ホスピス住宅の健康関連QOLや身体・精神面の状態を可視化する評価尺度をデータで検証
横浜市立大学医学部看護学科の叶谷由佳教授、三浦武助教らの研究グループと、同大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の黒木淳教授、日本ホスピスホールディングス株式会社は共同で、ホスピス住宅*1における「看取りの質」をより適切に評価し、限られた医療資源の中でも個別のニーズに対応できる支援方法を検討するため、居住者の健康関連QOLや身体・精神面の状態を可視化する2種類の評価尺度の特徴(表1)を踏まえ、適切な使用方法に関して比較・検証を行いました。
本研究成果は、「BMC Palliative Care」に掲載されました(2025年5月11日)。
本研究成果は、「BMC Palliative Care」に掲載されました(2025年5月11日)。
研究成果のポイント
● QOL関連指標であるEQ-5D*2およびIPOS*3を比較検証し、QOLの低い利用者に対してもEQ-5DはIPOSに比べて実施可能性・回答可能性が高いことが認められた。
● 入居前から入居後1週間では、EQ-5DおよびIPOSともにほぼ変化がない一方で、状態変化が見られた時には、IPOSの方が療養中の不安や気持ちの変化を捉えていた。
● それぞれの尺度の特性を踏まえた使い分けが、より適切な支援につながる。


研究背景
人生の最終段階を迎える人が、住み慣れた地域で安心して過ごすことができるよう支える「ホスピス住宅」は、地域の中でますます重要な役割を果たしています。特に高齢化が進む中で、がんなどの疾患を抱える方の増加に伴い、こうした場でのケアの質をどのように保ち、より良くしていくかが重要な課題です。
特に、「看取りの質」をどのように可視化・定量化して評価し、適切な支援につなげていくか、が重要視されています。医療や介護の現場では、利用者本人の心身の状態や不安を丁寧に把握することが、ケアの提供には欠かせません。そのため、本人の感じている痛みや不安、生活のしづらさを適切に捉えるための評価方法が必要とされています。
本研究では、「看取りの質」の定量化に適した2つの評価尺度、EQ-5D-5LとIPOSに注目し、ホスピス住宅で実施した調査結果に基づいて、それぞれがどのような特性を持ち、どのように活用ができるかを検討しました。
特に、「看取りの質」をどのように可視化・定量化して評価し、適切な支援につなげていくか、が重要視されています。医療や介護の現場では、利用者本人の心身の状態や不安を丁寧に把握することが、ケアの提供には欠かせません。そのため、本人の感じている痛みや不安、生活のしづらさを適切に捉えるための評価方法が必要とされています。
本研究では、「看取りの質」の定量化に適した2つの評価尺度、EQ-5D-5LとIPOSに注目し、ホスピス住宅で実施した調査結果に基づいて、それぞれがどのような特性を持ち、どのように活用ができるかを検討しました。
研究内容
地域のホスピス住宅に入居する療養者のうち、主病名ががんと診断されている120名を対象に、2021年から2023年にかけての縦断的調査を実施し、それぞれの尺度の特性に迫る検証を行いました。入居者には、入居時および1週間後、そしてスタッフが入居者の身体的・精神的状態に変化があったと判断した際の3つの時点で評価に協力していただき、両尺度の特性を確認しました。その結果、EQ-5D-5Lスコアは、IPOSの回答が困難であった対象者においても回答可能であり、状態にかかわらず多くの対象者からの回答が得られていることが示されました。EQ-5D-5Lは項目数が少なく、回答負担が比較的少ないため、全体的なQOLを簡便に把握する手段として有用であることが示唆されます(表2)。
また、入居前から入居後1週間では、EQ-5D-5LとIPOSの双方ともにほぼ変化がない一方で、状態が変化した際には、IPOSの方が療養中の不安や気持ちの変化を捉えていることがわかりました(表3)。これらの結果から、限られた医療・介護資源のなかでも、評価の目的や入居者の状態に応じて、2つの尺度を適切に使い分けることが重要であると考えられます。たとえば、症状が安定している場合にはEQ-5D-5Lを、心理的・感情的な変化に注目する場合にはIPOSを活用するなどの方法が期待できます。
また、入居前から入居後1週間では、EQ-5D-5LとIPOSの双方ともにほぼ変化がない一方で、状態が変化した際には、IPOSの方が療養中の不安や気持ちの変化を捉えていることがわかりました(表3)。これらの結果から、限られた医療・介護資源のなかでも、評価の目的や入居者の状態に応じて、2つの尺度を適切に使い分けることが重要であると考えられます。たとえば、症状が安定している場合にはEQ-5D-5Lを、心理的・感情的な変化に注目する場合にはIPOSを活用するなどの方法が期待できます。




今後の展開
今後は、より多くの入居者を対象とした継続的な調査を行い、評価尺度の有効性をさらに検証していく予定です。本研究の成果をもとに、限られた医療資源の中でも質の高い看取りを支える実践につなげていきます。地域における終末期ケアの質向上に向けて、今後も研究と現場の連携を深めてまいります。
用語説明
1 ホスピス住宅:医療サポートが継続的に必要な、がん末期や ALS 等神経難病の⽅が、最期まで⽣活できる住宅。住宅型有料⽼⼈ホームやサービス付き⾼齢者向け住宅に、訪問看護・介護を併設して、ご⼊居者の⽣活を⽀える。
*2 EQ-5D:EQ-5D(EuroQol 5 Dimension)は、医療技術の経済評価において質調整生存年の算出に用いるためのQOL値を算出することができる世界的に最も汎用されている尺度。「移動の程度」「身の回りの管理」「ふだんの活動」「痛み╱不快感」「不安╱ふさぎ込み」の5問から構成されている。
*3 IPOS:IPOS(Integrated Palliative care Outcome Scale)はホスピス・緩和ケアにおける評価尺度の1つで、STAS(Support Team Assessment Schedule)の後継版。 主要項目として「身体症状」「不安や心配、抑うつ」「スピリチュアリティ」「患者と家族のコミュニケーション」「病状説明の十分さ」「経済的や個人的な気がかりに対する対応」から構成されており、症状だけでなく社会的側面、スピリチュアルな側面など緩和ケアにとって必要な全人的な評価を可能とする尺度。
*2 EQ-5D:EQ-5D(EuroQol 5 Dimension)は、医療技術の経済評価において質調整生存年の算出に用いるためのQOL値を算出することができる世界的に最も汎用されている尺度。「移動の程度」「身の回りの管理」「ふだんの活動」「痛み╱不快感」「不安╱ふさぎ込み」の5問から構成されている。
*3 IPOS:IPOS(Integrated Palliative care Outcome Scale)はホスピス・緩和ケアにおける評価尺度の1つで、STAS(Support Team Assessment Schedule)の後継版。 主要項目として「身体症状」「不安や心配、抑うつ」「スピリチュアリティ」「患者と家族のコミュニケーション」「病状説明の十分さ」「経済的や個人的な気がかりに対する対応」から構成されており、症状だけでなく社会的側面、スピリチュアルな側面など緩和ケアにとって必要な全人的な評価を可能とする尺度。
研究費
本研究は、日本ホスピスホールディングス株式会社からの研究助成を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Comparing EQ-5D-5L and IPOS among residents with malignant tumors in a community home hospice: a longitudinal study
著者: Takeshi Miura, Masato Kaneko, Kei Kawano, Yuka Kanoya, Makoto Kuroki
掲載雑誌: BMC Palliative Care
DOI: 10.1186/s12904-025-01779-2
著者: Takeshi Miura, Masato Kaneko, Kei Kawano, Yuka Kanoya, Makoto Kuroki
掲載雑誌: BMC Palliative Care
DOI: 10.1186/s12904-025-01779-2
参考
〇横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻について
医学部とデータサイエンス学部を併せ持つ国内唯一の大学である横浜市立大学は、ヘルスデータサイエンスに特化した大学院として、令和2年4月にデータサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻を開設しました。予防・医療・介護に関するヘルス領域の専門知識を有する方が、ヘルスサービスの質向上に向けたデータサイエンス研究に取り組むための教育課程です。具体的には、研究デザイン学と生物統計学の基礎知識をベースに研究を展開します。
医学部とデータサイエンス学部を併せ持つ国内唯一の大学である横浜市立大学は、ヘルスデータサイエンスに特化した大学院として、令和2年4月にデータサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻を開設しました。予防・医療・介護に関するヘルス領域の専門知識を有する方が、ヘルスサービスの質向上に向けたデータサイエンス研究に取り組むための教育課程です。具体的には、研究デザイン学と生物統計学の基礎知識をベースに研究を展開します。


〇日本ホスピスホールディング株式会社
代表取締役 高橋 正
本店所在地 東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル2階
代表取締役 高橋 正
本店所在地 東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル2階
拠点数 48拠点1,609室(2024年末日時点)
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