ゼロから生命を育む環境を創り出す—不妊治療の未来を拓く挑戦
私たちがこの世に生を受けるための第一歩である「精子」。この精子ができる複雑なプロセスを、体外(試験管の中)で完全に再現するという驚異的な研究が進んでいます。
医学研究科 臓器再生医学の佐藤卓也講師らのチームは、2026年、立て続けに2つの画期的な成果を発表しました。これらは「精子ができる環境そのものを創り出す」という、再生医療の新たな扉を開くものです。
医学研究科 臓器再生医学の佐藤卓也講師らのチームは、2026年、立て続けに2つの画期的な成果を発表しました。これらは「精子ができる環境そのものを創り出す」という、再生医療の新たな扉を開くものです。
1. 「精子の工場」をゼロから組み立てる
—— マウス多能性幹細胞から精巣組織の再構築に成功
これまで、iPS細胞やES細胞(多能性幹細胞)から「精子の元になる細胞」を作る研究は行われてきました。しかし、精子はそれ単体では育ちません。精子を育むための「工場」である精巣組織が必要不可欠だからです。
佐藤講師らは、マウスの多能性幹細胞から、精子形成に欠かせない「体細胞(セルトリ細胞など)」を誘導することに成功。さらに、それらを組み合わせて「機能的な精巣組織」を再構築しました。
佐藤講師らは、マウスの多能性幹細胞から、精子形成に欠かせない「体細胞(セルトリ細胞など)」を誘導することに成功。さらに、それらを組み合わせて「機能的な精巣組織」を再構築しました。
何がすごいの?
誘導した精巣体細胞を精子形成不全のマウスに注入し培養したところ、体外で機能的な精巣組織が再構築されました。その結果、なんと精子形成が回復し、次世代の子マウスを得ることにも成功しました。これにより、多能性幹細胞から「機能的な精巣体細胞」を誘導できたことが、世界で初めて証明されたのです。これは、将来的にこの技術を応用し、健康な多能性幹細胞から構築した精巣組織へ自身の生殖細胞を入れて試験管内で精子を育て、不妊を治療するという夢の技術への大きな一歩です。
2. 時を戻し、胎仔期からの「精子発生」を再現
—— 胎仔精巣からの体外精子形成に成功
もう一つの成果は、まだ精子が作られる前の段階であるお腹の中の赤ちゃんマウス(胎仔)の精巣組織を使い、体外で精子を完成させた研究です。
実は、胎仔の組織を体外で育てるのは非常に困難でした。細胞が未熟なため、途中で成長が止まってしまうからです。佐藤講師らは、独自の工夫でこの壁を突破しました。
これにより、これまで不可能とされていた「胎仔期という極めて初期段階からの精子発生」を体外で完結させました。生命が誕生する最初期のメカニズムを解明する強力なツールになります。
実は、胎仔の組織を体外で育てるのは非常に困難でした。細胞が未熟なため、途中で成長が止まってしまうからです。佐藤講師らは、独自の工夫でこの壁を突破しました。
• 逆転写酵素阻害剤の活用: 本来は抗レトロウイルス薬(HIV治療薬など)として使われる薬に、細胞にダメージを与える不要な働きを抑え、細胞のストレスを大幅に軽減するという「意外な効果」があることを発見し、培養に応用しました。
• 低酸素培養: お腹の中に近い「低酸素」の状態を再現することで、細胞の分化をスムーズに誘導。
• 低酸素培養: お腹の中に近い「低酸素」の状態を再現することで、細胞の分化をスムーズに誘導。
何がすごいの?
これにより、これまで不可能とされていた「胎仔期という極めて初期段階からの精子発生」を体外で完結させました。生命が誕生する最初期のメカニズムを解明する強力なツールになります。同研究室が描く未来:生殖医療のパラダイムシフト
これらの研究が組み合わさることで、どのような未来が待っているのでしょうか?
1. 男性不妊症の病態解明と新たなアプローチ: 治療への応用の前に、まずはなぜ精子が作られないのかという不妊症の原因究明(病態解明)に役立つ強力なツールとなります。将来的には、先天的に精子を育む環境(精巣)に問題がある方でも、多能性幹細胞から構築した「精巣組織」を体外の培養環境として利用することで、患者さん自身の遺伝子を持つ精子を得られる可能性があります。
2. 実験動物に代わる毒性試験への活用: 新しい薬や化学物質が精子の形成に悪影響を与えないか(生殖毒性)を、試験管内で再構築した精巣組織を使って評価できるようになります。実験動物の使用を減らすとともに、より効率的な創薬への貢献が期待されます。
2. 実験動物に代わる毒性試験への活用: 新しい薬や化学物質が精子の形成に悪影響を与えないか(生殖毒性)を、試験管内で再構築した精巣組織を使って評価できるようになります。実験動物の使用を減らすとともに、より効率的な創薬への貢献が期待されます。
3. 種の保存: 絶滅危惧種のわずかな細胞から個体を増やす、バイオテクノロジーの鍵となります。
佐藤卓也講師からのメッセージ
今回の研究により、試験管内で精子を育む環境をゼロから構築するという、かつてない成果を得ることができました。しかし、この技術を人間の不妊治療へすぐに応用できるわけではありません。ヒトの精巣体細胞の誘導や組織の再構築、体外精子形成法の開発など、技術的な課題が山積しており、安全性や倫理面の確認も含め、実際の医療現場に届けるまでにはまだ多くの時間を要します。 それでも、将来不妊に悩む方々の新たな希望の光となるよう、一つひとつの課題に真摯に向き合い、夢の技術の実現に向けて着実に歩みを進めていきたいと考えています。
さらに詳しく知りたい方へ
今回の研究の詳細は、国際学術誌『Science Advances』および『Communications Biology』に掲載されています。
■横浜市立大学プレスリリース
2026.02.27 マウス多能性幹細胞から精巣組織の再構築に成功-機能的な体細胞を誘導し、精子形成不全の回復と産子獲得を実証-
2026.02.09 胎仔精巣からの体外精子形成に成功-逆転写酵素阻害剤と低酸素培養で胎仔期からの精子発生プロセスを再現-
(参考)大阪大学共同研究
2026.02.27 多能性幹細胞から精巣を試験管内で作り出し、精子産生能を持つ精原幹細胞を誘導
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(参考)大阪大学共同研究
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