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日本乳がんゲノムデータ解析により BRCA変異の新たな実態を解明
—生殖細胞系列変異と体細胞変異は異なる 生物学的特徴と治療反応を示す—

横浜市立大学附属病院 乳腺外科の押正徳助教らの研究グループは、全国がんゲノム医療データベース(C-CAT*1)を用いたリアルワールドデータ解析から、同じ「BRCA変異陽性乳癌」であっても変異の由来によって腫瘍の性質や治療反応性が異なることを明らかにし、より精密な個別化医療につながる可能性を示しました。

本研究成果は、「ESMO open誌」にオンライン公開されました(2026年7月23日)。

研究成果のポイント 


● 約3,000例の乳がんゲノムデータを用いて国内におけるBRCA変異の実態を解明

● 生殖細胞および体細胞系列BRCA変異は異なる分子生物学的特徴を示すことを実証

● BRCA変異の由来によりCDK4/6阻害薬*2の治療効果が異なる可能性を示した
図1. 国内の乳がん患者におけるBRCA変異群の分布

研究背景

BRCA1およびBRCA2遺伝子*3は、DNAの損傷を修復する重要な役割を担っています。これらの遺伝子に変異があると乳がんの発症リスクが高まることが知られており、近年はPARP阻害薬などの分子標的治療薬の開発により、BRCA変異の臨床的重要性がますます高まっています。

一方で、BRCA変異には、生まれつき受け継がれる「生殖細胞系列(germline)BRCA変異*4」と、がん細胞の中で後天的に獲得される「体細胞(somatic)BRCA変異*5」があります。しかし、これらが同じなのか、それとも異なる特徴を持つのかは十分に分かっていませんでした。

そこで本研究グループは、日本全国のがんゲノム医療データベース(C-CAT)[1]を用いて、大規模な乳がんゲノム解析を実施しました(図1)。

研究内容

約3,000例の乳がん患者のゲノムデータの解析した結果、生殖細胞系列BRCA変異と体細胞BRCA変異は、単に検出された部位が異なるだけではなく、腫瘍の生物学的特徴そのものが異なる可能性が明らかになりました。

生殖細胞系列BRCA変異を有する腫瘍では、BRCA遺伝子機能の喪失を示唆する特徴がより強く認められました。また、併存する遺伝子異常のパターンにも違いがみられ、両者が異なる進化過程を経て形成されている可能性が示されました(図2)。

さらに、ER陽性HER2陰性乳がんに対するCDK4/6阻害薬治療の解析では、生殖細胞系列BRCA変異を有する患者群で治療継続期間が短い傾向が認められました(図3)。

これらの結果は、これまで同じ「BRCA変異陽性」として扱われることの多かった乳がんの中に、実際には異なる生物学的背景を持つ集団が存在することを示しています。
図2. ER陽性HER2陰性乳がんにおける遺伝子変異頻度の比較
図3. ER陽性HER2陰性乳がんにおけるCDK4/6阻害薬治療期間

今後の展開

本研究成果は、BRCA変異の有無だけでなく、「どのような由来のBRCA変異か」を考慮した新たな診断・治療戦略の開発につながる可能性があります。将来的には、PARP阻害薬やその他の分子標的薬の効果をより正確に予測し、一人ひとりの患者に最適な治療を選択する「個別化医療」の実現に貢献することが期待されます。

研究費

本研究は、JSPS科研費(23K14600, 21K15535)、NIH(National Institutes of Health:R37CA248018, R01CA250412, R01CA251545, R01EB029596等の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル:Somatic BRCA alterations in breast cancer are associated with distinct biological and clinical patterns according to germline BRCA status
著者:Masanori Oshi, Kei Kawashima, Makoto Sugimori, Akimitsu Yamada, Zunairah Shah, Kenan Onel, Itaru Endo, Kazuaki Takabe
掲載雑誌:ESMO open
DOI:10.1016/j.esmoop.2026.108311

用語説明

*1 C-CAT(Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics):日本のがんゲノム医療で得られた遺伝子解析結果や臨床情報を集約・管理する全国データベース。
*2 CDK4/6阻害薬:細胞増殖に関与するCDK4およびCDK6を阻害する分子標的薬。ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌の標準治療として広く使用されている。
*3 BRCA1/BRCA2遺伝子:DNA損傷の修復に重要な役割を担う遺伝子。機能異常が生じると乳がんや卵巣がんなどの発生リスクが高まることが知られている。
*4 生殖細胞系列(germline)BRCA変異:生まれつき全身の細胞に存在するBRCA1またはBRCA2遺伝子の変異。親から子へ遺伝する可能性がある。
*5 体細胞(somatic)BRCA変異:腫瘍の発生や進展の過程で後天的に獲得されたBRCA1またはBRCA2遺伝子の変異。がん細胞にのみ存在し、子孫には遺伝しない。

参考文献など

[1] C-CAT(Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics)
https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/

お問い合わせ先

横浜市立大学 広報担当
mail:koho@yokohama-cu.ac.jp
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