早期の抗てんかん薬処方が変性性認知症の発症リスク低下と関連—医療ビッグデータ解析より報告—
横浜市立大学大学院医学研究科 脳神経外科学の池谷 直樹助教と、同学データサイエンス学部の阿部 貴行准教授(研究当時)らの研究グループは、全国のレセプトデータベース(National Data Base:NDB)を用いて行なった解析により、抗てんかん薬*1がてんかん*2(脳異常放電で発作を反復する状態)発症よりも早期に処方されていた患者は、そうでない患者に比べて、変性性認知症*3(アルツハイマー病などの神経変性による認知症)発症リスクが低下する可能性を示唆するデータ(内服vs非内服群=7.6% vs 12.9%)を報告しました。
本研究成果は、Alzheimer’s and Dementia (N.Y.) 誌に掲載されました(日本時間2024年9月10日)。
本研究成果は、Alzheimer’s and Dementia (N.Y.) 誌に掲載されました(日本時間2024年9月10日)。
研究成果のポイント
● レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いたコホート研究により、抗てんかん薬の使用とその後の認知症発症の関連を評価。
● てんかん診断前の抗てんかん薬の使用は、その後の変性性認知症有病率の低さと関連する。
● 早期の抗てんかん薬使用の正当化には、てんかんの臨床症状出現前のてんかん性異常(脳波異常など)の特定が重要である。


研究背景
これまでの研究により、抗てんかん薬がアルツハイマー病の症状を軽減し、進行を遅らせる可能性があることが、基礎研究や小規模な臨床研究で示唆されていました。しかし、大規模な臨床データを用いた研究では、これらを支持する結果を示した報告はなく、むしろ否定的でした。そこで研究グループは、この否定的な結果の要因として、適切な抗てんかん薬投与の時期が明らかでないことや、投薬対象となる候補を選択する明確な基準がないことであると仮説を立てました。レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いたコホート研究により、抗てんかん薬の使用とその後の認知症発症の関連を評価しました。
研究内容
2014年8月と2019年8月の全国の外来患者データから、55~84歳で、2014年時点では認知症と診断されておらず、2019年時点に新たにてんかんと診断された患者を対象としました。傾向スコアマッチング*4で背景因子を調整し、抗てんかん薬の処方あり・なしによる2群のデータセットを作成しました。
各群4,489人のコホートで、2019年時点で変性性認知症と診断された割合が、抗てんかん薬処方あり群では7.6%、処方なし群では12.9%(OR 0.533, 95%CI 0.459–0.617)と、処方あり群において認知症診断が有意に少ないという結果を得ました。
また、全年齢層において、変性性認知症の有病率は抗てんかん薬を内服している群において、内服していない群に対して低いことがわかりました。(図1)
なお、本研究結果は匿名レセプト情報等を基に、著者らが独自に解析・作成した結果であり、厚生労働省が作成・公表している統計等とは異なります。
各群4,489人のコホートで、2019年時点で変性性認知症と診断された割合が、抗てんかん薬処方あり群では7.6%、処方なし群では12.9%(OR 0.533, 95%CI 0.459–0.617)と、処方あり群において認知症診断が有意に少ないという結果を得ました。
また、全年齢層において、変性性認知症の有病率は抗てんかん薬を内服している群において、内服していない群に対して低いことがわかりました。(図1)
なお、本研究結果は匿名レセプト情報等を基に、著者らが独自に解析・作成した結果であり、厚生労働省が作成・公表している統計等とは異なります。
今後の展開
てんかん診断前の抗てんかん薬の使用は、その後の変性性認知症の発症率の低さと関連しました。これは、てんかんの臨床症状出現前の早期所見(脳波異常など)を基に、認知症の発症を抑える目的で、抗てんかん薬を早期処方することを正当化する根拠となり得ることを示唆しています。この仮説を調べるための前向き研究の妥当性が示されたため、今後検証されることが期待されます。
研究費
本研究は、JSPS科研費(22K16665、23K11011)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Anti-epileptic drug use and subsequent degenerative dementia occurrence
著者: Naoki Ikegaya, Honoka Nakamura, Yutaro Takayama, Yohei Miyake, Takahiro Hayashi, Masaki Sonoda, Mitsuru Sato, Kensuke Tateishi, Jun Suenaga, Masao Takaishi, Yu Kitazawa, Misako Kunii, Hiroki Abe, Tomoyuki Miyazaki, Tetsuaki Arai, Manabu Iwasaki, Takayuki Abe, Tetsuya Yamamoto
掲載雑誌: Alzheimer’s and Dementia
DOI:10.1002/trc2.70001
著者: Naoki Ikegaya, Honoka Nakamura, Yutaro Takayama, Yohei Miyake, Takahiro Hayashi, Masaki Sonoda, Mitsuru Sato, Kensuke Tateishi, Jun Suenaga, Masao Takaishi, Yu Kitazawa, Misako Kunii, Hiroki Abe, Tomoyuki Miyazaki, Tetsuaki Arai, Manabu Iwasaki, Takayuki Abe, Tetsuya Yamamoto
掲載雑誌: Alzheimer’s and Dementia
DOI:10.1002/trc2.70001
用語説明
*1 抗てんかん薬:てんかん発作や脳内で生じるてんかん性異常放電(脳波の異常)を抑制する効果を持つ薬剤。
*2 てんかん:脳の過剰な放電によりてんかん発作を繰り返し起こす状態。
*3 変性性認知症:アルツハイマー病などの神経の変性により生じる認知症の総称。認知症のうち脳血管障害による認知症(血管性認知症)を除いたもの。
*4 傾向スコアマッチング:無作為割付が難しく様々な交絡が生じやすい観察研究において、共変量を調整して因果効果を推定するために用いられるバランス調整の統計手法。
*2 てんかん:脳の過剰な放電によりてんかん発作を繰り返し起こす状態。
*3 変性性認知症:アルツハイマー病などの神経の変性により生じる認知症の総称。認知症のうち脳血管障害による認知症(血管性認知症)を除いたもの。
*4 傾向スコアマッチング:無作為割付が難しく様々な交絡が生じやすい観察研究において、共変量を調整して因果効果を推定するために用いられるバランス調整の統計手法。
お問い合わせ先
横浜市立大学 広報担当
mail:koho@yokohama-cu.ac.jp
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