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松本直通教授らの研究グループが第五指異常を伴う精神遅滞症候群の原因を解明!

2012.03.19
  • プレスリリース
  • 研究

—コフィン-シリス症候群の原因遺伝子特定(世界初)—

 横浜市立大学学術院医学群・鶴﨑美徳助教・三宅紀子准教授・松本直通教授(遺伝学教室)らは、発育不全、精神遅滞、小頭、特異な顔貌、手足の第5指の爪の無形成を特徴とする先天的異常症候群であるコフィン-シリス症候群(Coffin-Siris Syndrome;CSS)の責任遺伝子を世界に先駆けて解明致しました。この研究は、大阪府立母子保健総合医療センター・岡本伸彦先生、埼玉県立小児医療センター・大橋博文先生、信州大学医学部・古庄知己講師ら、日本赤十字社医療センター、琉球大学医学部、お茶の水女子大学、山形県日本海総合病院、山形大学医学部、広島市こども療育センター、自治医科大学医学部、南カリフォルニア大学医学部、愛知県心身障害者コロニー中央病院、中川の郷療育センター、獨協医科大学越谷病院、横浜市立大学医学部(生化学教室)、北海道医療大学との共同研究による成果であり、横浜市立大学先端医科学研究センターが推進している研究開発プロジェクトの成果のひとつです。
☆研究成果のポイント
○最新技術「次世代シーケンサー」を用いた全エキソーム配列解析*1により病気の原因遺伝子を特定
○精神遅滞の一種で、さまざまな身体の徴候を伴う症候群(CSS)の原因遺伝子(SMARCB1 )
○親から遺伝していない遺伝子変異(新生突然変異)によって発症
SMARCB1 と一緒に働く蛋白質の遺伝子群の変異も同じ病気の原因になることを次々と発見
○これらの原因遺伝子は、いずれも遺伝子の働きを制御する共通の働きを持つ

研究概要

 CSSは、重度の精神遅滞、発育不全、疎な頭髪及び睫毛、特徴的な顔貌、指趾爪の低形成を主徴とします。1970年にCoffin博士とSiris博士が初めて報告しました。第5指趾の末節骨と爪が無形成であることが多いため(図1)、第5指症候群ともよばれています。責任遺伝子は明らかではありませんでした。松本教授らのグループは、集積したCSSの23症例のうち、臨床症状から典型例5例を対象に全ゲノムエキソームキャプチャーにて遺伝子領域のDNAを分画、次世代シーケンサーにて網羅的に解読し遺伝子変異探索を行いました。5症例中2症例でSMARCB1 遺伝子に両親に認めない新生突然変異*2を見出しました。本遺伝子は、クロマチン再構成因子の1種であるSWI/SNF複合体のBAF型の構成成分であることから、さらに残りの21症例を対象に、SWI/SNF複合体の各構成サブユニットをコードする15遺伝子に対して変異解析を行い、21症例中18症例でSMARCB1、SMARCA4、SMARCE1、ARID1A、ARID1B、 あるいはSMARCA2 のいずれかの遺伝子に変異が認められました(図2)。これまでSWI/SNF複合体因子の異常は様々な腫瘍の体細胞変異*3として、あるいは神経鞘腫症やラブドイド様腫瘍易罹患症候群の生殖細胞系列変異*4として報告がありました。今回の松本教授らのグループの研究でSWI/SNF複合体の異常が腫瘍関連疾患のみならず精神発達遅滞/先天奇形症候群を惹起することが証明され、SWI/SNF複合体の新たな機能的側面が明らかとなりました。
これまでCSSの診断は臨床症状のみで行われ、症例ごとの差異等から診断は容易ではありませんでした。本研究によりCSSの大部分(87%)が今回同定された責任遺伝子群の異常で説明可能となりCSSの確実な遺伝子診断法が実現しました。責任遺伝子が解明されたことでCSSの病態解明と治療法の開発や病態改善等が大きく進展すると期待されます。

(注釈)
*1全エキソーム配列解析:遺伝子は通常エクソン領域とイントロン領域から構成されるがそのエクソン部分を全ゲノムにわたって網羅的に分画後、次世代シーケンサーを用いて塩基配列を決定する方法。
*2新生突然変異:両親から引き継がれた変異でなく、その個体において突然発生した変異。
*3一般的な体の細胞(体細胞のこと、生殖細胞でない細胞)に生じる変異で、子孫に変異が伝わらない。
*4生殖細胞(卵子または精子)に生じる変異で、子孫の全ての細胞のDNAに組み込まれる。
*本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Genetics 』に掲載されます。(米国3月18日:日本時間3月19日オンライン発表)
*この研究は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の一環として、また、厚生労働省「難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業」、独立行政法人科学技術振興機構、日本学術振興会などの研究補助金により行われました。
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