相同組換えに依らない新たなゲノム編集メカニズムを発見~Nature Communicationsに掲載~
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 分子生物学研究室の足立典隆教授と斎藤慎太助教は、これまで知られていなかった新たなゲノム編集メカニズムを発見し、その特性と制御機構の一端を明らかにしました。本研究の成果は、今後のゲノム編集研究やDNA修復研究に重要な示唆を与えるだけでなく、医療上有用なヒト細胞における正確かつ効率的なゲノム編集につながることが期待されます。
本研究成果は、国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。(日本時間2024年6月18日18時)
本研究成果は、国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。(日本時間2024年6月18日18時)
研究成果のポイント
● 相同組換えに依存しない遺伝子ターゲティング機構が存在する。
● この反応は、DNA配列の相同性が100%でなくても起こる。
● 相同組換えと異なり、この反応は細胞周期を通じて起こる。
研究背景
DNAベクターを細胞に導入すると、ゲノム中のランダムな場所に挿入されることがあります [1]。こうしたランダム挿入反応にはエンドジョイニングと呼ばれる機構(NHEJとTMEJ)が関わっており、いずれもDNA配列の長い相同性を必要としません [1, 2]。一方、ゲノムDNAと相同な配列をもつベクターを細胞に導入すると、効率はとても低いものの、相同なDNA配列を利用した組換えによりゲノムDNA中の狙った位置にベクターを挿入することができます。これを遺伝子ターゲティングと呼び、目的とする遺伝子を破壊・改変したり、強制発現させたい遺伝子をノックインすることができます。
これまで遺伝子ターゲティングはRad51というタンパク質に依存した相同組換えによってのみ起こると考えられてきました。相同組換えは細胞周期のS期〜G2期(つまりDNA複製後)でしか機能しないため、非増殖細胞で遺伝子ターゲティングを行うのは不可能と信じられてきました。また、遺伝子ターゲティング反応はDNAの相同性に依存しており、DNA配列間に少しでもミスマッチがあると著しく頻度が低下するという技術的な問題もありました。
これまで遺伝子ターゲティングはRad51というタンパク質に依存した相同組換えによってのみ起こると考えられてきました。相同組換えは細胞周期のS期〜G2期(つまりDNA複製後)でしか機能しないため、非増殖細胞で遺伝子ターゲティングを行うのは不可能と信じられてきました。また、遺伝子ターゲティング反応はDNAの相同性に依存しており、DNA配列間に少しでもミスマッチがあると著しく頻度が低下するという技術的な問題もありました。
研究内容
今回、足立教授と斎藤助教は、相同組換えを欠損したヒト細胞で稀に起こる遺伝子ターゲティング反応の存在を明らかにし、(1) この反応がRad51非依存性であること、(2) Rad52と呼ばれるタンパク質が関わっていること、(3) ゲノムDNAと相同な配列をもつDNAベクターに変異を入れても全体の5%のミスマッチであれば許容する(つまり、20塩基対ごとに1箇所ミスマッチが存在していても頻度が低下しない)ことを突き止めました。また、特殊なCRISPR/Cas9システム(DNA中の狙った場所を切断できる)を構築して解析を行ったところ、相同組換えとは異なり、Rad51非依存性の遺伝子ターゲティングは細胞周期のG1期、つまりDNA複製前の状態の細胞でも起こることがわかりました。実際、増殖スピードがとても遅い細胞でも遺伝子改変が可能であり、この反応はRad51非依存性でした。
遺伝子ターゲティングに2つの異なるメカニズムが存在することがわかったため、足立教授と斎藤助教は、これらが細胞内でどのように制御されているのかを引き続き解析しました。その結果、これまで遺伝子ターゲティングの促進因子として知られていた「① ゲノムDNA中のターゲット部位での切断」、「② BLMと呼ばれるDNA巻き戻し酵素の阻害」のいずれもがRad51依存性・非依存性反応の双方を促進していることが判明しました。さらに、Rad51非依存性反応の頻度は通常とても低いものの、上記の①、②および別の "リミッター" を外す(つまりMsh2タンパク質を除去する)ことで、その頻度がRad51依存性反応と同レベルにまで上昇することが明らかになりました。
遺伝子ターゲティングに2つの異なるメカニズムが存在することがわかったため、足立教授と斎藤助教は、これらが細胞内でどのように制御されているのかを引き続き解析しました。その結果、これまで遺伝子ターゲティングの促進因子として知られていた「① ゲノムDNA中のターゲット部位での切断」、「② BLMと呼ばれるDNA巻き戻し酵素の阻害」のいずれもがRad51依存性・非依存性反応の双方を促進していることが判明しました。さらに、Rad51非依存性反応の頻度は通常とても低いものの、上記の①、②および別の "リミッター" を外す(つまりMsh2タンパク質を除去する)ことで、その頻度がRad51依存性反応と同レベルにまで上昇することが明らかになりました。
今後の展開
ゲノムを自在に改変する技術はさまざまな面で脚光を浴びており、その注目度や科学的重要性の高さは2020年のノーベル化学賞(CRISPR/Cas9)や2007年のノーベル医学生理学賞(遺伝子ターゲティングとノックアウトマウス)からもうかがい知ることができます。とはいえ、遺伝子ターゲティングにはまだまだわかっていないことが多く、それは今回の発見すなわち第2のメカニズムの発見まで30年以上もかかったことからも明らかです。今後の研究により、遺伝子ターゲティングのメカニズムや制御機構の全貌が明らかになれば、さらなる効率化と医療への応用が可能になっていくものと期待されます。
研究費
本研究は、JSPS科研費(JP18K19407、JP19H01151、JP21K15069、JP22K19382)と横浜市立大学第5期戦略的研究推進事業「研究開発プロジェクト」の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Characterization and regulation of cell cycle-independent noncanonical gene targeting
著者: Shinta Saito & Noritaka Adachi
掲載雑誌: Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-024-49385-9
著者: Shinta Saito & Noritaka Adachi
掲載雑誌: Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-024-49385-9
参考文献
[1] Saito S, Maeda R, Adachi N. Dual loss of human POLQ and LIG4 abolishes random integration. Nature Communications. 2017 Jul 11;8:16112. DOI: 10.1038/ncomms16112.
[2] Chang HHY, Pannunzio NR, Adachi N, Lieber MR. Non-homologous DNA end joining and alternative pathways to double-strand break repair. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 2017 Aug;18(8):495-506. DOI: 10.1038/nrm.2017.48.
[2] Chang HHY, Pannunzio NR, Adachi N, Lieber MR. Non-homologous DNA end joining and alternative pathways to double-strand break repair. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 2017 Aug;18(8):495-506. DOI: 10.1038/nrm.2017.48.
お問合せ先
横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp