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「Borrowed Size」から地域レジリエンスを読み解く
—大塚章弘教授がSpringer Natureより英文単著モノグラフを刊行—

横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科の大塚章弘教授は、人口減少社会における地域経済の持続性を「Borrowed Size(借りた規模)*1」の観点から分析した英文単著モノグラフ Borrowed Size and Regional Resilience: Lessons from Japan をSpringer Natureより刊行しました(2026年5月20日)。本書は、地域が自らの人口規模や経済規模だけで成長するのではなく、交通、知識、産業、制度的連携を通じて外部の規模を活用し得ることを、日本の地域経済データに基づいて検討したものです。

また、本書はSpringer Natureの国際学術書シリーズ New Frontiers in Regional Science: Asian Perspectives, Vol. 86 として公開されました。2017年および2021年に刊行された既刊書に続く第3作であり、横浜市立大学において継続してきた日本の地域経済、集積、地域間ネットワーク、地域レジリエンス*2に関する研究成果を体系化しまとめたものです。

研究成果のポイント


● 人口減少下でも、接続性を通じた地域成長の可能性を提示

● 生産性・効率性・特許・空間外部性を複数手法で統合的に検証

● 東京一極集中を前提とする地域経済の見方を再検討

研究背景

日本では、人口減少、東京一極集中、地方圏の縮小が長期的な政策課題となっています。従来の地域経済分析では、大都市への人口・産業の集積が生産性を高めるという見方が重視されてきました。一方で、交通インフラ、デジタル技術、企業間・大学間の知識ネットワークが発達した現代では、地域の成長可能性は、地域内部の規模だけではなく、他地域との機能的な接続性によっても左右されます。

本書が扱う Borrowed Size とは、人口や企業数の規模が相対的に小さい地域であっても、大都市圏や他地域との接続を通じて、市場、知識、労働、制度的支援などの外部資源を活用し、集積の利益に類似した効果を得るという考え方です。本書では、この概念を日本の地域経済に即して再検討し、人口減少社会における地域レジリエンスの新たな理解を提示しています。

大塚教授は、これまで Springer Nature より、日本の地域経済における集積の経済と生産性分析を扱った第1作、地域間ネットワークと地域サステナビリティを扱った第2作を刊行してきました。今回の第3作は、これらの研究を踏まえ、Borrowed Size を地域レジリエンスの観点から再構成するものであり、横浜市立大学において継続してきた地域科学研究の成果を体系化する位置づけにあります。

研究内容

本書は、全12章で構成され、理論、地域構造、実証分析、政策的含意を段階的に検討しています。第1部では、集積の経済、都市間ネットワーク、地域イノベーションシステムの議論を踏まえ、Borrowed Sizeを「関係的スケール」として再定義しています。第2部では、都道府県レベルのデータを用い、地域の全要素生産性(TFP)、生産効率性、空間的外部性を分析しています。第3部では、特許データやアクセシビリティ指標を用いて、地域イノベーションと地域間の接続性の関係を統計的に検討しています。さらに第4部では、これらの分析結果を統合し、人口減少社会におけるネットワーク型の国土政策・地域政策への含意を整理しています。

分析では、TFPの収束分析、動学的パネル分析、確率的フロンティア分析(SFA)、データ包絡分析(DEA)、Hicks–Moorsteen–Bjurek生産性指数、空間計量経済モデルなど、複数の手法を組み合わせています。これにより、地域間の接続性が生産性や効率性とどのように関連するのか、また大都市圏への近接性がプラスの波及効果をもたらす場合と、周辺地域の成長を抑制する「集積の影*3」として作用する場合があることを、総合的に分析しています。

本書の特徴は、人口集中や都市規模を地域成長の唯一の条件とみなすのではなく、産業構造、交通・知識ネットワーク、地域イノベーションシステム、制度的調整を含めた多層的な枠組みから、成熟経済における地域の持続性を捉え直した点にあります。この視点は、東京一極集中を前提とする従来型の地域経済の見方を再検討し、地域間の補完関係を活かすネットワーク型の国土政策・地域政策に示唆を与えるものです。

今後の展開

本書で提示した枠組みは、日本の地域政策だけでなく、人口減少や高齢化に直面する他国の地域経済分析にも応用可能です。今後は、より詳細な都市圏・市町村・企業レベルのデータや国際比較分析を通じて、Borrowed Sizeがどのような条件のもとで地域の生産性、イノベーション、生活基盤の維持に結びつくのかをさらに検討することが期待されます。

研究費

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(KAKENHI、課題番号 22K01501)の支援を受けて実施されました。

書籍情報

タイトル:Borrowed Size and Regional Resilience: Lessons from Japan
著者:Akihiro Otsuka
掲載シリーズ:New Frontiers in Regional Science: Asian Perspectives, Vol. 86
出版社:Springer Nature Singapore
DOI:https://doi.org/10.1007/978-981-95-7016-4
ISBN:978-981-95-7015-7
eBook ISBN:978-981-95-7016-4

用語説明

*1 Borrowed Size(借りた規模):地域が自らの人口規模や経済規模だけに依存せず、大都市圏や他地域との交通・知識・制度的ネットワークを通じて、外部の市場、知識、人材、サービスなどを活用する考え方。

*2 地域レジリエンス:人口減少、産業構造の変化、経済ショックなどの環境変化に対して、地域が適応し、持続性を維持する能力。

*3 集積の影:大都市圏への過度な集中や依存により、周辺地域の成長機会や資源が吸収され、地域間の補完関係が十分に機能しない状態。

参考文献

[1] Otsuka, A. (2026). Borrowed Size and Regional Resilience: Lessons from Japan. New Frontiers in Regional Science: Asian Perspectives, Vol. 86. Springer Nature Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-95-7016-4

[2] Otsuka, A. (2021). A New Driver of Regional Sustainability in Japan: Inter-regional Network Economies. New Frontiers in Regional Science: Asian Perspectives, Vol. 54. Springer Nature Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-16-3709-4

[3] Otsuka, A. (2017). A New Perspective on Agglomeration Economies in Japan: An Application of Productivity Analysis. New Frontiers in Regional Science: Asian Perspectives, Vol. 20. Springer Nature Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-10-6490-6 

お問合せ先

横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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