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木原生物学研究所 殿崎 薫 助教と木下 哲 教授の解説記事がNature Plants誌のNews & Viewsに掲載されました

2023.10.24

解説者 木原生物学研究所  殿崎 薫 助教 解説者 木原生物学研究所  殿崎 薫 助教
植物の生殖では、卵細胞と中央細胞がそれぞれ精細胞と受精することによって種子中に胚と胚乳を作ります。これまでに、胚乳発生がヒストン修飾を担うポリコーム複合体*1により抑制されていることはよく理解されていました。例えば、イネのポリコーム複合体の構成因子の一つ Osemf2a 変異体では、受精なしでも中央細胞が分裂して胚乳様組織を形成します(Tonosaki K. et al., Plant Cell 2021)。一方で、胚発生がどのように抑制されているかは不明でした。

本紹介記事[1]では、オーストラリアCSIRO (Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation) のグループからNature Plantsに出版された論文[2]について解説しています。この論文では、イネのポリコーム複合体の構成因子 Osfie1, Osfie2, (前述のOsemf2aとは異なる構成因子)の二重変異体の解析から、胚発生もポリコーム複合体により抑制されていることを明らかにしています。単為発生は優れたハイブリッド品種を遺伝的に固定*2出来るため、農学的な期待が極めて高く、植物科学分野では様々な研究がなされています。本紹介記事では、今後の課題や展望についても解説しています。

用語説明

1 ポリコーム複合体:
動植物に保存されたヒストン修飾を担う酵素複合体。遺伝子発現の抑制状態を維持する働きを担う。

2 ハイブリッド品種の遺伝的固定:
多くの作物では、2つの品種を掛け合わせて得られるハイブリッド品種を作付けしている。ハイブリッド品種は、両親の優れた遺伝子の組み合わせを持っているが、残念なことに、その子孫では遺伝子の組み合わせが分離してしまうため不揃いの作物となってしまう。そのため交雑により常にハイブリッド品種を得る必要があり、多大な労力が必要となっており、バイブリッド品種の遺伝子分離が起こらないような単為発生作物の開発には、受精に依存しない胚発生と胚乳発生の理解が必須とされている。

論文情報

[1] タイトル:Polycomb repression of the asexual embryo
著者: Kaoru Tonosaki & Tetsu Kinoshita
掲載雑誌: Nature Plants
DOI : 10.1038/s41477-023-01537-3

[2]タイトル:Mutation in Polycomb repressive complex 2 gene OsFIE2 promotes asexual embryo formation in rice
著者: Xiaoba Wu et.al , Liqiong Xie, Xizhe Sun, Ningning Wang, E. Jean Finnegan, Chris Helliwell, Jialing Yao, Hongyu Zhang, Xianjun Wu, Phil Hands, Falong Lu, Lisong Ma, Bing Zhou, Abed Chaudhury, Xiaofeng Cao & Ming Luo
掲載雑誌: Nature Plants
DOI : 10.1038/s41477-023-01536-4

お問い合せ先

 横浜市立大学 広報課
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
 
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