先端医科学研究センター先端医科学研究センター
search

第2期 平成21年度採択 研究開発プロジェクト

第2期 平成21年度採択 研究開発プロジェクト

1.シーズ開発プログラム

  プロジェクト名 プロジェクトリーダー サブリーダー
1 細胞悪性化機構の解明に基づくがんの診断・治療法の開発型研究 大野 茂男
(医学研究科 分子細胞生物学 教授)
宮崎 香
(生命ナノシステム科学研究科 ゲノムシステム科学専攻 教授)
2 がんの制御を目指した新しい治療基盤システムに関する開発型研究 窪田 吉信
(医学研究科 泌尿器病態学 教授)
中島 淳
(医学研究科 消化器内科学 教授)
上村 博司
(附属病院 結石破砕室 准教授)
3 プロテオーム解析手法を用いたがん早期診断のための新規バイオマーカーの開発 平野 久
(生命ナノシステム科学研究科 生体超分子システム科学専攻 教授)
4 ゲノム解析に基づくヒト疾病予測・診断法の開発 松本 直通
(医学研究科 遺伝学 教授)
矢尾 正祐
(医学研究科 泌尿器病態学 准教授)
5 ゲノム•プロテオーム•ICTを用いた生活習慣病予防に向けた開発型研究 梅村 敏
(医学研究科 循環器・腎臓内科学 教授)
寺内 康夫
(医学研究科 内分泌・糖尿病内科学 教授)
田村 功一
(医学研究科 循環器・腎臓内科学 准教授)
6 再生医療に向けた幹細胞操作法に関する開発型研究 谷口 英樹
(医学研究科 臓器再生医学 教授)
7 神経科学に基づく神経・免疫アレルギー疾患に対する新しい治療法の開発型研究 五嶋 良郎
(医学研究科 分子薬理神経生物学 教授)
竹居 光太郎
(医学研究科 分子薬理神経生物学 准教授)
8 磁性体抗がん剤の開発 石川 義弘
(医学研究科 循環制御医学 教授)
9 精神的ストレスに関する神経基盤の解明による新規治療薬の開発型研究 高橋 琢哉
(医学研究科 生理学 教授)
10 酵素活性の実時間追跡と構造解析による抗HIV治療薬の開発型研究 永田 崇
(生命ナノシステム科学研究科 生体超分子システム科学専攻 助教)
片平 正人
(生命ナノシステム科学研究科 生体超分子システム科学専攻 客員教授)

2.先端研究推進支援プログラム

  プロジェクト名 プロジェクトリーダー サブリーダー
11 画像情報と分子イメージングに関する研究支援体制の構築 井上 登美夫
(医学研究科 放射線医学 教授)
立石 宇貴秀
(医学研究科 放射線医学 准教授)
12 基盤研究シーズの出口戦略につなげる臨床試験支援体制の創成 棗田 豊
(医学研究科 臨床試験学 教授)

3.流動的若手プログラム

  プロジェクト名 プロジェクトリーダー サブリーダー
13 ガン細胞におけるフレームシフトおよびナンセンス変異遺伝子の網羅的同定法の開発 山下 暁朗
(医学研究科 微生物学 講師)
14 高齢化社会にむけた新しい心不全治療薬の開発 奥村 敏
(医学研究科 循環制御医学 准教授)
15 次世代遺伝子治療の実現に向けた効率的遺伝子挿入制御法の開発 足立 典隆
(生命ナノシステム科学研究科 ゲノムシステム科学専攻 教授)
16 男性不妊症の治療を目指した精子幹細胞の培養系および分化誘導系の開発 小川 毅彦
(医学研究科 泌尿器病態学 准教授)
大保 和之
(医学研究科 組織学 准教授)
17 微量組織・血液・画像バイオマーカーに基づいた進行性腎癌の個別治療の開発 中井川 昇
(附属病院 泌尿器科 准教授)


シーズ開発プログラム

細胞悪性化機構の解明に基づくがんの診断・治療法の開発型研究

医学研究科 教授(分子細胞生物学) 大野 茂男

がんの診断マーカーや制癌剤の創薬において、がん化及びその悪性化の要として働いている「キータンパク質」を同定する事が最大の課題となっており、様々な視点からのアプローチが試みられている。「キータンパク質」は、新たながんの創薬標的や診断マーカーの最大の候補となるからである。
本研究では、がんの悪性化の過程に重要であると目される、「細胞の極性」、及び「細胞と基質との接着」に特に着目し、それらがどのようにして、がんの悪性化と関わるのかを、幹細胞分取技術、プロテオミクス、イメージングなどの様々な方法論を駆使して解析し、「細胞の極性」、及び「細胞と基質との接着」に関わるキータンパク質を探索、同定する。
得られたキータンパク質の各々について、様々ながんにおける変化を調べる事により、新たながんの診断マーカーや創薬標的としての有用性を検証する。

がんの制御を目指した新しい治療基盤システムに関する開発型研究

医学研究科 教授(泌尿器病態学) 窪田 吉信

がんの制御に向けた新しい標的分子の解析と治療・診断・予防への応用の研究や方法の開発を行う。また、がんの診断・治療に向けた医工学連携研究を進め、基盤技術を開発する。具体的には、
  1. 前立腺癌の新しい治療法と化学予防法の開発の研究
  2. 生活習慣病による大腸癌の発がん促進分子の同定と新規大腸化学発癌予防法の開発研究
  3. 医工学連携研究による新しいがんの診断・治療法開発

プロテオーム解析手法を用いたがん早期診断のための新規バイオマーカーの開発

生命ナノシステム科学研究科 教授(生体超分子システム科学) 平野 久

これまで診断マーカーや創薬標的分子となるタンパク質を高感度、高精度かつハイスループットで検出・同定・評価するため、質量分析技術を中心にしたプロテオーム解析技術の開発研究を行ってきた。本プロジェクトでは、開発された最先端のプロテオーム解析技術を用いて、卵巣癌、肺癌、前立腺癌など、主として癌で発現が変動するタンパク質を網羅的に検出・同定し、それらが診断マーカーあるいは創薬標的分子として利用できるかどうか検証する。特に、血液中で検出できる診断マーカー候補タンパク質の探索を進める。また、プロテオーム解析技術を応用して、活性酸素により酸化修飾を受けるタンパク質を網羅的に解析し、それらの機能を明らかにする研究も行う。

ゲノム解析に基づくヒト疾病予測・診断法の開発

医学研究科 教授(遺伝学) 松本 直通

さまざまなヒト疾病の遺伝的要因を探索しその発症を予測する、あるいは診断をすることのできるバイオマーカーを同定する。疾病寄与度の高い因子の同定と並行し先端機器を用いた効率的な使用法を確立し、学内研究のレベルアップを図る。

ゲノム•プロテオーム•ICTを用いた生活習慣病予防に向けた開発型研究

医学研究科 教授(循環器・腎臓内科学) 梅村 敏

わが国で数千万にもおよぶ生活習慣病(がん、高血圧症、糖尿病等)の予防、管理、治療を目的とする。自宅でいつどこでも簡単に、被験者の負担が少なく測定できる生体情報測定センサーの開発と、それらを通信で送り、診断、指導していく健康ネットワークを作成する。関連遺伝子解析、アミノ酸分画による早期がんやメタボリックシンドローム診断のマーカーとしての活用、膵β細胞を増加させる糖尿病新規治療法の開発、新規本態性高血圧症感受性遺伝子の同定等を通して、動脈硬化性疾患やがんのオーダーメードな予防、治療を実施する。これらの実施により、脳血管障害による寝たきり患者の削減、がん死亡患者の削減、透析等で大量の医療費を消費する糖尿病患者の削減が期待できる。

再生医療に向けた幹細胞操作法に関する開発型研究

医学研究科 教授(臓器再生医学) 谷口 英樹

 新しい再生療法や抗癌療法の開発や創薬産業の高度化に向けて、ヒト幹細胞(iPS細胞・体性幹細胞・癌幹細胞など)の利用ニーズが急速に増大しつつある。本プロジェクトでは、各種幹細胞の医療応用と産業利用を目的として、幹細胞の選択的分離・培養・移植技術やクローン解析・ハイスループット解析技術などを活用することにより、さまざまな幹細胞の制御機構を解明するとともに、医療・産業応用のための幹細胞操作技術を開発することを試みる。

神経科学に基づく神経・免疫アレルギー疾患に対する新しい治療法の開発型研究

医学研究科 教授(分子薬理神経生物学) 五嶋 良郎

神経軸索ガイダンス分子セマフォリン3Aがアトピー性皮膚炎モデルマウスにおける症状を改善するとの知見を契機として、その他の眼アレルギー、皮膚掻痒疾患、気道アレルギー疾患などの免疫アレルギー疾患モデルにおいても広くその有効性を確認する。一方、セマフォリンの大量タンパク精製系を確立し、前臨床試験、臨床試験への糸口を得るための知見を集積する。一方、神経再生促進因子LOTUSのタンパク精製系を確立し、脊髄損傷モデルにおける有効性の有無を検討する。

磁性体抗がん剤の開発

医学研究科 教授(循環制御医学) 石川 義弘

我々は、磁石につき、抗がん効果を持つ物質を同定し、新規磁性体抗がん剤として医薬分野での応用を目指している。既に、癌モデルマウスに磁性体抗がん剤を投与後、磁石により磁性体抗がん剤を癌に集めることで、癌を縮小させている。すなわち、癌に磁石によって抗がん剤を効率良く集めるドラッグデリバリーシステム(DDS)を可能にした。さらに、この磁性体抗がん剤が温熱療法にも応用可能であることが見出され、磁性体抗がん剤の利用により、化学療法と温熱療法の両者の効果が期待される。そこで、今後の研究として、(1)磁性体抗がん剤を利用した新たな温熱化学療法の開発に取り組む。また、(2)臨床実験を目指した磁性体抗がん剤の体内動態や安全性を決定していく。
本研究によって、磁性体抗がん剤を利用したDDSの他、温熱化学療法への応用が臨床応用されれば、投薬量の減少により大幅に副作用を軽減した新たな癌治療法が確立できると期待している。

精神的ストレスに関する神経基盤の解明による新規治療薬の開発型研究

医学研究科 教授(生理学) 高橋 琢哉

ストレスは生活習慣病の原因となる。本研究はストレスが脳内回路に及ぼす影響を分子細胞レベルで解析していくというものである。発育期の精神的ストレスはその後の人格形成に多大なる影響を及ぼす。本研究においてはすでに発育期の精神的ストレスがグルタミン酸受容体であるAMPA受容体のシナプス移行を阻害し、それがストレスホルモンを仲介したものであることを明らかにしている。今後は1)二光子顕微鏡を用いたin vivo分子細胞イメージング、2)ストレスホルモンによるAMPA受容体シナプス移行阻害の分子メカニズムの解明を目指す。さらにこれらの分子レベルでの成果を元に多数の化合物ライブラリースクリーニングを行い、発育期のストレスに起因した精神疾患の根本治療薬の開発を目指す。

酵素活性の実時間追跡と構造解析による抗HIV治療薬の開発型研究

生命ナノシステム科学研究科 助教(生体超分子システム科学) 永田 崇

ヒトのAPOBEC3Gタンパク質(以下A3G)は、HIVのマイナス鎖DNAに作用し、シトシンを脱アミノ化してウラシルに改変する。こうしてHIVのゲノムを無意味なものにし、抗HIV活性を示す。本研究ではA3Gによる塩基改変反応を、NMRシグナルを用いてリアルタイムでモニタリングする事を試みる。これによってA3Gによる塩基改変の反応機序に迫り、抗HIV活性の本質を理解する。
一方HIVのVifタンパク質は、A3Gをユビキチン化して分解へと導く。最近ヒトのHsp70タンパク質がVifと相互作用して、A3Gが分解されるのを阻害する事が見出された(千葉工大・高久等)。本研究ではHsp70とVifの相互作用様式を解析し、それに基づいてヒトのHsp70由来のペプチドによって、VifによるA3Gの分解を阻害する事を目指す。これによりHsp70由来の新規抗HIVペプチド薬の開発基盤を確立する。

先端研究推進支援プログラム

画像情報と分子イメージングに関する研究支援体制の構築

医学研究科 教授(放射線医学) 井上 登美夫

本研究では、近年、創薬において生産性向上につながることを期待し開発されている汎用的サロゲートマーカーを分子イメージングを中心とした放射線医学の手法を中心に探索すると同時に、患者識別、治療効果、または、副作用発現を可能にする予後関連バイオマーカーを探索し、広く創薬支援に寄与することを目的とする。さらにコンピュータ自動診断システムを開発し、得られうる画像情報を評価し、探索されたバイオマーカーを客観的にとらえる。このような研究成果をもとにPETを用いた探索的臨床試験や第I相治験を行う独自の体制を本学に整備し、個別化医療の実現、医療費の削減などの社会貢献に繋がる研究を行う。

基盤研究シーズの出口戦略につなげる臨床試験支援体制の創成

医学研究科 教授(臨床試験学) 棗田 豊

米国ハーバード大学やデューク大学など世界のトップレベルの医学研究・教育機関と提携し、新薬や医療機器開発のための治験、臨床試験、臨床研究、トランスレーショナル研究を共同で実施できる体制を整備するとともに、開発初期のプロジェクトを共同で進め、ノウハウを学び、人材を育成しつつ基礎研究から実用化までの効率の良い流れを創る。さらに、本学はじめ横浜・神奈川地域で蓄積された有望な基礎研究シーズをこの流れに乗せれば、日本発グローバル開発への道を大きく拓くことに繋がる。研究シーズのいくつかを成功に導き、新たな産業と雇用を創出するためには米国FDA、日本のPMDAなど審査機関との良好な関係構築と人材交流を含む協力・連携が重要であるが、FDAとの共催国際学術ワークショップの開催やPMDAとの連携大学院創設を成功させることなどを通じ、連携強化を図る。

流動的若手プログラム

ガン細胞におけるフレームシフトおよびナンセンス変異遺伝子の網羅的同定法の開発

医学研究科 講師(微生物学) 山下 暁朗

これまでに異常終止コドンを認識しているmRNA監視複合体の同定に成功している。この成果を元に、異常終止コドン認識複合体に含まれるmRNAの配列を次世代シークエンサーにより解析することにより、ガン細胞が有する終止コドンを生じる遺伝子変異を網羅的に解析する方法の開発を目指す。これにより、全変異の1/3を占めるといわれる異常終止コドンを生じる変異について、迅速、低コストの遺伝子変異診断が可能となる。この手法は、がん以外の遺伝性疾患にも直ちに適用できる。現在大きく必要性がさけばれている個別医療の基礎技術確立に向け、大きな研究成果が期待できる。

高齢化社会にむけた新しい心不全治療薬の開発

医学研究科 准教授(循環制御医学) 奥村 敏

心不全は全ての心臓病の末期像でありその患者数は年々増加傾向にある。ベータアドレナリン受容体遮断薬(ベータ遮断薬)は心不全治療の代表薬であるが、導入初期の心機能抑制と呼吸機能抑制という副作用は高齢者では大きな問題である。研究代表者は心臓特異的に発現するアデニル酸シクラーゼサブタイプ(AC5)欠損マウスの解析から、同酵素を選択的に阻害することで、心機能や呼吸機能抑制を起こさずにベータ遮断薬と同等の心不全治療ができる基礎データを報告した。本申請の目的はAC5特異的抑制剤を高齢者にも安心して使える心不全治療薬として開発することである。

次世代遺伝子治療の実現に向けた効率的遺伝子挿入制御法の開発

生命ナノシステム科学研究科 教授(ゲノムシステム科学) 足立 典隆

我々は最近、ヒト細胞の遺伝子を効率良く破壊できるシステムを開発した。ヒト変異細胞は、個々の遺伝子機能解析に有用なだけでなく、種差を考慮する必要のない優れた疾患モデルあるいは薬効評価ツールとして、医療・創薬分野への幅広い応用が期待される。本プロジェクトでは、こうしたヒト変異細胞を活用し、ゲノム不安定性疾患(がん、老化、神経疾患)の原因となっている遺伝子群の機能解析を系統的に進めるとともに、細胞に導入した遺伝子がゲノムDNA中に組み込まれる反応(遺伝子挿入)の仕組みを詳細に解析し、次世代遺伝子治療の実現に向けた効果的な遺伝子挿入制御法の開発を目指す。

男性不妊症の治療を目指した精子幹細胞の培養系および分化誘導系の開発

医学研究科 准教授(泌尿器病態学) 小川 毅彦

本プロジェクトは男性不妊症の原因である精子形成障害の病因を明らかにし、新しい治療法の開発に結びつけることを目的としています。10組に1組の夫婦は不妊に悩んでいます。原因の半分は男性側にあり、その多くは精子形成障害に起因します。精子形成障害の病因は不明のままであり、有効な治療法もありません。ここ数年で、モデル動物であるマウスにおいては、精子幹細胞の培養が可能となりましたが、まだヒトを含む多くの動物種においては、精子幹細胞の培養は未成功のままです。本プロジェクトでは、すでに成功しているマウスにおける精子幹細胞の増殖・分化の機構を詳細に検討し、この培養系を改良することにより、ヒト精子幹細胞の培養を目指します。さらに精子幹細胞から、受精可能な段階までの精子形成分化系の開発を試みます。

微量組織・血液・画像バイオマーカーに基づいた進行性腎癌の個別治療の開発

大学附属病院 准教授(泌尿器科) 中井川 昇

腎細胞癌は腎実質に発生する悪性腫瘍の総称であり、その性質は様々である。臨床経過が緩やかなものもあれば、急激に進行し生命予後が極めて悪いものもある。また、薬物療法が奏効するものあれば、反応しないものもある。しかし、臨床の場ではCTスキャン等の画像診断にのみ頼って腎癌と診断を下し、臨床統計によって有効とされる治療薬を一律に投与している。そこで患者にとってできる限り低侵襲な方法で個々の症例の臨床経過を予測することを可能にする以下のバイオマーカーを確立し、これに基づいた個別治療体系を開発する。
(1)微量組織バイオマーカー:低侵襲な針生検で採取可能な微量癌組織を用いて腎癌の確定診断および予後、薬物療法に対する反応を予測する。
(2)血液バイオマーカー:血液検査によって確定診断、予後、薬物療法に対する反応を予測する。
(3)画像バイオマーカー: FDG-PET/CTを用いて腎癌の予後、薬物療法に対する反応を予測する。

施設および機能