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中谷教授、日本フードシステム学会学会誌賞を受賞

2018.07.12
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データサイエンス学部中谷教授、日本フードシステム学会学会誌賞を受賞

2018年6月16日(土)、学術院国際総合科学群データサイエンス学部 中谷朋昭教授は、東京大学農学部弥生キャンパスで開催された2018年度日本フードシステム学会大会で学会誌賞を受賞し、表彰されました。
 
掲載論文
 
この度、中谷先生に論文や受賞の感想についてインタビューしました。

-今回の学会誌で掲載された論文は、どのような内容なのでしょうか?また、どのような点が今回の受賞につながったのでしょうか?

金融データの時系列解析に用いられてきた「共和分分析」という手法を、日本人の三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)摂取のバランスを記録した時系列データに応用して、戦後日本の食生活の変化を明らかにしました。高度経済成長期以降、日本の食生活はバランスの取れた理想的なものであると認識されてきました。本研究では、特に2000年以降、このバランスが急激に崩れている様子を統計解析から明らかにしました。

食生活のバランスの崩れは以前から指摘されてきましたが、それは、脂質の摂取比率増加が原因ではないか、というものでした。私達の研究では、たしかに脂質の摂取比率は増加しているものの、それは相対的なものであって、炭水化物の摂取比率減少による影響が大きいことを指摘しました。コメ消費量の減少トレンドに加え、「糖質制限ダイエット」なども関係しているかもしれません。

このような研究テーマは、伝統的にはフードシステム学や栄養学の領域に分類されます。私達の論文は、従来の学問領域の課題を、データサイエンスの方法で新たな切り口から明らかにしたもので、この点が評価されたのだと考えています。

-今回の学会誌に論文掲載されることになった経緯や、学会誌賞を受賞された感想、エピソードをお聞かせください。

この論文は、前任校である北海道大学での卒業論文指導が出発点です。このときは、共著者の一人である学生が、20年ほど前の論文を参考にしつつ新しいデータを追加した分析を行ったのですが、その指導の過程で、参考にした論文で使われている統計解析の手法を改良して、理論的により精緻な物にできることに気付きました。
 
しかし、そこからが長い道のりでした。数学上の論理展開のギャップが埋まらずに、1年以上の時間が過ぎてしまいました。あるとき、もうひとりの共著者である学生を交えて議論をしていたところ、彼がホワイトボードに何気なく書いた数式が、まさにこのギャップを埋めるきっかけとなりました。

論文として学会誌に掲載される前に、2017年6月の日本フードシステム学会大会においてシンポジウム招待講演として報告しました。分析結果に対しては、栄養学の研究者の方々にも興味を持っていただいたようでした。その後、シンポジウムにおけるコメントを取り込んで原稿を作成して、学会誌に投稿しました。

学術論文は一般に、投稿後、複数の専門家による匿名の審査をパスしない限り、論文として雑誌に掲載されることはありません。審査の過程では、かなり厳しい修正要求に応えていかなければなりません。これができないと、「リジェクト」といって掲載が拒絶されてしまいます。私達の原稿も、このプロセスを経てようやく掲載に至りました。共著者の二人の学生は、初めて経験した厳密な審査手続きに相当なショックを受けていたようですが、数度のやり取りを経て論文として受理された際には、自分たちの研究の正しさを専門家に認めてもらえたという喜びを強く感じたようです。

-今回の受賞を、今後の研究活動等でどのように生かしていきたいとお考えでしょうか?

受賞そのものを研究活動に生かしていくのは難しいですが、基礎を踏まえてきちんと研究をしていけば、やがて新しいアイデアに繋がり、研究者の世界で認められて評価されるんだ、ということをデータサイエンス学部の学生さんたちに伝えていきたいと考えています。
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