第6期 戦略的研究推進事業「研究開発プロジェクト」
概要
この事業では、学長のリーダーシップのもと、大学の強みとなる研究領域やターゲットを明確化しながら、積極的かつ戦略的に研究費を投入することで研究活動の一層の加速化を図り、大型研究費の獲得や研究成果の早期の社会還元を目指しています。
第6期 戦略的研究推進事業「研究開発プロジェクト」2024年度~
ゲノム ・ 遺伝子
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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遺伝性疾患の診断・治療を推進する新世代ゲノム研究 | 様々な希少遺伝性疾患におけるゲノムDNA診断技術の高度化を進める。現行のメイン解析プラットフォームであるショートリードシーケンスの解析手法の標準化・改良・発展を進め、ロングリードシーケンスとオプティカルゲノムマッピングの解析手法の最適かつ高度な解析手法の開発により、現状直面する2/3に及ぶ未解明の疾患・症例の原因解明を進める。ゲノム解析・トランスクリプトーム解析・エピゲノム解析も並行して進め、これまで見逃されたゲノム異常・トランククリプトーム異常・エピゲノム異常を明らかにし新たな疾患エンティティが確立、さらに治療展開へとつなげる。 |
松本 直通 医学研究科 遺伝学 |
神経・難病
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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ヒト脳機能画像(AMPA-PET)に基づくリバーストランスレーショナル研究による精神疾患発症機構の解明 | AMPA 受容体は興奮性の神経伝達を中核的に担っているシナプス機能分子(脳内情報処理の実行部隊)である。様々な精神疾患は「シナプス病」である可能性が示唆されているが、患者さんの脳内で実際にどのような変化が生じているかの理解は進んでいない。当教室では AMPA 受容体をヒト生体脳で可視化可能な PET プローブを世界で初めて開発しており、この AMPA-PET 技術を用いて「各種精神疾患の重症度と AMPA 受容体密度変化が相関する脳領域」を複数見出している。本研究では、この臨床情報に基づくリバーストランスレーショナル研究により、精神疾患の発症機構の解明を目指す。すでに双極症や自閉症を中心に、ヒト患者生体脳内AMPA 受容体密度変化を模倣したマウスモデルにおける疾患様の表現型や関連神経回路の知見が得られつつある。 AMPA-PET 技術を用いて精神疾患の生物学的基盤を解明することは、革新的診断法・治療法の開発への貢献が期待されるだけでなく、ニューロダイバーシティ(神経多様性)の観点から関係者の働きがいや社会の生産性向上、経済成長へと繋げていくうえでも重要である。 |
高橋 琢哉 医学研究科 生理学 |
神経機能分子LOTUSを標的とした神経難病の新規バイオマーカー/治療法の統合的開発 | 神経難病が多く含まれる炎症性神経疾患・神経変性疾患は根治的な治療法のない疾患が多く、またその原因として病勢・治療効果などを評価するためのバイオマーカー開発の遅れがあり、その開発も喫緊の課題となっている。研究代表者らは、本学で見出された神経再生を促進させる内在性の神経機能分子Lateral Olfactory Tract Usher Substance (LOTUS) に着目し、これまでに炎症性神経疾患との係わりを明らかにし(Takahashi K. et al. JAMA neurology 2015)、炎症性神経疾患の病勢診断バイオマーカーとして実用化を進めている。これに加え、LOTUSが神経変性疾患においても重要なバイオマーカーとなりうる知見を得ており、さらに神経変性病態を抑制する新たな治療ターゲットとなることを見出した(Ikeda T, Takahashi K, et al. Cell Death Discov 2023)。そこで本プロジェクトでは、これら神経難病におけるLOTUSを標的とした遺伝子治療の開発と治療効果を評価する新規バイオマーカー開発を統合的に行い、神経難病の研究・診療を飛躍させ疾患の克服を目指す。 |
高橋 慶太 医学研究科 神経内科学・脳卒中医学 |
がん
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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難治性中枢神経系腫瘍の病態解明と新規治療法の開発 | 中枢神経悪性腫瘍かつ予後不良疾患である神経膠腫や中枢神経原発悪性リンパ腫、小児期中枢神経悪性腫瘍、悪性化を呈した髄膜腫などを対象に個別化医療の実現を見据えたトランスレーショナル研究を行う。臨床検体を用いて病態把握のための分子的な解析や画像解析を行うとともに、再現性の高いモデル作りを行う。腫瘍モデルに対して、網羅的な遺伝子解析や細胞動物実験などを行い、個別化医療治療標的となる分子を見出し、標的治療効果を検証する。また治療効果を迅速かつ簡便に判定できるモニタリングシステムの開発をおこなう。得られた知見を臨床応用するべく、臨床研究準備を同時並行で進める。 |
立石 健祐 医学部 脳神経外科学 生命医科学研究科 創薬再生科学 |
交流磁場を用いた新しい脳腫瘍治療装置の開発 | 我々は特定の周波数の交流磁場が悪性神経膠腫を始めとした様々な培養がん細胞や担がん動物に対して抗腫瘍効果や治療効果を示すことを突き止めた。正常細胞には明らかな影響は認めていない。我々の研究で、交流磁場の抗腫瘍効果はがん細胞の代謝形式を変化させることで発揮することがわかった。具体的には交流磁場の刺激によりがん細胞は酸素を用いないエネルギー産生形式である解糖系から、正常細胞が用いる代謝形式である酸化的リン酸化(酸素を用いてエネルギーを産生する形式)にシフトしていた。さらに交流磁場刺激による酸素消費の増大に伴い、活性酸素の産生が促進されることが判明した。今のところ、動物実験において交流磁場による明らかな副作用や有害事象は認めていない。このユニークな現象を利用して、産学連携・医工連携を通じて、「悪性神経膠腫の治療のための新しい医療機器開発」を進めている。具体的には、特殊なコイルに交流電流を流し、そこから生まれる交流磁場という物理的な刺激のみで脳腫瘍の増大を抑制する装置の作製を行う。今後はさらなる大型科研費の取得と非臨床試験を経て、実用化を目指す。 |
梅村 将就 医学研究科 循環制御医学 |
植物
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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植物の単為発生(アポミクシス)を規定するエピゲノム制御機構 | アポミクシス(母親と同一の遺伝子型を持つ子孫が生まれる植物の生殖様式)は育種学分野の「聖杯」とも呼ばれ、世界中の多くの研究者が注目する現象です(Tonosaki K. and Kinoshita T. Nature Plants News & Views 2023)。これまでに、イネのポリコーム複合体の変異体において、受精していないにも関わらず種子形成が始まることを見いだしてきました。本研究課題では、通常の受精による種子形成と変異体で見られる受精に依存しない種子形成の両者をゲノムワイドな遺伝子発現、エピゲノム状態を比較することにより、アポミクシスの分子基盤を明らかにすることを目標としています。また、コムギでは連続戻し交配により核ゲノムと細胞質ゲノムの組み合わせを変えた細胞質置換系統において、同様の単為発生様の種子形成がみられるため、これを取り上げ学術的に掘り下げるとともに育種材料として利用する準備を進めます。 |
木下 哲 木原生物学研究所 植物エピゲノム科学 |
ライブイメージングを基盤とした植物の精細胞活性化機構の解明 | 被子植物の精細胞はべん毛などの泳ぐ器官をもたない。その代わり、花粉栄養細胞の中で内部形質膜という膜に包まれた2つ1組の精細胞が花粉管栄養核と接続した「雄性生殖単位」という構造が形成され、精細胞は雄性生殖単位の能動輸送によって花粉管内部を移動する。花粉管が雌しべ内部の胚珠に到達して先端を破裂させると、勢いよく飛び出した精細胞は正確に2つのメス配偶子(卵細胞と中央細胞)の間に移動し、わずか7分間で2セットの受精を完了させる。この精密かつ迅速に起こる重複受精において、放出後の精細胞が受精可能な状態へと変化する活性化が必須のイベントとして認知されるようになってきた。 当研究室はこの1年で、モデル植物であるシロイヌナズナを用いたライブイメージングを駆使することにより、精細胞放出後のユニークな膜動態変化を明らかにしてきた。本計画では逆遺伝学や阻害剤を用いることで、我々が独自に見出したこれらの動的変化の背景にある分子メカニズムに迫る。当研究室では卵細胞や助細胞を対象とするメス側細胞の研究も進めている。受精直前の精細胞を解析する本計画は、当研究室が将来的に目指す「植物で体外受精系を構築するチーム型研究」に必須の材料となる基盤研究である。 |
丸山 大輔 木原生物学研究所 植物エピゲノム科学 |
質量分析
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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新規プロテオーム解析技術の創出とバイオマーカ-研究 | 近年、プロテオーム解析(プロテオミクス)の研究基盤となる質量分析計の開発・改良が進み、タンパク質の包括的な解析が可能になってきた。そこで本研究では、イノベーション創出を念頭においた挑戦的な戦略による新規プロテオーム解析技術の創出に取り組む。またこれら技術を活用し、病気等の診断に有用なバイオマーカー候補や治療標的候補となるタンパク質の探索に取り組み、新たな診断法や治療法の開発に役立てる。 |
木村 弥生 先端医科学研究センター プロテオミクス |
高感度リアルタイム質量分析法を用いた植物由来揮発性有機化合物の動態解析 | 一度根を張ると自力では動けない植物は、置かれた環境で生き抜く様々な環境適応能力を発達させてきた。その一つに、植物体内から放散される揮発性有機化合物(VOC)を利用し、近隣の植物や昆虫などに情報を送る「アレロバシー(他感作用)」がある。これまで、アレロパシー物質として、”みどりの香り(GLV)”と呼ばれる六炭素化合物やものテルペンが同定されてきたが、そのほとんどが未発掘とされる。 研究代表者は、第5期戦略的研究推進事業を含む種々の課題にて、多成分の植物VOCを「その場で」「リアルタイムに」「高感度で」計測する質量分析法を開発してきた。本研究課題ではこの手法を用い、アレロパシーに関連する新規物質を同定、その動態を時系列的に解析し、さらには機能解明に繋げていく。 |
関本 奏子 生命ナノシステム科学研究科 物質システム科学 |
再生医療
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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精巣オルガノイドを用いたin vitro精子形成システムの開発 | 我々は、マウスの精子幹細胞から精子へ至るすべての精子形成過程をin vitroで再現が可能となる精巣組織片培養法を開発した。このin vitro精子形成システムを使った応用の一つとして、精巣毒性試験の動物試験代替法への適用を目指した研究を進めている。一方で、現在のin vitro精子形成システムの弱点として、組織培養法であるという性質上、マウス個体由来の精巣組織をその都度採取する必要があり、完全な動物試験代替法にならない点があげられる。そこで本研究では、マウス多能性幹細胞から分化誘導した精巣体細胞を用いて、立体的構造をもつ精巣オルガノイドを構築し、そこでin vitro精子形成を進行させる培養システムを開発する。これによって、生体材料に依存しない精巣毒性試験システムを確立する。さらにこの技術をヒトへと適用し、ヒト多能性幹細胞(iPS)細胞からの精巣オルガノイド作製法を開発する。このヒト精巣オルガノイドを使ったin vitro精子形成によって、実際のヒト細胞の生理的特徴を反映した毒性試験が可能になると期待される。 |
佐藤 卓也 医学研究科 臓器再生医学 |
公衆衛生学/疫学
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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地域の保健医療データベースと大規模コホートを組み合わせた市民参画による公衆衛生研究 | 横浜市は日本最大の基礎自治体であり、神奈川県は幅広い年齢層、多様な文化的背景、さまざまな社会経済状況の住民で構成される。この地域特性を最大限に活用し、本研究では、横浜市住民を対象とする「よこはま健康研究」と「よこはま若者コホート研究(仮)」を基盤として、社会環境、生活習慣などの情報を収集し、大規模なコホートを構築する。さらに、横浜市や神奈川県の保健医療情報を収集する。そして、市民から、研究方法や収集項目などのついて意見を集めて、市民参画による研究を推進する。 本研究の目的は、地域とのコホートデータと保健医療データを分析・統合し、市民参加により健康増進に資する分析項目を設定し、地域の公衆衛生の向上に役立つエビデンスを発信することである。 |
後藤 温 医学研究科 公衆衛生学 |
ウェルビーイングの視点から新規医療サービスを作り出す基礎調査 | 特定の疾患は根治が困難であり、疾患により引き起こされる様々な症状との共存が求められる。しかし疾患そのものを治療せずとも身体症状の改善や生活の質(Quality of Life; QOL)を向上させることは可能である。例えば疾患に伴う痛みや気分の落ち込みなどの症状は、脳の認知機能によって調整される。認知機能において、自分の症状は改善するだろうというポジティブな認識を持つことができれば、症状の改善が期待できる。逆に、認知に歪みが生じると、症状が悪化する可能性がある。認知の歪みを良い方向に誘導する手段の一つとして認知行動療法がある。認知行動療法を効果的に実施するには、性格や心理特性がどのように疾患や症状に対する認知に影響を与えているかを理解する必要がある。そのためには、調査研究が不可欠である。申請者はCOI-NEXT事業において性格や心理特性と抑うつやQOLとの関係を調査してきており、調査項目の選定や研究手法の確立を行った。この経験を活かし、本申請では月経前症候群(PMS)と慢性痛に悩む人たちの性格や心理特性を把握し、これに基づく新たな認知行動療法の開発を目指す。この研究により、PMSや慢性痛に苦しむ人々の生活の質を向上させる新たな医療サービスが開発されることが期待される。 |
宮﨑 智之 研究・産学連携推進センター |
先端融合
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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データに基づく労働生産性向上に向けた組織デザインに関する国際比較研究 | 人口約125百万人の日本は人口84百万人のドイツにGDPを抜かれ、時間あたりの労働生産性はG7各国で最下位、低下の一途である (日本生産性本部 2022)。2010年から現在までの傾向が線形に続いた場合、2040年にはG7最大のドイツが時間あたり労働生産性で約112ドル/時間に達することに対して、日本は58ドル/時間にとどまり、倍の差が生じ、日本企業・行政のマネジメントシステムは岐路にある。 そこで、本研究は、これまで申請者が実施してきたデータに基づく意思決定研究、また企業・部門レベルの組織構造、目標設定や業績評価に代表される組織デザインとパフォーマンスに関する研究を労働生産性の観点から発展させる。具体的には、労働生産性の要因解明をめざし、①従業員単位で労働生産性を高めるためのEfficacy、②組織単位のマネジメントコントロール、③市場単位における戦略的計画、という3つの次元から、データに基づいた国際比較・実証研究を行う。 |
黒木 淳 国際商学部 国際商学科 データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻 |
メディエーター複合体による遺伝子発現制御機構とその破綻による疾患発症メカニズムの解明 | 本プロジェクトでは、転写制御因子のメディエーター複合体に着目し、そのコンポーネントMED26による転写制御機構をタンパク質構造から分子ネットワークまで解明する。さらに、MED26による転写制御機構が、全能性幹細胞から多能性幹細胞・組織・個体においてどのような役割を果たしているのかについて、MED26のコンディショナルノックアウトマウスを用いて解明する。最終的には、MED26による転写制御機構の破綻による腫瘍性疾患や神経変性疾患、不妊の発症メカニズムを解明する。 |
高橋 秀尚 医学研究科 分子生物学 |
In-silico modeling of cell-cell interactions in tumor micro-environment towards development of better therapeutics | This project will apply bioinformatics and AI techniques to analyze single-cell transcriptomic data to predict how cancer-specific protein isoforms and mutations in ligand-receptor binding domains influence tumor microenvironment dynamics, and to identify safe and druggable candidates. |
ジョーダン・ラミロフスキー 先端医科学研究センター バイオインフォマティクス |
都市型プライマリ・ケアによる健康格差の是正と他地域への展開、医学教育への実装 | 複数の慢性疾患を持つ高齢者の増加、健康格差の拡大など都市部が抱える医療課題への対応にはプライマリ・ケアの拡充が必須である。その中でも経済格差に起因する健康格差は世界的な課題であり、プライマリ・ケアの拡充が健康格差の是正に繋がることが他国で検証されている。文部科学省による医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいても診断・治療のみではなく、健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDH)の視点から、なぜその患者がそのような状況になったのか考察を行うことが医学生に求められている。横浜市も寿町の様な経済的に困窮している方が多く居住している地域を有しており応募者らは本学と同地域の診療所で共同研究を行っている。そこで本研究では現在の取り組みを発展させ1)横浜市のレセプトデータを用いての経済格差と健康格差についての記述研究、2)同地域で実習を行う前後での医学生の社会的共感力の測定及び実習の経験に関する質的研究、を行い現状を見える化するとともに3)市内・県内においてSDHに取り組む他の機関との連携や研究支援を行う。 |
金子 惇 データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻 医学部 臨床疫学・臨床薬理学 |
構造生命科学
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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DNAメチル化の構造生命科学研究とその応用 | ヒトは多種多様な細胞の集団から成ります。細胞の多様性の維持にはDNAメチル化が深く関わっています。哺乳類ではCG配列中のシトシンにメチル化が起こります。DNAメチル化は細胞固有の遺伝子発現パターンを規定して細胞の形質を決定したり、進化の過程で取り込まれたトランスポゾンの発現を抑制してゲノムの安定化に寄与します。細胞が一旦獲得したDNAメチル化パターンは個体の生涯に渡って維持されます。DNAメチル化の維持に不具合は細胞のがん化と関連することが知られています。DNA維持メチル化を制御するタンパク質は同定されていますが、それらがどのように働いて正確にDNAメチル化が維持されてるのかはわかっていないことが多いです。本研究では、DNAメチル化が受け継がれる仕組みを生体分子の立体構造情報からひも解く構造生命科学研究を行い、DNA維持メチル化の基本原理の理解と、DNAメチル化異常が引き起こす疾患の治療薬の開発に向けた応用研究を行います。 |
有田 恭平 生命医科学研究科 構造生物学 |
クライオ電子顕微鏡による膜輸送体の分子機構解明とその制御 | 生物の構成単位である細胞は、脂質二重膜によって外界から隔たれており、さらに細胞の内部も複雑な脂質二重膜によって多くのコンパートメントに分けられている。脂質膜中に存在する膜輸送体は、このようなコンパートメントを越えて物質を輸送することで細胞の恒常性維持や細胞間コミュニケーションに関わっている。これら輸送体における機能異常は様々な疾患につながることから、創薬標的としても非常に重要である。膜輸送体の輸送機構を理解するために、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析の手法や解析アルゴリズムの開発によって、膜輸送体がはたらく過程を動画として描写することで、これらの分子がどのようにして膜を越えた物質輸送を行うのかを理解する。 |
西澤 知宏 生命医科学研究科 生体膜ダイナミクス |
注目
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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不完全情報下における経済主体の行動分析 | 本研究の目的は、不完全情報下における経済主体の行動を分析する点にあります。分析では主に不完全情報下における家計行動の分析を行いながら、同時に中央銀行が情報優位にある下での金融政策の効果分析も行います。具体的には(1)不完全情報下における家計の期待形成分析、(2)複雑な制度やインセンティブのもとでの家計行動分析、(3)中央銀行が民間経済主体より情報優位にある場合の(非伝統的)金融政策の波及効果分析を行います。本研究では民間の大規模消費パネルデータに家計の期待形成に関するアンケート調査を接続したり、家計に対する通年のサーベイによって高頻度の予想インフレ率指標を構築したり、情報介入実験を活用することで外生的な変数の変動を生み出し因果推論の精緻化につなげたりすることで、従来のデータや研究手法では迫り切れなかった経済主体の意思決定の実態を明らかにし、日本が抱える政策課題の解決に資する研究成果を得ることを目的にしています。 |
中園 善行 国際マネジメント研究科 |
人流データに対する観光関連データの結合に関する基礎研究 | 本研究は、人流データを観光分析に用いる際に懸念とされている「人の移動にまつわる関連事象の理解」を推進させるべく、人流データを軸としながら,他の関連データを紐付ける方法を検討し、方法論としての確立を目指すものである。近年、人流データを用いたサービスの台頭により、多くの自治体行政や観光協会、民間事業者が人流データを用いた検討を行うようになった。これにより、観光においてもデータに基づく判断がなされる傾向が出てきたが、人流データによってどの場所にいつどのくらいの人が存在するかについては理解できるものの、たとえば、その移動によって具体的に何が消費され、もしくは何に満足が得られたのかなどの質的な行動(動機や満足など)や、量的な指標(消費額など)との関連性が明確には明らかになっていない。そこで本研究では①各人流データサービスが扱うデータの概要を整理した上で、②任意のフィールドを設定し(横浜など)、その地区の各種データの存在を整理し、場合によっては新たにデータの取得(アンケート調査など)を行う。そして、③それらの人流データの関係性について分析を行い、明らかにし、紐づけの方法について開発する。 |
有馬 貴之 都市社会文化研究科 |
表情と音声の機械学習モデルから心不全予測を行う新規バイオマーカーの研究開発 | 本研究プロジェクトは、世界共通の最重要課題である”心不全増悪の早期発見”を可能とする新規バイオマーカーの開発研究である。心不全は爆発的に増加しており、その数はがん患者の5倍、全世界で6400万人を超える。一度発症すると完治することはなく寛解と増悪を繰り返しながら進行する難治性・慢性疾患で、様々な医療・社会問題を内包する疾患である。その一方で、増悪を認めても早期に発見し、適切に介入することができれば、重症化を予防し予後や健康寿命を延伸することができるため、心不全管理では増悪の早期発見が重要となる。ただ、増悪の早期発見は容易ではなく、本研究では表情と音声の変化という循環器専門医の気づきを主観的にではなく、客観的な数値指標に落とし込むことで、心不全の病態変化を縦断的に評価できるスキルレスなバイオマーカーの開発を目指す。研究代表者は、単施設における先行研究にて心不全の状態変化と関連する複数の表情・音声の特徴量抽出に成功しており、特許を取得・出願した。現在、医療機器承認を目指して研究を進めている。 |
岡田 興造 附属市民総合医療センター 心臓血管センター(内科) |
横浜市立大学における共創イノベーション手法の研究開発:学術的な研究成果のよりよい社会実装の在り方を探究する | 本研究の目的は対話記録法をベースに横浜市立大学における共創イノベーション手法を確立することである。本研究代表者はこれまでにアントレプレナーシップ鍛錬とスタートアップ創出のための対話記録法の研究開発に取り組んできた。横浜市立大学に着任後は、本学におけるアントレプレナーシップ教育と大学発スタートアップ創出に資する共創イノベーション手法の研究開発に着手し、ウェルビーイングなアントレプレナーの育ち方と大学発スタートアップにおける高収益事業の創り方の探究を開始した。本研究プロジェクトで実施することは、共創イノベーション手法の提唱に向けた大学発スタートアップ創出プロセスの臨床的調査、共創イノベーション手法に基づく価値共創プロセスのサービスコンセプトの提案と検証、共創イノベーション手法に基づく価値共創プロセスの効果検証の3つの調査である。以上のプロジェクトを推進することで、学術的研究成果の社会実装のよりよい在り方を提示したい。 |
伊藤 智明 国際マネジメント研究科 |
オープン・イノベーション・アカデミアプロジェクト
社会共創
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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働く世代の時間貧困解消実現に向けたサービス開発モデルの研究開発 | 日本の働く世代の時間貧困は深刻であり、横浜・都市近郊型エリアにおける最大の地域課題である。本研究では、文理融合研究アプローチによって、時間貧困の深堀りとソリューション開発およびサービスエコシステムの構築におけるモデルの検討を目的とする。3つの研究項目を設定し、①研究者と市民が協働する参画モデルの検討【課題深堀】、②サービス開発の加速支援でサービス開発エコシステムを構築し【サービス開発】、③グローバルウェルビーイング研究ユニットによって該当テーマに関する国際連携を行う【国際連携】。 |
根本 裕太郎 国際マネジメント研究科 |
イネーブリングシティ構想実現に向けた学術的市民参加型地域実証研究 | 研究代表者らのチームは、JSTムーンショット型研究開発事業「ミレニアプログラム」(2021)において、地域市民の幸福と健康双方を高める因子(イネーブリング・ファクター)が街のいたるところに埋め込まれている新しい都市像「イネーブリング・シティ(EC)」の提唱を開始した。調査事業終了後も、EC構想実現に向けて、医療現場で用いられているSOAPモデルと都市計画を融合させ、新しい都市デザインモデルを体系化し、その根幹となる地域市民の「主訴」(まちの中を歩きながら何にHappy/Unhappy, Healthy/Unhealthyを感じるか)を収集するアプリ(Enabling City Walkアプリ:ECW app)開発を行い、これまで全国各地で18回、本アプリを活用した地域連携による調査研究を重ねてきた(論文投稿中)。本研究では、ECWappを活用した自治体等連携による調査研究を行いながら、まちづくり測定指標の確立、データ解析に基づいたまちへの介入施策開発を医学、都市デザイン学、建築学、データサイエンス、デザイン学、芸術学などの超学際的複合研究チームで実施し、都市環境によるウェルビーイングアウトカム値の向上スキームを構築する。 |
武部 貴則 先端医科学研究センター |
家庭と子育てに関するコホート研究(ハマスタディ) | 都市型の少子化と子育て世帯のウェルビーングの要因について、子育てと家庭の観点からコホート研究で明らかにする。子育てとウェルビーングという世界共通の課題に対して学術研究のプラットフォームを構築し、本学の強みとなる研究分野を創生するとともに、横浜から世界へ新たな政策・産業の創出をめざす。 本研究の主アウトカムは「予定子ども数」と「ウェルビーング」である。関連要因として、①制度・政策、②家事育児の外部化、③男性の家事育児への参加、④時間貧困の4点に着目し、コホート研究の中で経年変化の把握を行う。横浜市在住の子育て世代(末子が未就学児)の夫婦を対象に、住民基本台帳を用いてランダム抽出し、約1万世帯に調査票を郵送する。 コホート研究は5か年(Wave1~5)を計画しており、2024年7月時点でWave2まで終了した。Wave1では5458件(回収率27.3%)、Wave2では2892件(回収率14.5%)、Wave1,2の継続回答者数は2021名となった。本調査はプロトコル論文がBMJOpenにアクセプトされ、現在は複数の研究チームが多様な視点から分析を進めている。また、横浜市こども青少年局と定期的な打ち合わせを行い、調査項目から調査結果のフィードバック、政策への反映などを一緒に議論している。 今後、対象を拡大し、さらに発展的な研究も実施予定である。 |
原 広司 国際マネジメント研究科 |
ライフサイエンス
研究テーマ | 研究概要 | 研究代表者 |
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がん薬物療法感受性予測因子としての高感度相同組換え修復異常検査の開発 | 相同組換え修復異常(以下、HRD)は、細胞における内在性のDNA損傷修復機構が低下している状態を指す。近年、HRDの状態にあるがん細胞に対し、抗腫瘍効果を発揮する薬剤(PARP阻害薬)が臨床応用され、注目されている。現状、HRDの検出方法には、①HRDを起こす原因遺伝子の変化を同定する、②HRDの結果起こるDNAの構造異常の蓄積を検出する、という2種類の検査が保険承認されている。しかし、これらの原因と結果のみを対象とした手法では検出できないHRD症例が存在すると考えられる。HRDとは、細胞の特定の機能が低下している『状態』であり、この状態を直接的に図ることが出来れば、より高い感度でHRD症例を検出できると考えられる。この問題に対し、本学理学部理学部 足立典隆教授は、生きた細胞を用いて、直接的にHRD状態を数値化する手法(ADACHI法)を開発した。本研究では、ADACHI法の臨床実装に向けて、ヒト患者検体を用いた解析を含む基礎データを取り、最終的にHRD検出例にPARP阻害薬を投与する特定臨床試験の開始を目指す。2024年、2025年度は解析対象がん種を膵癌と悪性黒色腫に拡張する。 |
加藤 真吾 附属病院 がんゲノム診断科 (医学研究科 肝胆膵消化器病学) |
新規バイオマーカー、迅速画像診断、デジタル医療情報サービス併用によるYCU横浜早期膵癌プロジェクト加速化の研究 | 膵癌は5年生存率が10%以下と予後不良であり、長寿健康社会の実現を阻害している。これを打開するため、全国で膵癌早期診断プロジェクトが展開されている。しかし効果的な早期癌診断のバイオマーカーが欠如し、開業医師と専門病院間の、迅速な診療情報の共有は、しばしば困難となっている。2023年より本学で、YCU横浜早期膵癌診断プロジェクト(YCUP2023)が開始された。これは迅速な超音波内視鏡とDual Energy CTの併用により実施されている。一方、本学川崎研究室で早期癌診断のための新規バイオマーカーが開発され、その検証がバイオバンク検体を用いて開始された。さらに膵癌診療についての臨床情報の共有は、医療関係者間アプリケーションなどの導入により円滑・加速化できる。バイオマーカーのpilot研究に引き続き、2024年4月よりYCUP2023が横浜市早期膵癌診断プロジェクト(yokohama-epad)として、横浜市医療局、横浜医師会の協力のもと横浜市全体での取り組みに拡大された。本学はこれを総括し、バイオマーカー開発を更に推進、迅速画像診断を行いながら、開業医師と情報網を形成し、本学国際マネジメント研究科での医療効果分析も行いながら、10年計画で横浜市における実行可能な早期膵癌診断を遂行するための基盤を本研究費で構築する。 |
窪田 賢輔 医学研究科 がん総合医科学 (附属病院内視鏡センター) |