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未来の臨床研究者たちへ
石川学長が語るビジョン:後編

臨床研究に携わるみなさんへ

石川学長に次世代臨床研究センター(Y-NEXT)をご訪問頂きました。 石川学長に次世代臨床研究センター(Y-NEXT)をご訪問頂きました。(2024/10/1)

Profile

横浜市立大学 学長 石川 義弘




石川 義弘 (横浜市立大学 学長)

Y-NEXT センター長 山本 哲哉 


山本 哲哉(横浜市立大学附属病院 次世代臨床研究センター長)

Y-NEXT会議室

2024年10月、石川学長がY-NEXTを訪問されました。「臨床研究」のやりがいやご自身の経験談も交え、横浜市大の「臨床研究」を推進すべく、研究に携わる全ての方や未来の研究者に向けて熱いメッセージをいただきました。

※当ページでは後編をお届け致します

若い研究者が「世界一位になるチャンス」

山本センター長:
「臨床研究は簡単だよ」のお言葉には、はじめは「えっ?」と思ったのですが、研究費の獲得にしても研究にしても情報の共有が非常に重要で、それを知ったうえであれば容易に出来るようになるということでした。確かに研究費の獲得に関しても「グループ内で経験値のある研究者と初めて研究に取り組むメンバーが皆で集まって、アイデアを出し合っていく」ということは今までもやってきたのですが、そういった情報共有の重要性を改めて感じました。

研究費の獲得だけでなく「学位を取得して、研究者としての基盤を築き始める若い世代」そういう方たちに対する期待が非常に大きいのではないかと思います。学長は海外も含めて長く臨床に携わっておられて、研究も時間をかけてなさっておられるかと思いますが、研究の楽しさを若手にどのように伝えていくのか、その辺りを教えていただけますでしょうか。
石川学長:
「臨床研究でこんな有効性を発見した」ということで論文を書くとします。研究を通じて新たな発見をしたのですから、若い論文執筆者であっても瞬間風速ではありますが「その分野で世界一の権威」になれるのです。翌月には別の論文が出てしまうかもしれないですが、若い研究者が「世界一位になるチャンス」を得られるのです。こんなに素晴らしいことは滅多にありませんし、これが何よりの醍醐味だと思います。それだけではなく、ワクワクドキドキすることが沢山ありますから、それを是非若い研究者にも味わっていただきたいです。

石川学長
山本センター長:
若い研究者にとって大きな光明となる素敵なお言葉をありがとうございます。

研究は大学にとってポジティブな投資

山本センター長:
我々Y-NEXTの研究支援には「有償支援」と「無償支援」があります。有償支援は、しっかり研究費を獲得された研究者から依頼が入ってきますので、大きな支援も出来るのですが、一方でワクワクドキドキが始まった若手を無償支援で何とかサポートしてあげたいと思います。しかし現場としては予算も対応できる仕事の量にも限界がありますし、いつもジレンマを抱えているのですが、どのように考えて進めていけば良いものでしょうか。
石川学長:
大学経営の立場でお話をしますと、臨床研究は大学にとって投資だと思っています。将来の大きな収益源になると期待していますし、非常にポジティブな意味での投資だと思っています。ただし、投資ですからしっかり目利きをしながらサポートをしていかなければいけません。予算を決める上層部は、必ずしも臨床研究のプロばかりがいる訳ではないので、現場のジレンマは分からないと思います。経営陣への情報の伝達や橋渡しは、私が是非やらせいただきますので、どうぞ情報を共有してください。

ときには取捨選択する勇気を

山本センター長:
臨床研究を行うにあたって「医師の働き方改革」も大きな課題です。タスクが積み重なる中でも、研究にはこれまで以上に注力して時間を割かなければいけない状況です。業務の効率化、医師の働き方改革について学長からアドバイスをいただけないでしょうか。

石川学長:
わが国で臨床研究を行っていく以上、法律は守っていかなければなりません。医師の働き方改革は、医師だけではなく国民全体をターゲットにしています。例えば、アメリカの医師は日本ほど長時間働いてはいません。それでもきちんと臨床試験は回っていて、主要な雑誌に掲載されているのはたいていアメリカの論文です。医師に限らず全ての方々が長時間働かなくても、成果を出すことが出来ているのです。どうやって合理的に事業の分担をしていくかが重要なのです。

学長になって感じたのは、業務を進めるにあたって無駄がまだまだ多いということです。「精神的にやりたい」のと「合理的にやること」には少し乖離があります。人間は、これまでやっていた方法を変えるのは、非常に難しいと思います。でも、変えていかなければいけないことは沢山あります。確かに、予算も時間もなく、人も足りない。その中で何とかやっていかなくてはいけない。それは大変な話ですけれど、しっかりと仕事のやり方と内容を整理して、成果を出せる働き方に変えていかなくてはいけないと思います。どうか皆さん、続ける覚悟も必要ですが、続けない覚悟も必要だと思って進めて行ってください。
田野島副C長


田野島副センター長:

医師の働き方改革が進む中で、研究支援組織であるY-NEXTが持つ役割は大きくなっていきます。我々も合理化を進め、何を重点的にどこに支援していくか考えていかねばなりません。ある程度は投資として学長にもご配慮いただいているので、上手くバランスを取りながら支援を行っていくという理解でよろしいでしょうか。
石川学長:
アメリカのUSスチールの買収の話を耳にしますが、仮に「日本の鉄鋼産業がなくなる」としても、海外から資材を輸入すれば何とかなるかもしれません。しかし医療がなくなったら困ります。治療をアメリカにお願いするという訳にはいきません。「日本人にとって一番良い治療計画」を外国に頼む訳にはいかないのです。人間が生きていくうえで、医療は絶対に最後までなくなりません。そういう意味で言うと、医療はこれからも成長産業であり続けるのだと思います。

日本はどんどん人口が減っていく一方で、高齢者の割合がどんどん高くなっていきます。高齢者が少なかった頃は気にならなかった病気がメジャーになり「これから臨床研究の対象」になっていきます。臨床研究が途絶えることは、まずないですし、むしろこれから臨床研究をどうやって強化していくかが重要になります。



山本センター長:
まだまだ取り組まなければならないことが沢山ありますね。過去から縦断的に引きずっている課題に翻弄される中、本来取り組むべき事柄が見えなくなっている。我々研究者は、一度立ち止まり、勇気をもって取捨選択することが大切ですね。

食べないと美味しさが分からない

山本センター長:
最後に、臨床研究に携わる全ての方、未来の研究者に向けて、石川学長からメッセージをお願いします。

石川学長:
若手の研修医の皆さん、研究はですね、是非、一生に一回はやってみてください。

例えば、インドに行くと非常に美味しい唐辛子があります。僕はカレーライスが大好きなのでインドに行く度にその唐辛子を買いに行くのですが、一度はその唐辛子を食べてみて欲しい。なぜなら「食べないと美味しさが分からない」からです。臨床研究も同じです。「やる」のは大変ですが、成果が出た時「面白い」。瞬間風速で世界一になれる。とにかくやってみなければ、この唐辛子と同じでその美味しさが分からない。インドの唐辛子はわざわざヒマラヤまで行かないと買えませんが、臨床研究だったら、今すぐ、この横浜市立大学で出来ますよね。



とうがらし

プロが育てるから美味しい

石川学長:
インドの唐辛子は野生に生えているだけではなく、実は「育てて」いるんです。カシミールチリというのですが、現地で育てています。そして、育てている人達が「プロ」だから、美味しい。

これと同じで、良い臨床研究というのは、いくら研修医や大学院生がやろうと思っていても、彼らだけでは出来ないのです。サポートしてくださっている職員や専門職の方がいて、はじめて成し遂げられるのです。
臨床研究というのは、チームの研究成果だと思います。研究にかかる資金の獲得、各種申請手続き、患者さんのリクルート、データの管理…まさに全員の共同作業なのです。

私がアメリカにいた頃、様々な大規模臨床研究に関わってきました。論文にはもちろん研究者の名前が掲載されますが、一番光っていたのは、データハンドリングしてくれた方や組織全体でサポートしてくれた方々への謝辞です。サポートがなければ、研究は全く動かないですから。研究をサポートしてくださっている方には、是非、プライドを持って支援していって欲しいと思います。

山本センター長:
素晴らしいお話をありがとうございます。

研修医の熱意が医療の常識を覆した

石川学長:
それともう一つお伝えしたいことがあります。

1970年代に、心不全の世界の常識をガラリと変えた画期的な論文が発表されました。
私の学生時代は、「慢性心不全に対してβブロッカー(遮断薬)は禁忌」というのは常識中の常識でした。内科学を学ぶにあたってはバイブルともいうべき『ハリソン内科学』を執筆したブラウンワルド博士も「βブロッカーは禁忌だ、投与しちゃいかん」と断言していました。

ところが、スウェーデンのある病院から、慢性心不全にβブロッカーを投与したら良くなったという研究が発表されました。発表したのは、なんと研修医です。その道の権威の持論に対して真っ向から異を唱えて論文にしたんですね。「常識外」とも思われたこの研究を支えた病院の管理職、看護師、事務の方々は批判も受けたでしょうし、本当に大変だったと思います。

でもそれが、その後何千万人の命を救うことに繋がった。臨床研究って、そんなことも出来るんです。
是非そんな論文がこの横浜市大から出るといいなと思っています。

 

石川学長
山本センター長:
我々のような指導的立場にある者は、常識にとらわれたり、慣れた考え方に固執したりせずに、若い研究者の着想を拾い上げて、研究の新しい芽として育んでいく姿勢が必要だと感じました。学長、本日は大変貴重なお話をいただき本当にありがとうございました。

石川学長:
臨床研究のますますの発展に向けて、研究者のみなさんのこれからの取組みに大いに期待しています。

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