YCU Research Portal

YCU Research Portal

「ことばの交換」の実用化を目指して、
本学初となる人文学・社会科学分野の大学発認定ベンチャーの株式会社STUDIUSを設立

「ことばの交換」の始まり

横浜市立大学 国際マネジメント研究科 国際マネジメント専攻の伊藤 智明 准教授は、大学院在学時に経営学のあり方を模索する中で、乃村一政氏(現 株式会社マイホム 代表取締役CEO)というひとりの起業家と出会ったことをきっかけにして、2011年4月21日に「ことばの交換」と名づけた「語りの共同生成」を開始しました。「ことばの交換」では、乃村氏と伊藤准教授というふたりの参加者の語り合いを伊藤准教授が毎回ICレコーダーで録音して文字に起こし、その逐語記録を乃村氏に送付します。こうすることで起業家である乃村氏は自分が何をしゃべったのかをいつでも見返すことができ、自分が内省したいタイミングで思う存分内省することができます。他方で伊藤准教授の方は以下のような問いをゆっくりと探究することができます。起業家がどのように自社の商品をつくり出し、顧客と出会っているのか。創業前後でどのような人々とのパートナーシップをどのように結んでいるのか。事業の存亡や盛衰に応じて、自己像はどのように変化していくか。こうした起業家と研究者という異質な者同士による共創の取り組みを乃村氏と伊藤准教授は13年間続けてきました。

横浜市立大学発認定ベンチャー「株式会社STUDIUS 」の設立

「ことばの交換」では、ふたりの参加者がよく分からないことに対峙する経験を積み重ねていくこと、積み重ねた経験から分かったことを自分のことばとして話してみること、自分のことばで話そうとしている相手の声を聞こうとすることを大切にしてきました。ふたりで13年続けることができた「ことばの交換」の実用化を目指して、2024年4月23日に株式会社STUDIUSを本学の実務家教員と共同で設立し、横浜市立大学発認定ベンチャーとして認定されました。

同社のミッションは「わたしたちが安心して夢中になれる」時空間を提供することです。その一つの取り組みとして、アントレプレナー型の経営人材を輩出するための対話型かつ長期型の経営コンサルティング、企業研修があります。少子高齢化が進行し続ける我が国においては、役職定年を迎える社員の活躍機会の提供やスキップレベルで昇進(例えば部長職から執行役員を飛び越えて取締役に昇進)していくような経営人材への教育機会の提供がこれまで以上に必要になってくると考えられます。これからは、これらの機会の提供などを通じて、新たな事業を創造し、想定外の事態に立ち向かうことができる経営人材を育成していくことが企業にも求められるようになってきます。アカデミア発の「ことばの交換」によるアプローチは、そうした企業の経営活動に活かすことができると考えられます。
 

「STUDIO YCU」や「臨床経営研究会」にも広がる活動

また、2024年度から本学で開始した、アントレプレナーやスタートアップを目指す学生のために、卒業生からなる市大サポーターグループを通じて人材育成支援を行う「STUDIO YCU」でも、「ことばの交換」で得られた成果が活かされています。2024年6月7日に開催された第1回では、市大を卒業した起業家に、成功体験ではなく失敗体験をお話しいただき、その経営上の危機の乗り越え方、失敗のマネジメントを中心に学生とディスカッションを行いました。

さらに伊藤准教授が主宰する「臨床経営研究会」では、経営学者が経営者などの実務家や他分野の研究者らと語り合いながら、経営学の知識を使ったり、生み出したりしていくことを目指しています。この研究会では、経営者などの人生の当事者が困ったときや危険にさらされたとき、どのように生き抜いていくかの知恵を、経営者の苦悩や微細な変化から理論化しようとしています。  

                          
                   第1回 STUDIO YCU リーフレット                   STUDIO YCU の聴講生と会場内の様子