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1/1000秒で制御可能な高速磁気ピンセットを開発
—生きた細胞内の力学応答測定に成功—

横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科博士後期課程の折井良太氏、同大学院生命ナノシステム科学研究科の谷本博一准教授、東京農工大学大学院工学府博士後期課程の宮本明典氏、同大学院工学研究院先端物理工学部門の村山能宏准教授らの研究グループは、1/1000秒の精度で磁場の大きさを制御できる高速磁気ピンセットを開発し、生きた細胞内における力学応答の測定に成功しました。デジタル制御方式を用いることで従来の方法よりも簡便に磁場を制御できることから、細胞内の力学応答測定に限らず、生体材料などのソフトマテリアルの開発、評価等に広く活用されることが期待されます。

本研究成果は、Applied Physics Letters(2月25日付)に掲載されました。
論文タイトル:High-speed intracellular magnetic tweezers with digital PID controller
URL:https://doi.org/10.1063/5.0306107

背景

力を加えたとき、バネのように伸びたり縮んだりする性質を弾性、水のように流れる性質を粘性と呼び、これらをあわせ持った性質を粘弾性と呼びます。細胞や細胞核内の粘弾性は細胞分化や腫瘍の形成、遺伝子発現の調節等と密接に関係しており、これまでにも様々な手法で粘弾性に関する力学応答測定が行われてきました。細胞内は複雑な構造をしており、1~1000 ピコニュートン(注1)の力の範囲で測定する必要があります。この場合、細胞内に直径数マイクロメートルの磁気ビーズを導入し、電磁石を用いてビーズに力を加える手法が有効であり、このような用途に用いる電磁石を磁気ピンセットと呼びます。磁気ピンセットを用いて細胞内に力を加える場合、磁場を精密に制御する必要がありますが、従来のアナログ回路を用いた制御方式では高度な知識と技術が求められました。本研究では、汎用の制御器を用いたデジタル制御方式を採用することで、従来の方法よりも簡便でありながら1/1000秒の精度で高速に制御できる磁気ピンセットの開発に成功しました。

研究体制

本研究は、横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科の大学院生 折井良太氏、同大学院生命ナノシステム科学研究科の谷本博一准教授、東京農工大学工学府電子情報工学専攻の大学院生 宮本明典氏、同大学院工学研究院先端物理工学部門の村山能宏准教授らが共同で実施しました。本研究の一部は、JSPS科研費JP23KJ0865、JP22K19277、JP22H05171、JP24K06975、および科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR20E9)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)の助成を受けたものです。

研究成果

FPGA (Field Programmable Gate Array)と呼ばれるプログラミング可能なデバイスが組み込まれた汎用のデジタル制御器を用いて、生細胞の顕微観測に使用可能な磁気ピンセットを作成しました。その結果、1/1000秒の精度で磁場を高速制御することに成功するとともに、導線からの発熱にともなう芯材の熱変形を抑制する手法の開発に成功しました。さらに、開発した磁気ピンセットを用いて生きた細胞内に導入した磁気ビーズに一定の力を加えた結果、粘弾性に関する4桁の時間スケール(1/1000~10秒)の応答を1回の測定で取得可能なことを示しました。本研究で開発した磁気ピンセットを用いることで、芯材の接触による細胞へのダメージを防ぐとともに、従来行われてきた繰り返しの測定では得ることのできない細胞内のやわらかい構造の変化が検出可能になります。また、分子モーターや細胞骨格が関係したミリ秒スケールの反応が粘弾性に及ぼす影響を検出可能になると期待されます。

今後の展開

本研究で開発したデジタル制御型高速磁気ピンセットは、電気回路や制御に関する高度な知識や技術を必要としないため、細胞生物学やソフトマター物理分野に限らず、機能性材料や生体材料といったソフトマテリアルの開発、評価等に広く活用されることが期待されます。

用語解説

注1)ピコニュートン
ニュートンは力の単位。100gの物体に加わる重力の大きさが約1ニュートン。1ピコニュートンは1ニュートンの1012分の1の大きさ。
図1:開発した磁気ピンセットを用いた細胞内の力学応答測定。 (doi:10.1063/5.0306107の図を一部改変。)

お問い合わせ先


横浜市立大学 広報担当
mail:koho@yokohama-cu.ac.jp
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