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結婚が医学研究者のキャリアに与える影響、男女で逆
—人材流出の背景にある構造的課題が明らかに—

横浜市立大学医学部公衆衛生学・大学院データサイエンス研究科 桑原恵介准教授と、国立健康危機管理研究機構(JIHSジース)川井有紀客員研究員(横浜市立大学附属病院 次世代臨床研究センター 助教)らの研究グループは、全国3,009名の医学研究者を対象としたアンケート調査を解析し、結婚が医学研究キャリアに与える影響は男女で正反対であることを明らかにしました。こうした男女格差は、医師ではない研究者と比べて、医師でより顕著でした。

本研究は、医学研究者の人材流出対策、特に女性研究者のキャリア継続支援に重要な示唆を与えるものであり、大学・研究機関、学会による取り組みの後押しになると期待されます。

本研究成果は、国際学術誌「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載されました(2026年5月9日公開)。

研究成果のポイント


●  結婚の有無と研究者としてのキャリアを辞めたい意向の関係は、男女で逆転していた

●  男性では未婚者と比べて既婚者の離職意向が低い(約4割減)が、女性ではむしろ離職意向が上昇する傾向にあった

●  医学研究者の人材確保には、男女で異なる支援戦略が必要であることを示唆

図1 ”研究者としてのキャリアを辞めたい”オッズ比*1
結婚の有無と研究者としての離職の意向との関連。交互作用*2のp値がp=0.001で強い有意性を示す

研究背景

本邦の研究力の低下が指摘される中、その担い手である研究者の確保は喫緊の課題となっています。医学分野では研究者の減少が世界的に問題となっており、日本では働き方改革に伴う研究時間の減少が、研究力の低下に拍車をかけることが懸念されています。

とりわけ女性研究者は、男性に比べて研究キャリアの継続率が低いことが知られており、結婚や出産などのライフイベントの影響が指摘されてきました。しかし、これらの要因が研究キャリアに与える影響が男女でどのように異なるのかについては、明らかになっていませんでした。

本研究では、全国規模のアンケート調査を用いて、医学研究者における結婚および子どもの有無と、研究者としてのキャリアを辞めたい意向との関連を、男女別に検討することを目的としました。

研究内容

2022年12月から2023年1月にかけて、日本の141の医学系学会に所属する研究者を対象にウェブアンケート調査を実施しました。研究者としてのキャリアを続ける意向に関する回答をもとに離職意向を評価し、結婚および子どもの有無との関連を男女別に解析しました。

その結果、3,009名の参加者のうち、342名 (11.4%)が研究者としてのキャリアを辞めたい意向を示しました。結婚の有無と離職意向の関連は、統計学的に有意に男女で正反対であり、結婚していることは、男性では研究を続ける方向に関連した一方、女性では研究から離れる方向に関連していました(図1)。同様の傾向が、子どもの有無に関しても認められました。さらに、結婚が離職意向に与える影響の男女差は、医師ではない研究者と比較して、医師においてより顕著でした。また、結婚は仕事満足度を介して離職意向の低減と関連していました。

今後の展開

本研究は、医学研究者のキャリア継続支援策を検討する際に、男女差を考慮することの重要性を示唆しています。今後は、女性研究者がキャリアを継続しやすい環境整備や制度設計の検討が重要と考えられます。また、仕事満足度の向上など、離職意向を低減する要因の解明を進めることで、医学研究人材の確保につながることが期待されます。

研究費

本研究は、公益財団法人 日立財団 2021年度(第53回)倉田奨励金 人文・社会科学研究分野の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル:Gender disparities in the association between marital status and intention to leave research careers among medical researchers
著者:Yuki Kawai, Keisuke Kuwahara, Akira Minoura, Yuhei Shimada, Makoto Kondo, Hiroko Fukushima, Hiroaki Komatsu, Takehiro Sugiyama
掲載雑誌:Environmental Health and Preventive Medicine
DOI:https://doi.org/10.1265/ehpm.25-00407

用語説明

*1オッズ比:関連の強さを表す統計学的な指標。基準とした群と比べて、ある群のオッズ比が1を超えているということは、その群で結果が起こりやすいことを意味する。今回の研究では、結婚していない者を基準とした。結婚している者のオッズ比が1未満であれば、結婚している者では研究者としてのキャリアを辞めたい意向が低いこと(=研究を続けたい)を意味し、1を超えていれば高いこと(=研究を辞めたい)を意味する。

*2交互作用:ある要因の効果の方向や大きさが、別の要因によって変わること。今回の研究では、結婚が研究キャリアに与える影響が、男女によって異なるかどうかを評価するために用いた。

お問い合わせ先

横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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