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起業家パートナーシップ論を絵画で表現
大学発スタートアップ創出に向けた共創手法の確立へ

横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科の伊藤智明准教授(研究・産学連携推進センター スタートアップ推進部門 副部門長)は、2024年9月6日に開催された日本経営学会第98回大会の統一論題「経営学の前提を問い直す」のサブテーマ②「変化する多様な現実を捉える実践的な研究方法」において研究報告を行いました。本研究は、絵画や映像などの視覚イメージを用いることで、アントレプレナーシップ教育や大学発スタートアップ創出の取り組みに向けた新たな共創手法を提示し、実践的かつ学術的にインパクトあるものへと高めることを目指しています。

研究報告に向けて、日本画家の石田翔太氏(大分大学教育学部 講師)に「起業家パートナーシップ論」*1(図1)をテーマにした絵画制作を依頼しました。この絵画は、連続起業家・乃村一政氏(株式会社マイホム 代表取締役CEO/横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科 共同研究員)との「ことばの交換」*2 で蓄積された質的データや、それに基づき公刊された学術論文を素材として制作され、《accept》《respond》《Cocoyori》*3(写真1)という「2+1作品」に結実しました。

本研究成果は、学術雑誌『日本経営学会誌』第58号に掲載されました(2025年9月10日)。
 
図1 起業家パートナーシップ論のモデル

研究成果のポイント


●  「ことばの交換」で蓄積された質的データを素材として絵画作品を制作

●  起業家パートナーシップ論を芸術的アプローチで表現

●  大学発スタートアップ創出に向けた新たな共創手法を提示

研究背景

起業家のパートナーシップ形成は、スタートアップにおける事業の成功や持続的な成長を左右する重要な要素です。しかし、そのプロセスは数値や契約条件だけでは説明できず、失敗の経験や相互の応答、信頼の積み重ねといった社会的・感情的な側面が大きな役割を果たします。従来の経営学研究では、こうした複雑な現象を十分に捉える方法が限られていました。そこで本研究は、経営学の知見に芸術的表現を組み合わせることで、起業家の経験をより多面的かつ直観的に理解できる新たな研究手法の提示を目指しています。

研究内容

本研究では、伊藤智明准教授が、連続起業家の乃村一政氏との「ことばの交換」を通じて蓄積した質的データおよびそれに基づく学術論文を素材に、日本画家の石田翔太氏に絵画制作を依頼しました。この共同制作の成果として、《accept》《respond》《Cocoyori》と名づけられた「2+1作品」が石田氏によって生み出されました。これらの作品は、

• 特別な他者による失敗の先取りとその応答
• 起業家の修正と共同経営者の応答
• 起業家チームの存続に関する意思決定
 
といった、起業家パートナーシップ形成における重要な局面を視覚的に表現しています。本研究は、起業家の語りや行動に伴う暗黙的かつ無意識的に扱われる情報、知識、経験を、絵画という芸術的手法で表現し、経営学の研究対象を拡張する試みです。これにより、従来の言語や数値中心の研究だけでは捉えきれなかった起業家固有の経験の複雑性を、教育や実践の現場で議論し、応用可能な形へと転換することを目指しました。

 
写真1 共同制作の成果として、《accept》(左)と《respond》(右)、2枚が1枚の絵画となった《Cocoyori》(2+1作品)が生み出された

今後の展開

今後は、制作された絵画や映像表現を横浜市立大学のアントレプレナーシップ教育に積極的に活用し、学生、研究者、ビジネスパーソンなど多様な人々が、パートナーシップを中心に経営リテラシー向上に資するテーマを多角的に学べる環境の整備に取り組みます。また、大学発スタートアップ創出や地域企業との連携へと広げ、研究成果を教育と実践の双方に還元します。さらに、絵画や映像といった芸術的表現やクリエイティブ手法を経営学に導入する共創的アプローチを発展させ、短期的で近視眼的な活動に陥ることなく、長期的に持続可能なスタートアップ生態系の形成と繁栄に貢献することを目指します。 

用語説明

*1 起業家パートナーシップ論:伊藤智明 (2022).「苦悩する連続起業家とパートナーシップ生成:二人称的アプローチに基づく省察の追跡」『経営行動科学』33(3), 119-141. https://doi.org/10.5651/jaas.33.119
*2 ことばの交換:起業家と研究者が継続的に語り合い、その語りを記録・共有しながら思考を深める対話手法。(詳しくは右記参照:https://www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/20240709ito.html
*3 《accept》《respond》《Cocoyori》: 共同制作の成果として生み出された絵画のタイトル。左が《accept》、右が《respond》。2枚が1枚の絵画となったときの題名が《Cocoyori》。(詳しくは右記参照:https://www.yokohama-cu.ac.jp/admissions/yokoshiri/academics/2024/20241118itochiaki.html
 

研究費

本研究は、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)22K01698(「組織が生まれる道筋の二人称的アプローチによる理論化」)、横浜市立大学 学長裁量事業 戦略的研究推進事業「研究開発プロジェクト」(「横浜市立大学における共創イノベーション手法の研究開発:学術的な研究成果のよりよい社会実装の在り方を探究する」)の支援を受けて実施されました。 

掲載論文

タイトル:起業家的パートナーシップの生成過程の語りと画家による視覚イメージの生成
著者:伊藤 智明
掲載雑誌:『日本経営学会誌』第58号

お問い合わせ先

横浜市立大学 広報担当
mail:koho@yokohama-cu.ac.jp
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