2026.07.29
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クライオ電子顕微鏡により、人工ペプチドナノファイバーが液滴を安定化する分子機構を解明
横浜市立大学大学院生命医科学研究科 構造創薬科学研究室の川端悠さん(博士後期課程3年生)、梅澤遥佳さん(博士前期課程2年生)、石本直偉士助教、朴三用教授、構造エピゲノム科学研究室の田尻道子特任助教、明石知子教授らの国際共同研究グループは、アゾベンゼン*1を導入した自己集合性ペプチド(AzSAP)*2が形成する超分子ナノファイバーのクライオ電子顕微鏡構造解析*3に成功し、水性二相系*4液滴を安定化する分子機構を世界で初めて明らかにしました。ナノファイバーは2本の対称なプロトフィラメントから構成され、その構造が液滴の融合を抑制しながら流動性を維持することを示しました。さらに、光照射によって液滴の融合やウイルス感染反応を制御できることを実証しました。本成果は、構造情報に基づく人工マイクロリアクター設計や高感度ウイルス検出技術の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、「Nature Communications」誌にオンライン掲載されました(2026年 7月 22日)。
本研究成果は、「Nature Communications」誌にオンライン掲載されました(2026年 7月 22日)。
論文著者
生命医科学研究科 構造創薬科学研究室
博士後期課程3年
川端 悠さん
博士前期課程2年
梅澤 遥佳さん
指導教員
生命医科学研究科 構造創薬科学研究室
朴 三用教授
生命医科学研究科 構造創薬科学研究室
博士後期課程3年
川端 悠さん
博士前期課程2年
梅澤 遥佳さん
指導教員
生命医科学研究科 構造創薬科学研究室
朴 三用教授
論文タイトル
Supramolecular nanofiber stabilization of microdroplets enables ultra-sensitive virus infection analysis
(日本語訳:超分子ナノファイバーによる人工液滴の安定化が超高感度ウイルス感染解析を実現)
研究の概要と成果
細胞内では、タンパク質や核酸などの生体分子が集まって液滴状の構造を形成し、生命反応の場として機能しています。この仕組みを模倣した水性二相系液滴は人工的なマイクロリアクターとして期待されていますが、液滴同士が融合しやすく、長期間安定に利用することが困難でした。そこで本研究では、液滴の流動性や物質透過性を維持したまま融合を抑制する自己集合性ペプチドに着目し、アゾベンゼンを導入した自己集合性ペプチド(AzSAP)が形成する超分子ナノファイバーの立体構造を、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を用いて高分解能で解析しました。その結果、AzSAPナノファイバーは2本のプロトフィラメントからなる蝶型構造を形成し、アゾベンゼン基の規則的なπスタッキングとβシートによる水素結合ネットワークが、その形成と安定化を支えていることを明らかにしました(図1a)。さらに、逆配列ペプチド(rev-AzSAP)との比較から、両者の全体構造は類似しているものの、ナノファイバー中心部の分子パッキング様式が大きく異なることを見いだしました。AzSAPは中心部に空洞をもつ柔軟な構造を形成する一方、rev-AzSAPは密に詰まった構造を形成していました。このわずかな構造の違いがナノファイバーの柔軟性やネットワーク形成能を左右し、液滴の安定性や流動性を決定することを明らかにしました(図1b)。
Supramolecular nanofiber stabilization of microdroplets enables ultra-sensitive virus infection analysis
(日本語訳:超分子ナノファイバーによる人工液滴の安定化が超高感度ウイルス感染解析を実現)
研究の概要と成果
細胞内では、タンパク質や核酸などの生体分子が集まって液滴状の構造を形成し、生命反応の場として機能しています。この仕組みを模倣した水性二相系液滴は人工的なマイクロリアクターとして期待されていますが、液滴同士が融合しやすく、長期間安定に利用することが困難でした。そこで本研究では、液滴の流動性や物質透過性を維持したまま融合を抑制する自己集合性ペプチドに着目し、アゾベンゼンを導入した自己集合性ペプチド(AzSAP)が形成する超分子ナノファイバーの立体構造を、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を用いて高分解能で解析しました。その結果、AzSAPナノファイバーは2本のプロトフィラメントからなる蝶型構造を形成し、アゾベンゼン基の規則的なπスタッキングとβシートによる水素結合ネットワークが、その形成と安定化を支えていることを明らかにしました(図1a)。さらに、逆配列ペプチド(rev-AzSAP)との比較から、両者の全体構造は類似しているものの、ナノファイバー中心部の分子パッキング様式が大きく異なることを見いだしました。AzSAPは中心部に空洞をもつ柔軟な構造を形成する一方、rev-AzSAPは密に詰まった構造を形成していました。このわずかな構造の違いがナノファイバーの柔軟性やネットワーク形成能を左右し、液滴の安定性や流動性を決定することを明らかにしました(図1b)。
図1. 自己集合性ペプチドナノファイバーの高分解能クライオ電子顕微鏡AzSAP(a)は2本の対称なプロトフィラメントからなる蝶型構造を形成する。一方、逆配列ペプチドrev-AzSAP(b)はより密に詰まった構造を形成し、分子パッキングの違いが液滴安定化能や流動性の違いを生み出すことを示した。
掲載雑誌
Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-75297-x
論文内容
2026年7月22日プレスリリース
「マイクロ液滴を含む新流体材料を利用した『マイクロフローアッセイ法』の開発に成功〜ウイルス感染能の超高感度定量測定を実現〜」
WEBサイト:www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/2026/20260723park.html
Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-75297-x
論文内容
2026年7月22日プレスリリース
「マイクロ液滴を含む新流体材料を利用した『マイクロフローアッセイ法』の開発に成功〜ウイルス感染能の超高感度定量測定を実現〜」
WEBサイト:www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/2026/20260723park.html
川端さん
川端さんのコメント
ペプチドという短いアミノ酸の連なりが、これほど多様な構造と機能を生み出すことに、構造生物学の奥深さと面白さを改めて実感しています。本研究では、試料調製からクライオ電子顕微鏡による高分解能データの取得・解析までを一貫して担当しました。近年急速に発展しているクライオ電子顕微鏡技術を用いて、アミロイド線維の構造解析という先端的かつ挑戦的な研究に取り組むことができたことは、私にとって非常に貴重な経験となりました。
日々の実験と膨大なデータ解析を積み重ねる中で、特に構造解析技術に関する知識と技能を大きく向上させることができ、自身の成長を強く実感しています。今後は、分子レベルの立体構造とマクロな機能との相関について理解をさらに深め、目的とする物性を備えた人工ペプチドナノファイバーを自在に設計・創出できるよう、研究を一層発展させていきたいと考えています。最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導とご支援を賜りました構造創薬科学研究室の皆様ならびに共同研究者の先生方に、心より感謝申し上げます。また、本研究の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」の支援を受けて実施されました。この場をお借りして、関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
ペプチドという短いアミノ酸の連なりが、これほど多様な構造と機能を生み出すことに、構造生物学の奥深さと面白さを改めて実感しています。本研究では、試料調製からクライオ電子顕微鏡による高分解能データの取得・解析までを一貫して担当しました。近年急速に発展しているクライオ電子顕微鏡技術を用いて、アミロイド線維の構造解析という先端的かつ挑戦的な研究に取り組むことができたことは、私にとって非常に貴重な経験となりました。
日々の実験と膨大なデータ解析を積み重ねる中で、特に構造解析技術に関する知識と技能を大きく向上させることができ、自身の成長を強く実感しています。今後は、分子レベルの立体構造とマクロな機能との相関について理解をさらに深め、目的とする物性を備えた人工ペプチドナノファイバーを自在に設計・創出できるよう、研究を一層発展させていきたいと考えています。最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導とご支援を賜りました構造創薬科学研究室の皆様ならびに共同研究者の先生方に、心より感謝申し上げます。また、本研究の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」の支援を受けて実施されました。この場をお借りして、関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
梅澤さん
梅澤さんのコメント
非常に興味深い研究テーマに携わる機会をいただき、大変光栄に思います。近年、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)による構造解析は目覚ましい発展を遂げ、これまで解析が困難であった複雑な超分子構造にも適用できるようになってきました。本研究では、可溶性タンパク質とは大きく異なる自己集合性ペプチドナノファイバーの高分解能構造を解明し、その構造情報から人工液滴を安定化する分子機構を明らかにすることができました。この研究を通じて得られた経験は、今後の構造生物学や超分子構造解析を進める上で非常に貴重な財産となりました。さらに、本成果が人工マイクロリアクターや高感度ウイルス検出技術をはじめとする幅広い分野へ応用されることを期待しています。本研究の遂行にあたり、ご指導、ご支援を賜りました共同研究者ならびに関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
非常に興味深い研究テーマに携わる機会をいただき、大変光栄に思います。近年、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)による構造解析は目覚ましい発展を遂げ、これまで解析が困難であった複雑な超分子構造にも適用できるようになってきました。本研究では、可溶性タンパク質とは大きく異なる自己集合性ペプチドナノファイバーの高分解能構造を解明し、その構造情報から人工液滴を安定化する分子機構を明らかにすることができました。この研究を通じて得られた経験は、今後の構造生物学や超分子構造解析を進める上で非常に貴重な財産となりました。さらに、本成果が人工マイクロリアクターや高感度ウイルス検出技術をはじめとする幅広い分野へ応用されることを期待しています。本研究の遂行にあたり、ご指導、ご支援を賜りました共同研究者ならびに関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
指導教員 朴 三用教授のコメント
本研究では、クライオ電子顕微鏡を用いた高分解能構造解析により、自己集合性ペプチドナノファイバーが人工液滴を安定化する分子機構を世界で初めて明らかにすることができました。分子レベルの構造情報から、液滴の安定性や流動性といったマクロな機能を説明できたことは、構造生物学の新たな応用例であり、人工マイクロリアクター設計の重要な基盤になると考えています。本研究は、川端さんと梅澤さんが長期間にわたり粘り強く取り組んできた成果です。ペプチド設計、構造解析、物性評価、生物学的機能解析まで、多くの実験を繰り返しながら研究を発展させ、その成果が「Nature Communications」に掲載されたことを大変嬉しく思います。学生を含む研究グループの全員が国際共同研究の中核を担い、世界に向けて成果を発信できたことは、指導教員として大きな喜びです。今後は、本研究で得られた構造情報を基盤として、より高機能な人工マイクロリアクターやバイオマテリアルの開発、高感度ウイルス検出技術、さらには創薬や診断技術への応用へと研究を発展させていきたいと考えています。また、本研究を通して培われた学生の経験が、将来の構造生物学の研究を牽引する人材へと成長することを期待しています。
用語説明
*1アゾベンゼン:光に応答して分子構造が変化する化合物で、紫外光の照射によりtrans型からcis型へ、可視光の照射によりcis型からtrans型へ可逆的に異性化する性質を持つ。
*2自己集合性ペプチド:短いアミノ酸配列からなる分子が、水素結合、疎水性相互作用、静電相互作用などにより自発的に集合し、ナノファイバーやゲルなどの高次構造を形成するペプチドである。
*3クライオ電子顕微鏡:試料を急速凍結し、電子顕微鏡で観察することで、生体分子や超分子集合体の高分解能構造を解析する手法である。
*4水性二相:デキストランやポリエチレングリコールなど、2種類の水溶性高分子を混合した際に形成される、水を主成分とする二相分離系である。生体分子を穏やかな条件で濃縮できるため、人工細胞やバイオリアクターへの応用が期待されている。
本研究では、クライオ電子顕微鏡を用いた高分解能構造解析により、自己集合性ペプチドナノファイバーが人工液滴を安定化する分子機構を世界で初めて明らかにすることができました。分子レベルの構造情報から、液滴の安定性や流動性といったマクロな機能を説明できたことは、構造生物学の新たな応用例であり、人工マイクロリアクター設計の重要な基盤になると考えています。本研究は、川端さんと梅澤さんが長期間にわたり粘り強く取り組んできた成果です。ペプチド設計、構造解析、物性評価、生物学的機能解析まで、多くの実験を繰り返しながら研究を発展させ、その成果が「Nature Communications」に掲載されたことを大変嬉しく思います。学生を含む研究グループの全員が国際共同研究の中核を担い、世界に向けて成果を発信できたことは、指導教員として大きな喜びです。今後は、本研究で得られた構造情報を基盤として、より高機能な人工マイクロリアクターやバイオマテリアルの開発、高感度ウイルス検出技術、さらには創薬や診断技術への応用へと研究を発展させていきたいと考えています。また、本研究を通して培われた学生の経験が、将来の構造生物学の研究を牽引する人材へと成長することを期待しています。
用語説明
*1アゾベンゼン:光に応答して分子構造が変化する化合物で、紫外光の照射によりtrans型からcis型へ、可視光の照射によりcis型からtrans型へ可逆的に異性化する性質を持つ。
*2自己集合性ペプチド:短いアミノ酸配列からなる分子が、水素結合、疎水性相互作用、静電相互作用などにより自発的に集合し、ナノファイバーやゲルなどの高次構造を形成するペプチドである。
*3クライオ電子顕微鏡:試料を急速凍結し、電子顕微鏡で観察することで、生体分子や超分子集合体の高分解能構造を解析する手法である。
*4水性二相:デキストランやポリエチレングリコールなど、2種類の水溶性高分子を混合した際に形成される、水を主成分とする二相分離系である。生体分子を穏やかな条件で濃縮できるため、人工細胞やバイオリアクターへの応用が期待されている。
