道癌(肝内胆管・肝外胆管・胆のう・十二指腸乳頭部に生じる癌)は、本邦では、年間年間約2.3万人が新たに診断され、約1.78万人の方が亡くなられています。
早期の段階では症状を伴わないことも多いため、進行して見つかる例が多く、5年相対生存率は約24%とされ,難治癌の一つに挙げられます。
(2024年推計・胆のう・胆管 国立がん研究センター がん情報サービス)

<胆道癌に対する薬物療法>

胆道癌に対する薬物療法は,極めて不足している状況にあります。
殺細胞性の抗がん剤であるゲムシタビン+シスプラチンを中心とした治療レジメンが開発され、近年では、ゲムシタビン+シスプラチンに、免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブやペムブロリズマブを上乗せした3剤併用療法が国際的な第一選択レジメンとして確立されて来ました。

しかしながら、この3剤併用療法での治療効果が乏しいと判断された場合には、極めて使用できる薬剤が乏しい状況にあります。
下図の右側に示しますように、がんゲノム検査による遺伝子異常に応じて保険承認された薬剤も存在しますが、その頻度は極めて少ない状況です。

現状と課題

2019年に保険収載されたがんゲノムプロファイリング検査は、患者さんの腫瘍にある遺伝子変化を明らかにし、適した薬剤の探索を可能にしました。
これは、個々の患者さんの癌細胞の遺伝子を調べ、癌化を引き起こしている遺伝子変化を特定し、薬剤の探索を試みたものです。
しばしば『ゲノム』という言葉は,あたかも万能の検査であるかのようなイメージをもたらしますが、実際に薬剤が投与されるケースは全体の約9.4%(全癌種, C-CAT調査)とされ、薬剤到達性の低さが問題となっています。
つまり、癌の原因となっている遺伝子異常を特定出来る時代が到来したにも関わらず、遺伝子異常に応じた薬剤が、十分に開発されていない現状にあります。

 

 また一方で、がんゲノム検査によって判明した遺伝子の変化に対し、他の癌種であれば提案される保険承認された薬剤が存在するケースも経験されます。
このような場合に、保険外での薬剤投与が可能となる訳ではなく、薬剤を使用できる治験や臨床試験を探索しますが、該当する試験は極めて少ない現状にあります。
もちろん、癌種が異なることによって治療効果にも差がある(有効ではない)可能性も挙げられますが、このような検証は速やかに行われるべきであると考えます。
実際、がんゲノム検査登場後には、癌種横断的に、遺伝子異常に応じた薬剤開発・臨床試験が実施されて来ました。

 私たちは、このようなジレンマに直面し、特定臨床研究として臨床試験を立案・開始しました。

難治胆道癌に、できるだけ早く新たな薬を届けたい

 それが本プロジェクトの原点です。

研究内容

胆道癌は、他の癌種に比べ,多彩な遺伝子変化が認められることから,個別化医療(Precision medicine)の実践が求められて来ました。
まだまだ、人類として有効に使用できる薬剤は限られている現状ですが、一部の遺伝子異常に対しては、既に他癌種で臨床応用されているものが存在します。
私たちは、胆道癌の多岐にわたるゲノム異常の中で、EGFR増幅とPI3K経路遺伝子の異常に着目し、他癌種で臨床応用されている薬剤を転用する形で臨床試験を開始しました。

EGFR増幅胆道癌に対するネシツムマブ(抗EGFR抗体薬)とゲムシタビン併用療法の第2相試験(NG-BEAT試験)

EGFR(epidermal growth factor receptor:上皮成長因子受容体)という遺伝子は、細胞の表面に存在する受容体で、細胞の増殖シグナルを制御することが知られて来ました。
大腸癌や頭頸部癌や肺癌では、このEGFRの発現量が高い細胞であることが知られ、このEGFRに結合してEGFRの働きをブロックする薬剤(抗EGFR抗体薬)の治療有効性が示され、実際に保険診療で使用されています。
一部の癌では、このEGFRの増幅(遺伝子の数が増える変化を指します)という変化が癌化を引き起こすことが報告されています。
EGFRが遺伝子レベルで増幅している癌に対して、EGFRの働きをブロックする抗EGFR抗体薬を使用することは、非常に理にかなっていると考えられ、実際に抗EGFR抗体薬の有効性の報告が散見されますが、世界的に見ても保険承認には至っていない現状です。

このような有効性が示唆される薬剤が存在するにも関わらず、未だ検証が行われていない理由の一つとして、EGFR増幅癌が稀少であることが挙げられます。
文献上、EGFR増幅を有する胆道癌は約2-4%程度と見積もられ、極めて稀少なフラクションであると考えられます。このような稀少さも相まって、未だ薬剤の有効性の検証が行われていない現状を打開すべく、私たちは、肺癌で保険承認されているネシツムマブ(抗EGFR抗体薬)とゲムシタビン(胆道癌治療のキードラッグ)を併用する第2相試験を開始しました。実際に、EGFR増幅を有する胆道癌の患者さんにネシツムマブ(抗EGFR抗体薬)が有用であったケースを報告しています。(Cancer Reports. 2024 Nov;7(11):e70053.

PI3K亢進型胆道癌に対するカピバセルチブ単剤療法の第2相試験(CAPiaB試験)

 PI3K(phosphatidylinositol-3 kinase)経路は、細胞内のエネルギー代謝や増殖に関わる経路で、過剰な活性化が癌化を引き起こすことが知られて来ました。このPI3K経路の異常は乳癌で高頻度に確認されて来ました。
これまでにPI3K経路をブロックする薬剤であるカピバセルチブが、PI3K経路の遺伝子異常を有する乳癌に対して保険承認されています。
 私たちは、胆道癌におけるPI3K経路の活性化について基礎研究を行ってきました。培養細胞やマウスモデルを用いて、PI3K経路の過剰な活性化が胆道癌を引き起こすこと、PI3K経路の阻害薬が有効であることを確認しています(論文作成中)。
 PI3K経路の活性化が示唆される遺伝子異常が確認される胆道癌は、文献上、約7%程度と見積もられ、稀少なフラクションであることが想定されます。カピバセルチブは2024年に保険承認された薬剤ですが、私たちはいち早く胆道癌への応用を行いたいと考え、第2相試験を開始しました。
 

トランスレーショナル研究

トランスレーショナル研究とは、患者さんの臨床検体を用いた基礎研究を意味します。臨床試験と基礎研究の融合によるアプローチは、大学アカデミアでしか出来ない、医学の発展に重要な取り組みの一つです。
 
私たちは、上述の臨床研究に並行し、患者様の血液検体等の臨床検体を用いた付随研究を進めさせて頂いています。
近年、『リキッドバイオプシー』という、血液中に循環する癌細胞由来の遺伝子を解析する技術が確立し、血液を用いて腫瘍の遺伝子変化を捉えることが可能となりました。当施設からも、血液中の癌細胞由来遺伝子が、治療のマーカーとして有用であることを報告してきました(Cancer Sci. 2020 Jan;111(1):266-278.)。
 
どのような場合に薬剤の効果が期待できるか、どのようにして耐性化が生じるのか、その機序の解明は医療の発展に資するものであると考えています。

クラウドファンディングへのご支援のお願い

横浜市大センター病院 がんゲノム診療科・消化器病センター内科では、難治性胆道癌に対する新しい治療選択肢を届けることを目指し、研究を進めています。
胆道癌は稀少ながんで、従来の治療法では十分な成果を得られないケースもあります。
こうした現状を改善するため、私たちは遺伝子情報に基づいた個別化医療の実現を目指し、特定臨床研究を立ち上げました。
研究・開発をさらに進めるため、クラウドファンディングでのご支援をお願いしています。
皆さまの応援が、1人でも多くの患者さんに新しい治療の希望を届ける力になります。
何卒、温かいご支援をよろしくお願い申し上げます。

【URL】 https://readyfor.jp/projects/Cancer-Genome

診療科からのメッセージ

これまで消化器内科医として、消化器癌の病態解明と治療法開発を目標に、診療と基礎研究に取り組んできました。最近では、がんゲノム検査を実施する部署を担当しています。
 
がんゲノム検査は、癌の種類ではなく,遺伝子異常に基づいた臓器横断的な薬剤治療(tumor-agnostic治療)の考え方に基づき推進されてきました.つまり、癌の発生臓器が異なっていても、遺伝子異常別に薬剤の有効性を期待出来るのではないか、という考え方です.
 
「ゲノム」という言葉から「最新で万能」という印象を持たれがちですが、検査結果から実際に薬剤使用に至る症例は、依然として非常に少ない状況です。これには、遺伝子異常に対応した薬剤のラインナップが少ないことだけでなく、薬剤へのアクセス面も、まだまだ未成熟であることが原因に挙げられます。
 
日常診療の中で、最も悩ましく思うのは、がんゲノム検査で特定された遺伝子異常に対して、他の癌種では保険承認された薬剤が存在するケースです.もし、こうした薬剤が存在したならば、当然、「試してみたい」と思うのは皆同じはないでしょうか。
 
保険診療のルールの中で、「適応外薬を目の前の患者さんに使うなんて漫画のエピソードのようなことだ」と思ってきましたが、ある患者さんとの出会いを機に、このような葛藤について深く考えるようになりました。
とはいえ、遺伝子異常が同じでも治療効果が必ずしも保証されるわけではありませんし、言うまでもなく、医療においては科学的な根拠を持った薬剤の使用・選択が必要不可欠です。
 
私たちはこのようなジレンマを克服するため、速やかに有効性を検証できる体制作りが喫緊の課題だと考え、このたび特定臨床研究として、特定の遺伝子異常に対応した薬剤の有効性を検証する2つの第2相試験を立ち上げました。いずれも、他の癌種で既に保険承認されている薬剤を胆道癌へと応用した試験です。本研究により、難治胆道癌への更なる個別化医療の実装を目指します。
 
研究・開発を発展させる資金として、広く皆様からのクラウドファンディングでの御寄付を募集させて頂きます。皆様のご支援を結実させ、胆道癌治療の発展に尽力したい所存です。何卒、温かいご支援の程、宜しく御願い申し上げます。

  • 左:廣谷医師  右:杉森医師

がんゲノム診療科
助教 杉森 慎

2004年4月 - 2007年3月 大阪大学, 工学部, 応用理工学科 中退
2007年4月 - 2013年3月 金沢大学, 医学部, 医学科 卒業
2013年4月 - 2015年3月 石川県立中央病院 初期臨床研修 修了
2015年4月 - 2016年3月 横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター内科
2016年4月 - 2020年3月 横浜市立大学附属病院 消化器内科
2016年4月 - 2020年3月 横浜市立大学 大学院医学研究科 医学博士取得
2020年4月 - 横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター内科
2021年4月 - 横浜市立大学附属市民総合医療センター がんゲノム診療科 助教