てんかんに対する「定位的温熱凝固術」
開頭手術よりも虚血性合併症が少ないことが明らかに
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 脳神経外科診療部の林貴啓医師および岩崎真樹部長ほか3名、放射線診療部の木村有喜男医長および佐藤典子部長ほか1名、並びに横浜市立大学大学院医学研究科脳神経外科学教室の池谷直樹講師、高山裕太郎助教らの研究グループは、限局性皮質異形成(FCD)に伴う難治性てんかんに対して行う定位的温熱凝固術(RFTC)が、従来の開頭手術と比較して手術後に生じる脳梗塞の体積が極めて小さいことを明らかにしました。さらに、今回検討したRFTC症例において、手術後に生じる脳梗塞による永続的な神経学的後遺症が生じた症例はありませんでした。加えて、術後1年のてんかん制御率は開頭手術と数値的に同等程度に良好であることも明らかになりました。今回の発見から、術後に合併する脳梗塞が運動麻痺などの合併症につながりやすい脳の運動野周辺や島回のFCDに対して、RFTCがより安全な治療選択肢になりうることが示唆されました。
本治療法は2026年6月より、機能的定位脳手術として保険収載されており、FCDに伴うてんかんの外科治療に対する治療選択に大きく寄与するものと考えられます。
本研究成果は日本時間2026年9月23日に国際学術誌「Epilepsia」オンライン版に掲載されました。
本治療法は2026年6月より、機能的定位脳手術として保険収載されており、FCDに伴うてんかんの外科治療に対する治療選択に大きく寄与するものと考えられます。
本研究成果は日本時間2026年9月23日に国際学術誌「Epilepsia」オンライン版に掲載されました。
■ 研究の背景
難治性てんかんの原因として最も頻度が高い疾患の一つに、脳の構造異常である「限局性皮質異形成(FCD: Focal Cortical Dysplasia)」があります。FCDに伴う薬剤抵抗性の難治性てんかんに対しては、てんかん原性領域(焦点)を外科的に切除する「焦点切除術」が広く行われ、優れたてんかん発作消失効果が実証されています。
しかし、焦点切除術には、脳の深部白質を栄養する細い動脈(髄質動脈:medullary arteries)を損傷し、意図しない深部白質梗塞を引き起こすリスクがあります。もし、FCDが脳の重要な機能を司る「eloquent area(脳の中心部にある運動野や、言語機能を司る島弁蓋部)」に近い場合、これが原因で、術後に予期せぬ運動麻痺や言語障害などの重篤な永続的神経後遺症を合併することがあり、てんかん外科治療における大きな臨床的課題となっていました。
この課題を克服するため、より低侵襲でピンポイントに治療可能なアプローチとして、定位脳手術装置を用いててんかん焦点を熱で凝固する「定位的温熱凝固術(RFTC: Radiofrequency Thermocoagulation)」が注目されています。しかし、従来の開頭手術と比較した際の「術後脳梗塞のリスク(安全性)」や「てんかん発作の抑制効果(有効性)」は十分検討されていませんでした。
しかし、焦点切除術には、脳の深部白質を栄養する細い動脈(髄質動脈:medullary arteries)を損傷し、意図しない深部白質梗塞を引き起こすリスクがあります。もし、FCDが脳の重要な機能を司る「eloquent area(脳の中心部にある運動野や、言語機能を司る島弁蓋部)」に近い場合、これが原因で、術後に予期せぬ運動麻痺や言語障害などの重篤な永続的神経後遺症を合併することがあり、てんかん外科治療における大きな臨床的課題となっていました。
この課題を克服するため、より低侵襲でピンポイントに治療可能なアプローチとして、定位脳手術装置を用いててんかん焦点を熱で凝固する「定位的温熱凝固術(RFTC: Radiofrequency Thermocoagulation)」が注目されています。しかし、従来の開頭手術と比較した際の「術後脳梗塞のリスク(安全性)」や「てんかん発作の抑制効果(有効性)」は十分検討されていませんでした。
■ 研究の概要
研究グループは、NCNP病院においてFCDを伴う難治性てんかんに対して手術を施行した45例(開頭切除術群:30例、RFTC群:15例)を対象に、後ろ向き比較解析を実施しました。両治療法における治療体積の違いが術後梗塞に与える影響を排除するため、統計学的に治療体積をマッチングさせたペア(1:1 nearest-neighbor matching,各群13例ずつ)を抽出し、背景因子を揃えた厳密な比較も行いました。
全症例の解析において、術後急性期の深部白質梗塞の発生率は、開頭切除術群が80.0%(30例中24例)であったのに対し、RFTC群ではわずか13.3%(15例中2例)と極めて低い結果となりました。梗塞の平均体積においても、開頭切除術群が 916 mm³ であったのに対し、RFTC群は 12.1 mm³ と著しく減少していました。また、背景因子を揃えた1:1マッチング解析(13ペア)でも同様に、RFTC群は脳梗塞の発生率が低く(15.4% vs 84.6%, P = 0.003)、梗塞の体積も小さいことが示されました(図1)。また、術後1年目の時点で、血管損傷など「意図しない脳梗塞」に起因する予期せぬ永続的神経学的後遺症(運動麻痺など)は、開頭切除術群で11.1%(3例)に発生したのに対し、RFTC群では0%(0例)であり、臨床的観点から高い安全性が実証されました。術後1年における良好なてんかん発作転帰(ILAE分類 class 1-3:発作が完全に消失、または大幅に減少した状態)を達成した割合は、開頭切除術群で76.6%、RFTC群で73.3%であり、数値的に同等のてんかん制御率が得られることが確認されました。
全症例の解析において、術後急性期の深部白質梗塞の発生率は、開頭切除術群が80.0%(30例中24例)であったのに対し、RFTC群ではわずか13.3%(15例中2例)と極めて低い結果となりました。梗塞の平均体積においても、開頭切除術群が 916 mm³ であったのに対し、RFTC群は 12.1 mm³ と著しく減少していました。また、背景因子を揃えた1:1マッチング解析(13ペア)でも同様に、RFTC群は脳梗塞の発生率が低く(15.4% vs 84.6%, P = 0.003)、梗塞の体積も小さいことが示されました(図1)。また、術後1年目の時点で、血管損傷など「意図しない脳梗塞」に起因する予期せぬ永続的神経学的後遺症(運動麻痺など)は、開頭切除術群で11.1%(3例)に発生したのに対し、RFTC群では0%(0例)であり、臨床的観点から高い安全性が実証されました。術後1年における良好なてんかん発作転帰(ILAE分類 class 1-3:発作が完全に消失、または大幅に減少した状態)を達成した割合は、開頭切除術群で76.6%、RFTC群で73.3%であり、数値的に同等のてんかん制御率が得られることが確認されました。
■ まとめと今後の展望
本研究は、RFTCが従来の焦点切除術と比較して運動野や言語野などの重要な機能領域(eloquent area)、あるいは重要な血管が走行する脳の深部(島弁蓋部など)に局在するFCDに対して、安全な治療選択肢となり得ることを、術後の梗塞体積の差異に着目して証明した世界初の研究です。
本研究でその安全性が実証されたRFTCは、2026年6月より「機能的定位脳手術:てんかんの場合」として日本国内で公的医療保険の適用となっています。これにより、これまで術後麻痺などの合併症リスクを恐れて外科的介入に踏み切れなかった、あるいは切除術後に合併症を余儀なくされていた難治性てんかん患者さんに対して、より安全で低侵襲な治療選択肢を提供することが可能となり、患者さんのQOL(生活の質)向上に大きく寄与することが期待されます。
本研究でその安全性が実証されたRFTCは、2026年6月より「機能的定位脳手術:てんかんの場合」として日本国内で公的医療保険の適用となっています。これにより、これまで術後麻痺などの合併症リスクを恐れて外科的介入に踏み切れなかった、あるいは切除術後に合併症を余儀なくされていた難治性てんかん患者さんに対して、より安全で低侵襲な治療選択肢を提供することが可能となり、患者さんのQOL(生活の質)向上に大きく寄与することが期待されます。
■ 用語の説明
1) 限局性皮質異形成(FCD: Focal Cortical Dysplasia)
大脳皮質の形成異常の一種であり、てんかんを最も引き起こしやすい脳の微細構造異常(病変)です。組織学的な特徴によりいくつかのタイプに分類され、特にtype IIは難治性てんかん患者の手術標本において非常に多く検出されます。
2) 定位的温熱凝固術(RFTC: Radiofrequency Thermocoagulation)
定位脳手術装置を用いて、細い針状の電極を脳内のターゲット領域(てんかん焦点)に正確に挿入し、ラジオ波による温熱(熱エネルギー)を加えて病変をピンポイントで凝固・壊死させる低侵襲な手術法です。
3) 深部白質梗塞(Deep white matter infarction)
脳の深部にある白質組織(大脳皮質から手足へと電気信号を伝える神経線維が走る部分)に生じる脳梗塞です。脳の表面から垂直方向に進入する極めて細い動脈(髄質動脈:medullary arteries)が、脳病変を切除する際の機械的な牽引や電気凝固によって損傷・閉塞することで発生し、運動麻痺などの術後の予期せぬ後遺症を誘発する要因となります。
大脳皮質の形成異常の一種であり、てんかんを最も引き起こしやすい脳の微細構造異常(病変)です。組織学的な特徴によりいくつかのタイプに分類され、特にtype IIは難治性てんかん患者の手術標本において非常に多く検出されます。
2) 定位的温熱凝固術(RFTC: Radiofrequency Thermocoagulation)
定位脳手術装置を用いて、細い針状の電極を脳内のターゲット領域(てんかん焦点)に正確に挿入し、ラジオ波による温熱(熱エネルギー)を加えて病変をピンポイントで凝固・壊死させる低侵襲な手術法です。
3) 深部白質梗塞(Deep white matter infarction)
脳の深部にある白質組織(大脳皮質から手足へと電気信号を伝える神経線維が走る部分)に生じる脳梗塞です。脳の表面から垂直方向に進入する極めて細い動脈(髄質動脈:medullary arteries)が、脳病変を切除する際の機械的な牽引や電気凝固によって損傷・閉塞することで発生し、運動麻痺などの術後の予期せぬ後遺症を誘発する要因となります。
■ 原著論文情報
・論文名:Volume-Based Stereotactic Radiofrequency Thermocoagulation for Focal Cortical Dysplasia: A Potentially Safer Alternative to Resection in Insulo-Opercular and Central Regions: A Retrospective Case-Control Study
・著者:Takahiro Hayashi, Keiya Iijima, Yutaro Takayama, Yosuke Okazaki, Naoki Ikegaya, Yuiko Kimura, Yutaka Kaneko, Risa Kagaya, Yukio Kimura, Noriko Sato, Masaki Iwasaki
・掲載誌:Epilepsia
・doi:10.1002/epi.70454
・著者:Takahiro Hayashi, Keiya Iijima, Yutaro Takayama, Yosuke Okazaki, Naoki Ikegaya, Yuiko Kimura, Yutaka Kaneko, Risa Kagaya, Yukio Kimura, Noriko Sato, Masaki Iwasaki
・掲載誌:Epilepsia
・doi:10.1002/epi.70454
■ 研究経費
本研究結果は、以下の日本学術振興会・科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)「難治性疾患実用化研究事業」、および国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費の支援を受けて行われました。
- JSPS 科学研究費助成事業(KAKENHI:JP25K12401)
- AMED 難治性疾患実用化研究事業(JP24ek0109764、JP24wm0425005)
- 国立精神・神経医療研究センター 精神・神経疾患研究開発費(7-8)
お問合せ先
横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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