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竹居光太郎准教授らの研究グループが、脳脊髄の神経再生を阻む作用を抑制する新規分子LOTUSを発見−米科学誌Scienceに掲載−

― 神経再生治療法の開発に可能性 −

横浜市立大学医学部および同大先端医科学研究センターの竹居光太郎准教授と佐藤泰史研究員らの研究グループ(医学部分子薬理神経生物学教室:五嶋良郎教授)は、国立遺伝学研究所、理研発生再生総合研究センター、および米国エール大学医学部との共同研究において、嗅覚系神経投射路の形成に重要な役割を果たす新規分子を発見しました。
同研究グループは、独自開発したユニークな機能的スクリーニング法を用いて嗅覚情報伝達の神経投射路である嗅索(Lateral olfactory tract: LOT)*1の神経束形成に必須の分子を発見し、LOTUS(Lateral Olfactory Tract Usher Substance)と命名しました。今回、LOTUSは神経再生を阻む主原因となるNogo受容体を介した神経突起伸長阻害作用を抑制し、その抑制作用で神経束を形成させることが明らかになりました。一般に、脳や脊髄といった中枢神経系は、一旦損傷を受けると再生が非常に困難ですが、その主要因として、このNogo受容体を介した神経突起伸長阻害作用が挙げられます。そのため、発生・発達過程におけるLOTUSによる神経回路形成機構を利用した神経再生治療法の開発の可能性があり、今後の研究発展が脊髄損傷などに対する治療法の開発に繋がると期待されます。

※本研究は、米国東海岸時間2011年8月5日に発刊される米国科学雑誌『Science』に掲載されます。
※本研究は、文部科学省科研費-基盤研究(B)、科学技術振興機構-CRESTなどの助成により行われました。

8月3日に行われた記者会見の様子(文部科学省記者会見室)

研究の背景

中枢神経系(脳脊髄神経系)は損傷を受けたり、病変によって変性すると再生することが極めて困難であることが知られています。その主要因の一つとして、髄鞘*2由来の3種の神経突起伸長阻害物質(Nogo, MAG, Omgp)や炎症性物質BLySといった物質が神経細胞上に在るNogo受容体と結合すると、神経細胞の軸索*3の突起伸長が著しく阻害されることが挙げられます。このように、脳内に存在する物質が神経の再生過程に必須の神経突起伸長を妨害するため、神経再生治療法を考える上では、これらの原因物質とNogo受容体による阻害作用の軽減が最重要事項となっていますが、未だ奏効するアイデアや創薬成果は見当たりません。 同研究グループは、再生困難な脳神経系の中でも、比較的再生能力のある嗅覚神経系に着目し、嗅覚情報の伝導路である嗅索形成に重要な物質を探索した結果、新規分子LOTUSが同定されました。LOTUSは中枢神経系の再生を阻害する原因物質に共通した受容体であるNogo受容体と結合し、神経突起伸長作用を妨害する仕組みを抑制することで脳神経回路形成に寄与することが明らかになりました。この機構は、今までに知られている機構とは全く異なる新しいもので、本研究によって脳神経回路形成のメカニズムにおける新しい概念が提唱されました。 また一方で、Nogo受容体を介した神経突起伸長阻害作用の機序の解明など、Nogo受容体の機能制御を目的とした基礎研究や創薬研究が世界中で行われていますが、未だ奏効する研究成果は見当たりません。今後、内在性のNogo受容体拮抗物質として見出されたLOTUSの脳神経回路の形成機構における生理作用を利用する新たな神経再生治療法の開発が期待されます。尚、横浜市立大学は、LOTUSの生理作用に関する2件の特許申請を行っています。

研究の内容

光照射分子不活性化法をベースにした機能的スクリーニング法(SELT-FALI法)を開発し、マウス胎生期脳の器官培養系に適用して嗅索形成に関わる機能分子を探索しました。その結果、当該分子を機能阻害すると嗅索の神経束形成に異常をきたす新規分子が発見され、LOTUSと命名しました。更に、LOTUSと相互作用する分子について探索した結果、Nogo66受容体(NgR1)を同定しました。次に、これらの分子のマウス胎生期脳における発現を検討した結果、LOTUS・NgR1双方とも形成途上の嗅索上に発現することが分かりました。
 NgR1は神経再生を阻害する因子に共通する受容体として知られる分子で、形成途上の嗅索には前出の阻害因子の一つであるNogoが発現していることから、NogoとNgR1のリガンド*4・受容体結合におけるLOTUSの生理作用を検討しました。その結果、NgR1と同一細胞上に発現するLOTUSは、細胞膜上でのそれらの結合を介してNogoとNgR1のリガンド・受容体結合を完全に阻害することが判明しました。
 そこで、LOTUSの遺伝子を欠損するLOTUSノックアウト(KO)マウスを作製し、嗅索を蛍光色素で可視化してその形成状態を調べたところ、嗅索の神経束がバラバラになる脱束化が認められました。LOTUSのNgR1に対する拮抗作用*5が嗅索形成に関わることを証明するため、LOTUSとNgR1の双方を欠損するダブルKOマウスを作製して同様に検討したところ、LOTUS-KOで見られた嗅索の脱束化は認められず、LOTUS-KOの表現型がNgR1-KOを加えることでレスキューされていることが確かめられました。従って、LOTUSは生体において内在性のNogo受容体拮抗物質として機能し、嗅索形成にその拮抗作用を介して寄与すると結論しました。

今後の展開

今回、本研究によって脳脊髄の神経再生を困難にしている原因物質の作用を抑制するLOTUSが発見されたことにより、神経系の発生・発達過程で機能するLOTUSの生理作用を利用した神経再生治療法の開発などが期待されます。

*1 嗅索(LOT):空気中の化学物質は鼻腔の天蓋、鼻腔の奥にある粘膜の嗅細胞によって感知される。この嗅細胞の細胞膜上に在る嗅覚受容体に分子が結合して感知され、さらに受容体を介して電気信号が発生する。その電気信号が嗅神経を伝わり、まず一次中枢である嗅球へと伝わる。嗅球でシナプスを介して異なる神経細胞に電気信号が伝わり、その神経細胞から伸びる軸索突起(嗅索)を通じ、大脳皮質の嗅皮質などに伝わり(2次投射)、電気信号が情報処理をされて「臭い」として脳で認識される。この嗅球から嗅皮質などに伝わる経路を嗅索いう。
*2 髄鞘(ミエリン):神経線維の軸索の表面をおおう円筒状の被膜で、神経膠細胞の膜で作られる。軸索に対する電気的絶縁装置の役割を持ち、太くて速やかな興奮伝導を行う神経線維(有髄線維)に見られる。髄鞘膜に存在するNogo, myelin associated glycoprotein (MAG), oligodendrocyte myelin glycoprotein (Omgp)は、神経細胞の膜上に存在するNogo受容体に共通に結合し、神経突起の伸長を阻害する。むやみに神経再生して無秩序な神経回路が作られないようにするために、このような神経再生阻害が奏効すると考えられているが、失われた神経伝導路の再建においては大きな支障となっている。
*3 軸索:神経細胞体の突起の中で最も長い突起で、末端の効果器に信号を伝達する役割を担う。
*4 リガンド:特定の受容体に特異的に結合する物質のこと。リガンドが対象物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を発揮する。
*5 拮抗作用:2種類の物質を併用した場合にその作用が減弱する現象のこと。