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医学研究科の研究グループが、mRNA監視に関わる巨大分子複合体の立体構造解析に成功

2011.01.31
  • プレスリリース
  • 研究

-mRNA監視系の分子機構の理解と創薬開発への一歩-

横浜市立大学大学院医学研究科の研究グループは、スペインの研究グループと共同でmRNA監視複合体の中心分子であるSMG-1複合体の立体構造解析に成功しました。SMG-1はDNAの損傷や遺伝子発現エラーなどから細胞を守るmRNA監視システム(nonsense mediated mRNA decay)の中心分子であり、今後mRNA監視系の機構の理解や創薬開発に向けた研究に弾みをつける成果です。
本研究は、横浜市立大学先端医科学研究センターの大野茂男教授(分子細胞生物学)、山下暁朗講師(さきがけ研究代表者、微生物学)らが推進している研究開発プロジェクトの成果の一つでもあります。

研究のポイント

● SMG-1巨大分子複合体の立体構造解析に成功
● mRNA監視複合体の可視化につながる成果
● mRNA監視系の分子機構の理解と創薬開発への一歩


横浜市立大学大学院医学研究科の研究グループは、スペインの研究グループと共同でmRNA監視複合体の中心分子であるSMG-1複合体の立体構造解析に成功しました。SMG-1はDNAの損傷や遺伝子発現エラーなどから細胞を守るmRNA監視システム(nonsense mediated mRNA decay)の中心分子であり、今後mRNA監視系の機構の理解や創薬開発に向けた研究に弾みをつける成果です。

本研究は、先端医科学研究センターの大野茂男教授(分子細胞生物学)、山下暁朗講師(さきがけ研究代表者、微生物学)らが推進している研究開発プロジェクトの成果の一つでもあります。

研究の背景

細胞は、ゲノムDNAにコードされた遺伝子が正確に発現されることを監視する機構をもっています。DNAにコードされた遺伝情報は、mRNAを通じてタンパク質に翻訳されますが、DNAの変異やRNAへの転写エラーに際して、Phosphatidylinositol 3-kinase–relatedprotein kinase (PIKK) 群と呼ばれる一群のタンパク質リン酸化酵素が活性化し、細胞の分裂を止めたり、細胞死を誘導したりします。これは、幹細胞やがん幹細胞の生存にとっても必須の存在です。
PIKKの一つであるSMG-1は、mRNAの配列の異常を監視することにより、ゲノムにコードされた遺伝子が正確に発現されることを保障する機構として重要な役割を果たしています。そしてゲノムの異常に起因するあらゆる疾患(遺伝性疾患とがん)の症状に決定的な影響を与えます。一方、遺伝子変異によっては遺伝性疾患の症状を増悪させる場合があることもわかっています。さらに、最近ではがん免疫の誘導を抑制する作用があることも報告されるなど、mRNA監視系が創薬標的となる可能性が浮上しています。
横浜市立大学の研究グループは、mRNA監視系の分子機構の解析を先導して行ってきました。特にPIKKの一つであるSMG-1が、mRNA監視の中心分子であることを初めとして、SMG-1を含む巨大分子複合体の発見(Genes & Development, 2009)SMG-1のみならずPIKK全体を統御する分子RuvBL1/2を発見しています(Science Signaling, 2010)。

研究の概要

SMG-1の活性は極めて巨大な分子複合体(~580 kDa)として制御されており、その立体構造解析はとても挑戦的なものでした。今回、スペインの研究グループとの共同で、電子顕微鏡と画像解析を駆使した方法で、その構造解析に成功しました。これまでの生化学的、分子生物学的な解析から予測されていた、活性制御機構が、立体構造のレベルで検証され、明らかとなりました。SMG-1複合体はmRNA上で翻訳停止リボソームの場所に形成されることがわかっています。mRNA監視複合体の他の分子も含めて、mRNA上で翻訳停止リボソームと存在する状態を明らかにする事も夢ではなくなりました。
創薬開発の観点からも、今回の解析結果を踏まえて、今後より精度の高い解析が可能となります。

※本研究成果はコールドスプリングハーバープレスが出版する学術雑誌『Genes & Development』1月15日号に掲載されました。
Ernesto Arias-Palomo, Akio Yamashita, Israel S. Fernández, Rafael Núñez-Ramírez, Yumi Bamba, Natsuko Izumi, Shigeo Ohno, and Oscar Llorca. The nonsense-mediated mRNA decay SMG-1 kinase is regulated by large-scale conformational changes controlled by SMG-8. Genes & Development, 25: 153-164, January 15, 2011.
※本研究は、文部科学省科学研究費、振興調整費、独立行政法人科学技術振興機構さきがけ研究などの助成により行われました。

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