熱ストレス応答時における 核内ストレス体の形成メカニズムの解明 MED26が熱ストレス応答時にPol IIの転写及び核内ストレス体の形成を促進
横浜市立大学大学院医学研究科 分子生物学教室の李柯昕さん(博士課程1年)、古郡華月さん(博士課程3年)、鈴木秀文講師、高橋秀尚主任教授、ならびに同研究科 神経内科学教室の阿部竜太さん(博士課程2年)の研究グループは、熱ストレスを受けた細胞において、転写因子HSF1*1がMED15を介してMED26を含むメディエーター複合体*2を核内ストレス体(nSB)*3へ誘導することを明らかにしました。さらに、MED26がメディエーター複合体とRNAポリメラーゼII(以下、Pol II)の複合体形成を促し、核内ストレス体の形成を促進することを示しました(図1)。
本研究成果は、米科学誌「iScience」に掲載されました(日本時間2026年9月23日)。
本研究成果は、米科学誌「iScience」に掲載されました(日本時間2026年9月23日)。
研究成果のポイント
● 熱ストレス時、MED26型メディエーターが核内ストレス体へ移動することを解明。
● MED26型メディエーターのリクルートには、複合体内の因子MED15が必要であることを解明。
● MED26がメディエーターとPol IIの複合体形成を促し、核内ストレス体の形成を支えることを解明。
熱ストレス応答時には、転写因子HSF1が、サブユニットMED15を介してメディエーター複合体を核内ストレス体へ誘導する。また、HSF1のリン酸化が、この集積を促進する可能性が示された。さらに、MED26はメディエーター複合体とPol IIの複合体形成を促すことで、熱ストレス応答遺伝子の転写と核内ストレス体の形成を促進することを示した。
研究背景
細胞は外部環境から高温や低酸素、酸化などのさまざまなストレスにさらされると、細胞内の状態を保つため、遺伝子発現を変化させることで対応します。熱ストレスの場合には、細胞質に存在する転写因⼦HSF1が活性化し、核へと移⾏して熱ストレス応答性遺伝⼦*4の転写を活性化させます。このような遺伝子から作られるタンパク質は、細胞が熱ストレスに適応する上で重要な役割を担っています。
熱ストレス時には、HSF1 によって熱ストレス応答に関わる遺伝子の転写活性化と並行して、HSATIIIと呼ばれるlncRNA(long-non-coding RNA)*5の転写も活性化されます。このHSATIII RNAとHSF1を足場として、タンパク質などの分子が細胞核内の特定の場所に集まり、「核内ストレス体(nSB: nuclear stress body)」と呼ばれる非膜構造体が形成されます。これまでの研究により、核内ストレス体は、熱ストレス時やその後の回復過程において、遺伝子の働きやRNAのスプライシング*6などの制御に関わることが示されていました。しかし、熱ストレスを受けた際に、具体的にどのような仕組みでHSATIIIの転写が促進され、核内ストレス体が形成されるのかは、十分に分かっていませんでした。
熱ストレス応答遺伝子とHSATIII RNAは、いずれもPol IIによって転写されます。Pol IIによる転写を調節する重要な因子の一つが、メディエーター複合体と呼ばれる巨大な転写制御複合体です。メディエーター複合体はさまざまな転写制御因子と相互作用し、Pol IIによる遺伝子の転写を調節します。
これまでに高橋教授らの研究グループは、メディエーター複合体を構成する因子の一つ であるMED26が、転写伸⻑複合体*7と相互作⽤し、これを遺伝⼦領域へリクルートされることで転写の伸⻑を促進することを明らかにしてきました。一方で、ヒト細胞で熱ストレス応答時にHSF1とメディエーター複合体がどのように相互作用するのか、核内ストレス体の形成にメディエーター複合体がどのように関わるのかについては解明されていませんでした。
熱ストレス時には、HSF1 によって熱ストレス応答に関わる遺伝子の転写活性化と並行して、HSATIIIと呼ばれるlncRNA(long-non-coding RNA)*5の転写も活性化されます。このHSATIII RNAとHSF1を足場として、タンパク質などの分子が細胞核内の特定の場所に集まり、「核内ストレス体(nSB: nuclear stress body)」と呼ばれる非膜構造体が形成されます。これまでの研究により、核内ストレス体は、熱ストレス時やその後の回復過程において、遺伝子の働きやRNAのスプライシング*6などの制御に関わることが示されていました。しかし、熱ストレスを受けた際に、具体的にどのような仕組みでHSATIIIの転写が促進され、核内ストレス体が形成されるのかは、十分に分かっていませんでした。
熱ストレス応答遺伝子とHSATIII RNAは、いずれもPol IIによって転写されます。Pol IIによる転写を調節する重要な因子の一つが、メディエーター複合体と呼ばれる巨大な転写制御複合体です。メディエーター複合体はさまざまな転写制御因子と相互作用し、Pol IIによる遺伝子の転写を調節します。
これまでに高橋教授らの研究グループは、メディエーター複合体を構成する因子の一つ であるMED26が、転写伸⻑複合体*7と相互作⽤し、これを遺伝⼦領域へリクルートされることで転写の伸⻑を促進することを明らかにしてきました。一方で、ヒト細胞で熱ストレス応答時にHSF1とメディエーター複合体がどのように相互作用するのか、核内ストレス体の形成にメディエーター複合体がどのように関わるのかについては解明されていませんでした。
研究内容
本研究では、熱ストレス応答時におけるHSF1とメディエーター複合体の相互作用に着目し、MED26を含むメディエーター複合体による遺伝子の転写制御と核内ストレス体形成のメカニズムを解析しました。
まず、熱ストレスを与えた細胞を観察したところ、通常時にはカハール体*8に位置していたMED26が、熱ストレス時には核内の大きな点状の構造体へ移動することを確認しました。さらに、この構造体がHSF1とHSATIII RNAを含む核内ストレス体(nSB)であることがわかりました(図2)。
まず、熱ストレスを与えた細胞を観察したところ、通常時にはカハール体*8に位置していたMED26が、熱ストレス時には核内の大きな点状の構造体へ移動することを確認しました。さらに、この構造体がHSF1とHSATIII RNAを含む核内ストレス体(nSB)であることがわかりました(図2)。
免疫染色法およびRNA-FISH法を用いて解析した結果、熱ストレス応答時に、サブユニットMED26はカハール体から解離し、HSF1とHSATIII lncRNAと核内ストレス体(nSB)で共局在することが示唆されました。また、HSF1近傍のタンパク質を網羅的に解析した結果、熱ストレス時にはMED26を含むメディエーター複合体のサブユニットが多く検出されました。
次に、核内ストレス体への集積に関わる因子を詳細に調べたところ、HSF1がMED15という因子を介して、MED26を含むメディエーター複合体をリクルートすることが分かりました。細胞内でMED15を急速分解すると、MED26の集積およびHSATIII RNAの転写が低下しました。また、HSF1のリン酸化が、核内ストレス体へのメディエーター複合体の集積とHSATIII RNAの転写に不可欠であることも明らかになりました(図3)。
HSF1と相互作用するサブユニットを調べるために、メディエーター複合体のサブユニットであるMED15、MED25、MED26をそれぞれ急速分解できる実験細胞を作成しました。これらの細胞を用いてRNA-FISH解析などを行った結果、特にMED15を急速分解した時に、MED26とHSF1との共局在が減弱し、HSATIII RNAの転写量も減少しました。また、MED26を急速分解した時に、HSATIII RNAの転写も減少しました。さらに、HSF1の非リン酸化変異体を安定発現する細胞株を作成し実験を行った結果、核内ストレス体へのMED26のリクルートにはHSF1のリン酸化が必要であることが明らかになりました。
さらに、MED26を急速分解すると、熱ストレス応答性遺伝子の領域ではメディエーター複合体とPol IIの双方の集積が低下しました。一方で、HSATIII遺伝子領域(核内ストレス体)では、メディエーター複合体が留まるにもかかわらずPol IIの集積が低下し、HSATIII RNAの転写も減少しました。これらの結果から、MED26はメディエーター複合体とPol IIの複合体形成を助けることで、核内ストレス体におけるHSATIII RNAの転写を促進し、その形成を支えることが示されました(図4、図5)。
熱ストレス時にMED26を急速分解すると、核内ストレス体にあるHSATIII RNAとPol IIが減少しました。図は、メディエーターサブユニットであるMED1とPol IIが熱ストレス応答性遺伝子(HSP遺伝子)やHSATIII領域にそれぞれどの程度集まるかを示しています。MED26を急速分解しても、HSATIII領域にはMED1が残る一方Pol IIの結合が減少しました。
熱ストレス時、HSF1はMED15を介してMED26を含むメディエーター複合体を熱ストレス応答性遺伝子およびHSATIII遺伝子領域へリクルートします。MED15を減らすと、この複合体の集積とHSATIII RNAの産生が低下します。また、HSF1のリン酸化は、特に核内ストレス体へのメディエーター複合体の集積を促します。
(A)熱ストレス応答性遺伝子:MED26を急速に分解すると、熱ストレス応答性遺伝子ではメディエーター複合体とPol IIの集積がともに低下し、HSP RNAの産生が減少します。
(B)核内ストレス体(nSB):MED26を急速分解した場合でもメディエーター複合体が残るものの、Pol IIの集積とHSATIII RNAの産生が低下し、核内ストレス体の形成も弱まります。
これらの結果から、MED26は特に核内ストレス体において、メディエーター複合体とPol IIの複合体形成を助けると考えられます。
今後の展開
今後は、熱ストレス時にリン酸化されたHSF1とMED15との相互作用が「メディエーター複合体の核内ストレス体への集積を調節する仕組み」や「MED26がメディエーター複合体とPol IIの結合を促進する仕組み」、さらには「核内ストレス体が熱ストレス時やその後の回復過程において遺伝子発現を調節する仕組み」などを明らかにすることで、細胞がストレスに適応する機構の解明につながることが期待されます。また、がん細胞では熱ストレス応答が常に亢進状態であることが知られています。本研究で提示した熱ストレス応答機構を明らかにすることは、がんの発症機構を解明する上でも極めて重要であり、今後の研究が期待されます。
研究費
本研究は、AMED-PRIME(革新的先端研究開発支援事業「ストレス応答性液滴の構成因子同定法による新たな細胞ストレス応答機構の解明」:高橋秀尚)、JSPS科研費(16H06279および221S0002〔PAGS〕)、科研費(24K01958および25K22456:高橋秀尚)、ならびに研究助成(武田科学振興財団、光科学技術研究振興財団:高橋秀尚)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:MED26 facilitates Mediator-Pol II complex assembly and promotes nuclear stress body formation during heat stress
著者:Kexin Li, Kazuki Furugori, Hidefumi Suzuki, Ryota Abe, Shun Sawatsubashi, Nanami Yasui, Yoko Ike, Keiko Horiuchi, and Hidehisa Takahashi
掲載雑誌:iScience
DOI:10.1016/j.isci.2026.117557
著者:Kexin Li, Kazuki Furugori, Hidefumi Suzuki, Ryota Abe, Shun Sawatsubashi, Nanami Yasui, Yoko Ike, Keiko Horiuchi, and Hidehisa Takahashi
掲載雑誌:iScience
DOI:10.1016/j.isci.2026.117557
用語説明
*1 HSF1 (Heat Shock Factor 1):熱ストレスに応じて活性化する転写因子。核内で遺伝子の働きを調節し、熱ストレス応答を引き起こす。
*2 メディエーター複合体:31種類のサブユニットからなる巨大な転写制御複合体。さまざまな調節因子と相互作用することで、遺伝子発現の制御に重要な役割を果たす。
*3核内ストレス体 (nSB):熱ストレス時に細胞核内に形成される、膜で囲まれていない構造体。HSATIII RNAやHSF1などを足場として、さまざまな分子が集まる。
*4熱ストレス応答性遺伝⼦:熱ストレスを受けた時に転写量が高まり、細胞が熱ストレスに対応するために必要なタンパク質を作る遺伝子。
*5HSATIII lncRNA:熱ストレス時に作られる非コードRNA。HSF1などとともに核内ストレス体に集まり、その形成に関わる。
*6スプライシング:遺伝子から転写された未成熟なRNAから、不要な部分を取り除き、必要な部分をつなぎ合わせることで、成熟したmRNA(メッセンジャーRNA)を合成する過程のことを指す。
*7 転写伸⻑複合体:RNAポリメラーゼII(Pol II)がDNA上を移動しながらRNAを合成する「伸長」の段階を、円滑かつ効率的に進めるために働く分子(タンパク質)の集合体。
*8カハール体:細胞核内に存在する、膜を持たない球状の構造体(非膜構造体)の一つ。小分子核RNA(snRNA)の成熟や、スプライシングに関わる因子の構築・集積の場として機能する。
*2 メディエーター複合体:31種類のサブユニットからなる巨大な転写制御複合体。さまざまな調節因子と相互作用することで、遺伝子発現の制御に重要な役割を果たす。
*3核内ストレス体 (nSB):熱ストレス時に細胞核内に形成される、膜で囲まれていない構造体。HSATIII RNAやHSF1などを足場として、さまざまな分子が集まる。
*4熱ストレス応答性遺伝⼦:熱ストレスを受けた時に転写量が高まり、細胞が熱ストレスに対応するために必要なタンパク質を作る遺伝子。
*5HSATIII lncRNA:熱ストレス時に作られる非コードRNA。HSF1などとともに核内ストレス体に集まり、その形成に関わる。
*6スプライシング:遺伝子から転写された未成熟なRNAから、不要な部分を取り除き、必要な部分をつなぎ合わせることで、成熟したmRNA(メッセンジャーRNA)を合成する過程のことを指す。
*7 転写伸⻑複合体:RNAポリメラーゼII(Pol II)がDNA上を移動しながらRNAを合成する「伸長」の段階を、円滑かつ効率的に進めるために働く分子(タンパク質)の集合体。
*8カハール体:細胞核内に存在する、膜を持たない球状の構造体(非膜構造体)の一つ。小分子核RNA(snRNA)の成熟や、スプライシングに関わる因子の構築・集積の場として機能する。
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