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未来の臨床研究者たちへ
石川学長が語るビジョン:前編

臨床研究に携わるみなさんへ

石川学長に次世代臨床研究センター(Y-NEXT)をご訪問頂きました。 石川学長に次世代臨床研究センター(Y-NEXT)をご訪問頂きました。(2024/10/1)

Profile

横浜市立大学 学長 石川 義弘




石川 義弘 (横浜市立大学 学長)

Y-NEXT センター長 山本 哲哉 


山本 哲哉(横浜市立大学附属病院 次世代臨床研究センター長)

Y-NEXT会議室

2024年10月、石川学長がY-NEXTを訪問されました。「臨床研究」のやりがいやご自身の経験談も交え、横浜市大の「臨床研究」を推進すべく、研究に携わる全ての方や未来の研究者に向けて熱いメッセージをいただきました。

※当ページでは前編をお届け致します

日本の臨床研究は発展途上、未開拓のブルーオーシャン

山本センター長:
本学の方針である「『研究の横浜市立大学』の発信」について、石川学長の思いや考えを「臨床研究」の分野に期待することも含めてお聞かせください。

石川学長:
日本における臨床研究の歴史は、非常に短いです。

私はアメリカで長い間臨床研究をしていたのですが、アメリカと比べると日本の臨床研究はまだまだ成長過程にあります。言わば「ブルーオーシャン」が広がっている状態。競争相手が少なく、電子カルテ等の医療データの本格的な活用もこれからという状態なので、伸びる余地があると思っています。皆さんの研究への取り組みが、これからの日本のスタンダードを創っていくことになるのです。

そのような日本の現状の中で、私が『研究の横浜市立大学』を発信していきたいと思う理由は非常に単純です。本学で一番マンパワーが大きく歴史も長いのは医学部であり、医学研究の中でも特に人的パワーが必要になる臨床研究がメインになっていくのは明白だからです。

臨床研究をどうやって盛り立てていくのか、というのがこれから大きな課題になると思います。

改めて注目すべき「日本人データの貴重性」 

石川学長:
臨床研究というのは、その国や地域、そしてそこに住む人々でやっていかなければならないというのが世界的トレンドになっています。

日本の学会も様々なガイドラインを出していますが、大抵は欧米のものを真似て書かれています。日本を含めたアジアの方々は、被験者としてほとんど組み込まれていないのが実情です。

昨今、個別化医療で明らかになってきたことですが、医療というのは遺伝子情報、生活習慣、様式、気候等に左右されます。ですから「日本における多面的視点でのデータ」を収集することは重要なことだと考えています。

私はアメリカにいた頃、アフリカ系専用の心不全の薬の開発研究に関わった経験があります。特定の人種専用の薬というのが世の中にあるくらいですから、日本を含めたアジア系、温帯地域でその土地の食生活を営む方々にとってのベストな治療というが絶対に存在するはずです。

それと同時に、人間というのはホモサピエンスの種ですから、共通する研究というのもあります。そうした大所高所から捉えた臨床研究にも取り組んでいかなければならないと思っています。


石川学長

本学の強みは「学内と学外のネットワーク」

山本センター長:
臨床研究の分野における本学の強みについてお考えを伺えますか。

石川学長:
人口370万人を有する政令指定都市の横浜が本学のホームです。

一方、地方の大学病院の診療圏は数十万人程度のところもあります。本学は、いわば地方の大学病院の十倍以上の人口規模に向き合っている訳ですね。

しかも神奈川県内の中枢を担う病院のほぼすべてに医師を輩出しております。また、横浜市の関連する病院からなる「横浜臨床研究ネットワーク」は、8,000床近い巨大な規模となります。それらがまず大きな強みになっています。

もう一つの強みは、中規模大学であるがゆえに、医学部と他の学部の教員が話しやすいということがあります。以前大きな大学の教員の方々と共同研究をする機会がありましたが、各学部が完全に独立独歩しており、医学部の中にデータサイエンスや経済の専門家もいらして自己完結していました。一方で本学は、国際教養学部、国際商学部、理学部、データサイエンス学部の教員が目に見えるところにいらして、ちょっと手を伸ばせばコンタクトできる規模なのです。

看護学科を含む医学部、附属2病院、Y-NEXTが、学内の各学部と共同して研究に取り組んでいけるということが、非常に大きなアドバンテージだと思います。

山本センター長:
では反対に、弱みについてはどうでしょうか。

石川学長:
臨床研究の歴史が浅いことです。また、神奈川県内には臨床研究の中核病院が一つもなく、神奈川県でモデルとなるところがありません。逆に言うと、我々自身がモデルとなっていかなくてはいけない。それが今後の課題であると思います。

本学の国際教養学部は、医療倫理の分野で国内屈指の著名な教員を擁しています。また、今般データサイエンス学部が再編され、データの管理やAI等に関する専門家も加わる予定です。これから、AIの倫理は臨床研究においても非常に重要になるでしょう。

皆さんの協力も得ながら、学内での横の連携も密接にして取り組みを進めたいと考えています。

山本センター長

活用すべき8,000床の病院ネットワーク

山本センター長:
私もネットワークの活用は非常に重要だと考えています。本学の初期研修医は他大学出身者も多く、地方の大学に比べて人材の多様性に富んでいます。このネットワークをどのようにシステムとして管理し、研究のマインドをみんなで共有していくかという点も考えていかなければと思いますが、いかがでしょうか。
石川学長:
臨床研究は所属する大学や病院の中で実施することはもちろん大切ですけれども、どれだけ周りとのネットワークを築けるかも非常に重要です。8,000床近い巨大なネットワークは貴重な財産であり、これを活用すべきだということはもちろんですが、いろいろなノウハウを近隣の大学や病院と共有していくことも非常に重要です。

実は学長になって初めにやったことは、全国各地の大学の学長とお会いすることでした。直接お会いしてじっくりとお話した他大学の学長は、これまでに40名以上になります。首都圏のほぼすべての大学を訪問しましたが、医学部を有する大学もあるし、そうではない医療系の大学もありました。皆さん、本学と協力関係を築いていきたいと非常に強くおっしゃられます。我々がそういったネットワークを近隣の大学病院と築こうと考えた時に、先方が歓迎してくれていることを私の中だけに留めておかないで、学内の研究者ともぜひ共有したいと思います。


石川学長

教員と職員、部署間の壁を取り払う

山本センター長:
共創イノベーションセンターが立ち上がり、臨床研究のネットワークの活用を共同して進めています。私自身も研究の中で八景のチームと一緒に仕事をしたことがありますが、日々の忙しい診療の中で、どのように繋がりを深めていくのかという点は大きな課題です。とはいえ、本学の組織はコンパクトで小回りが利きますので、スムーズに連携を進めることが出来るのではないかと思います。そういった繋がりを持つための取り組み方について、どのように思われますか。
石川学長:
4月に学長に就任して依頼、一番熱心に進めているのが「教職連携」です。教員と職員が、どのように連携していくのか。

私は、理事長や事務局長との定期面談の機会は設けていません。なぜなら、思い立ったらすぐに理事長室や局長室に足を運んで打ち合わせをしているからです。事務方のトップと密接に連携を取ることで、さまざまなことが最短で進んでいるのではないかと思います。

最近の事例でいえば、医療ツーリズムで来日する方々の診療費改訂はいい例かもしれません。理事長と相談したら「あ、やりましょう!」と即断即決。瞬く間に学内会議を通過して横浜市会に上程されました。

事務サイドでも医療サイドでも、トップからの明確な指示があれば皆さんもやりやすいはずです。各事務部門、各診療科、各学部、それぞれの間の壁の高さを低くし連携を強化していかなければなりません。


ノウハウを共有して、「よりやさしく、より高度なもの」を生み出す

山本センター長:
研究の発展には「資金獲得につなげるノウハウ」が重要かつ必要であると、学長就任に際しての所信表明で述べられていますが、資金調達に対するお考えをお聞かせください。

石川学長:
逆説的に言えば、臨床研究はとても簡単です。「やり方が分かっていれば簡単」ということです。外部資金の獲得に関しても「資金の取り方が分かっていれば簡単」ということになります。

例えばAMEDでの採択を目指す場合、審査員には医療とは関係のない方も多数いらっしゃいますので、別世界の人たちにどうやって納得してもらえるかが重要です。臨床研究も同様で、患者さんや事務の方々、それぞれ住んでいる世界が違う方々にどうやって納得いただくのか、それだけだと思います。そこで重要なのは「情報の共有」になります。研究者が持つ関心と、別世界の方々の関心が合致するようにすれば良いのです。「相手方の興味」を的確に理解してお互いにその情報を共有する。それが一番大事なのではないでしょうか。

「大きな研究資金を獲得できている」あるいは「臨床研究や教室での研究が非常に上手く進んでいる」教室があります。学長に就任する前から山本教授や他の教員の方々にもお願いして、非常に良く出来ている教室に「どうして上手く進められるのか」のノウハウを教授会等で発表していただきました。お話を伺うと「この部分はうちでも出来るよね」ということが必ず出てきますので、なるべく多く真似をしていただき「ご自身や所属教室のノウハウとして体得する」ということが重要だと思います。


石川学長
昭和の時代は「自分達だけ上手く行っていれば良い、だからうちは組織の中では尖っていられる」で良かったと思います。しかし今は、全体のインフラがお粗末であれば、それ以上には進めない時代になってきています。組織として「インフラ、情報、データ、ノウハウ」等を蓄積して、その中で尖った研究者をどれだけ輩出できるかが勝負になると思います。それらを共有することにより、自分たちの次のステップを「よりやさしく、より高度なものに出来る」のだと思います。これは医師だけでなく、職員の方々にも通用すると思います。今は個人の技の時代ではなくなりました。組織全体のレベルを上げていかないと、生き残っていくことは出来ません。

  私は以前から様々な統計を取っています。十数年前まで外部資金の獲得は数億円程度でしたが、今ではかなりの額(約50億円)を獲得できるようになってきています。ただし、企業と連携した外部資金の獲得に関しては思うように増えていません。独法化の時は外部資金の獲得額が同規模であった東京医科歯科大学(現東京科学大学)は、今では本学の何倍も獲得出来ています。企業治験や臨床試験は十数倍にも増えているのに、企業と連携した外部資金が増えていないのです。本学は外部資金の獲得でも「まだまだ伸びる余地」があると思っています。

我々が若い頃は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という時代でしたが、今ではそんな言葉は全く聞かなくなりました。それは本当に悲しいことだと思います。私が若い頃、ある70代の偉い先生に「石川君、君は不幸な人間だ。僕は非常に幸せな人間だ。」と言われたので「それは何故ですか?」と尋ねたところ「僕はあと10年もしたらこの世を去る。君はこの後、日本がどんどん落ちていくのを見なくてはいけない。それはとても辛いことだ。でもそこで諦めてしまったら、石川君が他界した後、君の子どもや孫はもっと辛い目に遭うよ。」と。
臨床試験は未来を見据えた研究ですから、後世のために是非頑張って取り組んでいただきたきたいと思います。

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