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免疫チェックポイント阻害薬の固形がん周術期投与における副作用に関するリスクを報告
ーがん患者への情報提供での活用に期待ー

横浜市立大学附属病院 化学療法センター 堀田信之センター長とロズウェルパーク総合がんセンター(米国ニューヨーク州) 血液・腫瘍内科の藤原裕医師らの共同研究グループは、約17,000人の世界各国のデータを用いてシステマティックレビュー解析*1を行い、がん治療の新しいアプローチとして注目されている免疫チェックポイント阻害薬*2を従来の固形がんの周術期(手術前、手術後)治療に追加する場合の副作用リスクを正確に算出しました。


本研究成果は、英文医学誌「THE LANCET Oncology」に掲載されました。(日本時間2023年11月25日)

研究背景

日本人の死因で最も多いのはがんであり、約4人に1人が亡くなっています。その治療法は外科治療・薬物療法・放射線治療などが挙げられますが、近年、免疫チェックポイント阻害薬が日本でも承認されたことで、がん治療の新しいアプローチとして注目されています。免疫チェックポイント阻害薬を固形がんの周術期に投与(術前化学療法、術後化学療法)することにより無病生存期間、長期死亡率が改善するという報告があり、実臨床でも広く用いられるようになっています。しかし、個別の研究では重度な有害事象発生頻度が少なく検出力が限られているため、副作用リスクが十分に評価できていませんでした。

研究内容

本研究グループでは、システマティックレビューにより28本のランダム化比較試験の約17,000人のデータを解析しました。解析の結果、治療関連死亡の増加傾向(オッズ比1.76、 95%信頼区間*30.95-3.25)、Grade 3~4の副作用(重大な副作用)の増加(オッズ比2.73、 95%信頼区間1.98-3.76)、治療中止に至る副作用の増加(オッズ比3.76、 95%信頼区間2.45-5.51)、が確認されました。(図1)

また、発生頻度は少ないものの (0.41%)、治療関連死亡の原因として肺臓炎、心筋炎、腸炎などが特定されました。
図1 Grade 3~4の副作用(重大な副作用)の増加

今後の研究展開および波及効果

本研究は、安全性の担保が重要視される術前・術後の周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬の有害事象頻度を正確に解明した重要な成果となります。研究成果は日常診療でのがん患者さんへの情報提供に役立つと共に、今後は重篤な有害事象のリスク因子の同定や、有害事象の発生と周術期治療成績との関連性を解明する研究が期待されます。

論文情報

タイトル: Treatment-related adverse events, including fatal toxicities, in patients with solid tumours receiving neoadjuvant and adjuvant immune checkpoint blockade: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.
著者:Yu Fujiwara (藤原裕), Nobuyuki Horita (堀田信之), Elio Adib, Susu Zhou (周素蘇), Amin H Nassar , Zain UL Abideen Asad, Alessio Cortellini, Abdul Rafeh Naqash.
掲載雑誌: THE LANCET Oncology
DOI: 10.1016/S1470-2045(23)00524-7

用語説明

1 システマティックレビュー解析:
既存の論文を系統的に検索評価して解析する手法。

2 免疫チェックポイント阻害薬:
がん細胞によって抑えられていた免疫細胞(T細胞)の働きを再び活性化させることができる。2018年12月に京都大学の本庶佑氏が医学生理学賞を授与されたことでも注目を集めた新しいタイプのがん薬物療法である。

3 95%信頼区間:
真値(知りたい値)を推定するにあたり、95%の確率で真値を捉えると考えられる区間のこと。

お問い合わせ先

横浜市立大学 広報課
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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