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細菌の性線毛表面の電荷が薬剤耐性遺伝子の伝播効率に影響することを解明
〜薬剤耐性因子の水平伝播機構の解明と将来的な耐性菌拡散防止につながる〜

横浜市立大学大学院生命医科学研究科 構造創薬科学研究室の石本直偉士助教とImperial College London、Oxford大学、Texas大学の国際共同研究グループは、細菌間の遺伝物質の伝達(接合*1)に関わる性線毛H-Pilusの構成タンパク質TrhAの分子内環状化における残基の役割と、性線毛表面の静電的性質が接合効率に与える影響を明らかにしました。

細菌は接合を通じて薬剤耐性遺伝子を別の細菌へ伝達します。この過程に関わる重要なタンパク質として供与菌表面の管状のタンパク質である性線毛(Pilus)が挙げられます。本研究では、H-Pilusの特徴的構造である環状化に関わり高度に保存されたTrhAのAsp69(D69)の置換変異体を作成しクライオ電子顕微鏡*2で解析しました。その結果、いずれの変異体でも環状化が起こる一方、Pilus表面の電荷に変化が見られました。接合活性測定では、正電荷を導入した変異体で接合効率が大きく低下した一方で、大腸菌外膜内側が負電荷となるPE*3欠損株を受容菌に用いると効率が回復しました。これにより、Pilusの表面電荷と受容菌外膜のリン脂質組成との静電的相互作用が効率的な接合に不可欠であることが明らかになりました。

本成果は接合を標的とした新たな抗菌戦略の開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は、「Nature Communications」に掲載されました(2026年2月18日)。

 研究成果のポイント 

  • TrhA配列で保存されるGly1・Asp69は、置換しても環状化やPilusの形成を妨げない。
  • Pilusの表面電荷に正電荷が加わると接合効率が大幅に低下した。
  • 変異体Pilusと受容菌外膜PE欠損株を用いた接合活性測定からそれらの静電的相互作用が効率的な接合に不可欠であることを実証。
図1 接合による遺伝子伝達機構と、性線毛H-Pilusの表面電荷が接合効率に及ぼす影響を示す。接合では、供与菌から受容菌へ、表面に形成される性線毛(Pilus)を介してプラスミドDNAが伝達される。クライオ電子顕微鏡により決定したH-Pilusの構造から、構成タンパク質TrhAは、N末端(Gly1)とC末端(Asp69)の間の結合により分子内で環状構造を形成することが示され、本研究ではこのAsp69(D69)に変異を導入した(図左)。立体構造に基づくPilusの表面電荷を示す(図右上/赤:負電荷、青:正電荷)。野生型では全体的に負電荷だが、D69R置換では正電荷が導入された。各変異体を供与菌とした接合活性測定では、中性置換(D69 N/A/G)は野生型と同程度の活性を持つが、正電荷を導入したD69 R/Kでは大腸菌への接合効率が大きく低下する。一方で、外膜にホスファチジルエタノールアミン(PE)を持たないPE欠損株を受容菌に用いると、それらの変異体は野生型と同等の効率を示した(図右下)。

論文情報

タイトル:H pilin cyclisation and pilus biogenesis are promiscuous but electrostatic perturbations impair conjugation efficiency.
著者:Shan He*, Naito Ishimoto*, Joshua L. C. Wong*, Sophia David, Julia Sanchez-Garrido, Mikhail Bogdanov, Konstantinos Beis, Gad Frankel (*共同筆頭)
掲載雑誌:Nature Communications
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-69599-3

用語説明

*1 接合:細菌間でDNAを直接伝達する水平遺伝子伝播の形態の一つ。供与菌から受容菌へ、性線毛を介してプラスミドDNAが一方向に伝達される。
*2 クライオ電子顕微鏡:タンパク質の構造解析に用いられる手法の一つ。精製した生体分子を急速凍結により極低温状態の氷の中に包埋した後、電子顕微鏡で観察する。得られた電子顕微鏡像から目的の生体分子の粒子像を切り出し、3次元に再構成することで立体構造を明らかにすることができる。
*3 ホスファチジルエタノールアミン(PE):グラム陰性菌の細胞膜を構成する主要なリン脂質の一つ。外膜内側(ペリプラズム側)に存在する双性イオン性のリン脂質である。大腸菌ではリン脂質全体の約75%を占める。

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横浜市立大学 広報担当
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