YCU Research Portal

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「ごちゃまぜ法」でペプチドを修飾する新規酵素を一挙に探索
—ペプチドへの脂質付加を可能にする酵素レパートリーの拡張—

概要

京都大学大学院理学研究科 後藤佑樹 教授、東京大学大学院理学系研究科の菅裕明 教授、佐竹真幸 准教授、横浜市立大学大学院医学研究科 仙石徹 准教授、濱田恵輔 助教、神奈川大学化学生命学部 岡田正弘 教授らの研究グループは、ペプチドに脂質を付加する酵素(プレニルトランスフェラーゼ)を効率よく探し出す新しい手法を開発し、多数の新規酵素の発見に成功しました。

ペプチドは、数個から数十個のアミノ酸がつながった分子で、生体内ではホルモンや神経伝達物質などとしてさまざまな役割を担っています。また、優れた生理活性を示すものも多く、医薬品としての利用が期待されています。一方で、ペプチドはそのままだと体内で分解されやすく、また、速やかに体外へ排出されるため、体内で長時間作用させることが難しいという課題があります。こうした課題を解決するために、医薬品開発ではペプチドに脂質を付加することが行われており、完成したペプチドの性質を自在に改良するために、狙った場所へ選択的に脂質を付加できる技術の開発が求められています。

酵素は触媒活性を持つタンパク質のことで、特定の分子の決まった位置だけを選択的に認識して化学反応を進行させることができます。脂質の一種であるプレニル基をペプチドへ付加する酵素であるプレニルトランスフェラーゼも、ペプチド上の特定の位置を選択的に修飾でき、ペプチドに脂質を付加するツールとして期待されます。これまでのプレニルトランスフェラーゼの探索研究では、天然の基質(酵素を作用させる相手)を用いて候補タンパク質の働きを一つ一つ調べる方法が主流であり、多くの時間と労力が必要でした。本研究では、天然基質に頼ることなく、さまざまな人工ペプチドを混ぜて反応させる「ごちゃまぜ人工基質法」とも呼ぶべき新手法を開発し、候補タンパク質の酵素機能を一挙に評価できるようにしています。

その結果、14種類もの新規プレニルトランスフェラーゼを見出し、この酵素の仲間を一気に倍増させることに成功しました。さらに、これまでにない脂質の付け方(脂質化様式)も複数発見しています。加えて、発見した酵素の立体構造解析により、タンパク質のわずかな構造の違いが、多様な反応を生み出すしくみも明らかにしました。本成果は、さまざまな機能性分子や医薬品候補となるペプチドの設計や機能改変を加速する基盤技術として期待されます。今後は、今回発見した酵素の活用を進めるとともに、この手法を別の種類の酵素にも応用し、より多様な機能性分子の創製を目指します。

本研究成果は、2026年7月1日に国際学術誌「Nature Catalysis」にオンライン掲載されました。
本研究で開発した新規酵素探索手法の概略。Created with BioRender.com

1.背景

ペプチドに脂質(プレニル基)を導入するプレニルトランスフェラーゼは、ペプチドの安定性や膜透過性を向上させる酵素として注目されています。しかし、これまでに知られている酵素の数は限られており、その反応様式(脂質化様式)も限定的でした。従来の酵素探索は、天然に存在する基質ペプチドを手がかりに関連酵素を一つ一つ同定する方法が主流であり、未知の酵素機能を効率よく見つけ出すことには課題がありました。一方で、ゲノムデータベースには未解明の関連酵素配列が多数存在しており、それらの機能を迅速に評価する手法の確立が求められていました。本研究は、こうした背景のもと、天然基質に依存しない新たな酵素機能探索戦略の構築を目的として進められました。

2.研究手法・成果

本研究では、人工的に設計した多数のペプチド基質を混合した状態で酵素反応を行い、質量分析によりその反応を一括して解析する「ごちゃまぜ人工基質法」とも呼べる新規スクリーニング手法を開発しました。本手法により、従来は個別に評価する必要があった酵素活性を、並列的かつ網羅的に評価することが可能になりました。このプラットフォームを用いて、シアノバクテリア由来のプレニルトランスフェラーゼ候補タンパク質を解析した結果、14種類の新規酵素を同定し、既知酵素の数を実質的に倍増させる成果を得ました。さらに、トリプトファン残基やチロシン残基に対するこれまでに報告例のない新しい脂質化様式を複数発見しました。加えて、7種類の酵素について共結晶構造を決定し、活性部位の微細な構造変化が基質選択性や反応様式の多様化をもたらす仕組みを明らかにしました。
本研究で開発した新規酵素探索手法の概略、および、脂質化様式の一覧。Created with BioRender.com

3.波及効果、今後の予定

本研究により、ペプチドのプレニル化を担う酵素群のレパートリーと反応の多様性が大きく広がりました。たとえば本研究で見出したThcFは、既知の15種類の酵素では実現できなかった、炭素数15の大きなプレニル基をペプチドに付加することができます。またOcyFやOs6F、SmiFは、既知の酵素にはない新規の様式で脂質をトリプトファン残基に付加するだけでなく、チロシン残基にも脂質を付加することができ、複数の異なる部位を修飾できる新しいタイプの酵素であることが明らかになりました。これらの酵素は、温和な条件で位置選択的かつ様式選択的に修飾を導入できることから、創薬やケミカルバイオロジー分野における有用なバイオ触媒としての応用が期待されます。また、本研究で確立したスクリーニング手法は、他のペプチド修飾酵素や未知機能酵素の探索にも応用可能であり、酵素機能の網羅的な開拓を加速する基盤技術となります。一方で、酵素機能の予測が依然として難しい点や、実用化に向けた基質特異性や反応効率の最適化は今後の課題です。今後は、発見した酵素の機能拡張や改変を進めるとともに、本手法の適用範囲を広げることで、多様な機能性分子の創製へと展開していきます。

4.研究プロジェクトについて

京都大学 大学院理学研究科 化学専攻
後藤 佑樹 教授
松下 峻也 博士課程学生
横峰 真琳 助教
白石 太郎 講師

東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻
後藤 佑樹 准教授(当時)
井上 澄香 博士課程学生(当時、現:神奈川大学特別助教)
佐竹 真幸 准教授
太田 利紗 研究員
菅 裕明 教授

横浜市立大学 大学院医学研究科
仙石 徹 准教授
伊藤 清香 修士課程学生
濱田 恵輔 助教

神奈川大学 化学生命学部
岡田 正弘 教授

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)・豊田理化学研究所 ライジングフェロー制度・科学技術振興機構 先端国際共同研究推進事業・日本医療研究開発機構 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム、を始めとした研究費の支援により実施されました。また、兵庫県の播磨科学公園都市内にある大型放射光施設であるSPring-8のBL32XUビームラインを用いて結晶構造解析を実施しました。京都大学の研究チームは新規酵素のスクリーニング手法の構築および新規酵素の探索・機能解析を担当しました。

<用語解説>

大型放射光施設SPring-8は、太陽の100億倍もの明るさに達する「放射光」という光を使って、物質の原子・分子レベルでの形や機能を調べる事ができる研究施設です。

<研究者のコメント>

これまで十年以上かけて少しずつ広がってきたペプチドプレニルトランスフェラーゼの世界を、本研究では一気に押し広げることができました。本研究で考案した「ごちゃまぜ人工基質法」は、天然酵素を人工ペプチドの生産に役立てたいという以前からの研究モチベーションに根ざしています。とはいえ、想定以上の数の新しい酵素が見つかったことに、進化の過程で生み出されてきた酵素機能の多様性と奥深さに改めて驚かされました。自然界にはまだまだ面白いペプチド修飾酵素が眠っているはずなので、今後もその発見と活用に取り組んでいきます。(後藤佑樹)

<論文タイトルと著者>

タイトル:Rapid screening platform for peptide prenyltransferases to diversify pseudo-natural prenylated peptides
著  者:Sumika Inoue†, Shunya Matsushita†, Sayaka Ito, Marin Yokomine, Masayuki Satake, Chikako Okada, Keisuke Hamada, Yuchen Zhang, Risa Ohta, Taro Shiraishi, Hiroaki Suga, Masahiro Okada*, Toru Sengoku*, and Yuki Goto*(†: 共同第一著者 、*: 責任著者)
掲 載 誌: Nature Catalysis DOI:10.1038/s41929-026-01560-5

お問合せ先

横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp