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男性不妊の新規バイオマーカー候補となるタンパク質を発見

横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター部長 湯村 寧准教授と横浜国立大学大学院 工学研究院 栗原靖之教授らの研究グループは、男性不妊治療法の選択に有用な新規バイオマーカー(疾患の診断基準や程度などを示す指標となる物質)候補となるタンパク質を発見しました。

本研究成果は、「Reproductive Medicine and Biology」のオンライン版に先行公開されました(2024年10月29日)。

研究成果のポイント


● 男性不妊の患者さんの精子では、精子内のミトコンドリアタンパク質(COXFA4L3)の発現・局在が異なることが分かった。

● COXFA4L3はエネルギー産生関連タンパク質であるため、異所的に発現していると精子のエネルギー産生に問題が生じる可能性がある。

● 患者さんに対して精子内のCOXFA4L3の局在を確認することで、患者さんにより適した不妊治療方法を提案することが可能となるだろう。
図1 男性不妊症患者精子におけるCOXFA4L3の局在
図2  COXFA4L3の発現部位

研究背景

精子形成に必要なエネルギーは精子内のミトコンドリア*1で生成されます。このミトコンドリアが機能不全となった場合、男性不妊症を呈する可能性があります。そこで、研究グループは精子形成中に生殖細胞で特異的に発現するシトクロム酸化酵素の新興サブユニットタンパク質COXFA4L3 (C15ORF48)に着目し、男性不妊症・精子のミトコンドリア機能不全のマーカーになり得るかどうかを調べるために、男性不妊患者の精子における COXFA4L3 のタンパク質発現および局在プロファイルを調査しました。

研究内容

研究グループは、横浜市立大学医療センター生殖医療センターの男性不妊症外来にて採取した 27名の患者さんの精液サンプルを使用して、精子濃度・運動パラメータ・妊娠経過などとエネルギー産生関連タンパク質COXFA4L3の発現および局在を分析しました。

患者さんによって程度は異なりましたがCOXFA4L3が精子内で発現していることが分かりました。さらに、COXFA4L3 が通常とは異なる場所(精子の先体*2)に集まって発現しているものも見られました(図1)。そして自然妊娠・人工授精で妊娠した患者さんの精子では異所性発現の比率が低く、体外受精・顕微授精・妊娠しなかった患者さんでは比率が高いということがわかりました。これらのことより、COXFA4L3の異所的局在の程度が男性不妊症の治療法選択に有用であることが示唆されました。

今後の展開

通常、COXFA4L3 は精子のミトコンドリアに存在するタンパク質のため、ミトコンドリアが含まれる中片*3のみに存在するはずですが、異所的に発現している場合は精子のエネルギー産生に問題がある可能性があります。そのため、前もってCOXFA4L3 の局在を評価することで、患者さんの精子が人工授精・体外受精など、どのような治療に適しているかを決める有用なパラメータになり得ます。これにより、妊娠治療計画を迅速化できる可能性があると考えられます。

研究費

本研究は、JSPS科研費(基盤C)「分子病理学的アプローチに基づく男性不妊症に関わるミトコンドリア電子伝達系制御機構(JP21K09391)」の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル: Ectopic expression of the mitochondrial protein COXFA4L3 in human sperm acrosome and its potential application in the selection of male infertility treatments
著者: Yusuke Fujisawa, Sayaka Kikuchi, Fujino Kuba, Kosei Oishi, Soushi Murayama, Tomoya Sugiyama, Reiji Tokito, Hiroe Ueno, Shin-ichi Kashiwabara, Yasushi Yumura, Yasuyuki Kurihara
掲載雑誌: Reproductive Medicine and Biology
DOI: 10.1002/rmb2.12602

用語説明

*1 ミトコンドリア:細胞内に存在する小器官。一つの細胞に数百から数千個存在する。呼吸により取り込まれた酸素を利用して細胞を活動させるエネルギーを産生する。
*2 先体:精子の頭部先端にある小器官。精子を卵子に接着させ卵内に入っていきやすくする。
*3 中片:midpiece。精子の頭部と鞭毛(尻尾)の間にある器官。ここにミトコンドリアが多数存在し、精子を動かすエネルギーを作っている。

お問い合わせ先

横浜市立大学 広報担当
mail:koho@yokohama-cu.ac.jp
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