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イヌとヒトに共通する緑内障関連遺伝子「SIX6」を特定 ~進化を超えて共有される病態基盤を提示~

横浜市立大学医学部眼科学 馬場 智子医師、目黒 明特任教授らの研究グループは、麻布大学 印牧 信行名誉教授、髙橋 広樹助教との共同研究により、犬の緑内障発症に関与する遺伝子として「SIX6」を初めて明らかにしました。SIX6遺伝子は人の緑内障における主要な感受性遺伝子として知られており、本研究の成果は、緑内障の発症において、人と犬の間に種を超えた共通の遺伝的背景が存在することを示しています。これらの知見は、犬の緑内障の発症予測や早期診断に貢献するだけでなく、人の緑内障の病態解明や新たな治療法開発にもつながる重要な基盤となります。

本研究成果は、眼科の主要国際雑誌「Investigative Ophthalmology & Visual Science」に掲載されました(2026年1月6日)。

研究成果のポイント 


● 人の緑内障主要遺伝子であるSIX6遺伝子が柴犬の緑内障発症に関与することを発見

● SIX6遺伝子のリスクアレル*1保有により、柴犬の緑内障リスクが約3.5倍に上昇

● 柴犬は緑内障の多い犬種であり、緑内障の発症予測・早期診断への応用が期待される

● 人と犬に共通する緑内障発症機序の解明に寄与し、新規の治療法開発につながる

研究背景

緑内障は、視神経が障害され、視野が徐々に狭くなる進行性の疾患であり、日本では中途失明原因の第1位を占めています。人と同様に犬でも緑内障を発症し、特に柴犬では発症頻度が最も高く、柴犬の約3割で緑内障の発症が認められています(表1)。柴犬では眼の房水が排出される隅角の形態が発症に影響すると考えられていますが、同じような隅角形態であっても発症する個体としない個体が存在するため、解剖学的特徴だけでは緑内障の発症を説明できない側面があり、遺伝的素因の関与が長らく示唆されてきました。

人の緑内障研究では緑内障の発症に関与する遺伝子が明らかになってきており、その中でもSIX6遺伝子は主要な遺伝子の一つとして報告されています。SIX6は眼の発生や網膜神経節細胞の維持に重要な役割を担いますが、犬の緑内障においてSIX6遺伝子が果たす機能はこれまで明らかにされていませんでした。

本研究では、緑内障の発症頻度が高い犬種である柴犬とシー・ズー犬を対象に、SIX6遺伝子が緑内障の発症に関与するかを世界で初めて包括的に検証しました。

表1 各犬種における緑内障の有病率(参考文献1)

研究内容

柴犬109匹(緑内障49匹、非緑内障60匹)、シー・ズー犬57匹(緑内障18匹、非緑内障39匹)を対象に、SIX6遺伝子領域を網羅する19か所のSNP*2を解析しました。その結果、柴犬において「rs851962234」と呼ばれるSNPが緑内障と有意な相関を示し、このSNPのリスクアレルを保有することで緑内障の発症リスクを約3.5倍高めることが分かりました(図1)。一方、シー・ズー犬ではrs851962234のリスクアレルを保有すること自体が稀であり、このSNPと緑内障との関連は認められませんでした。このことは、犬種ごとに緑内障に対する遺伝的背景が大きく異なることを示します。

犬の眼組織におけるSIX6遺伝子の発現解析では、網膜組織で特に高い発現が確認されました(図2)。SIX6は視覚情報伝達に関わる神経網膜の恒常性維持に重要な遺伝子として知られており、この機能的背景と一致する結果です。これらの知見は、SIX6のSNPが網膜神経細胞の脆弱性に影響し、緑内障発症に寄与する可能性を示唆するものです。

図1 柴犬における緑内障とSIX6遺伝子領域の相関
SIX6遺伝子の3’-非翻訳領域に位置するrs851962234が有意な相関を示した。
図2 犬眼組織におけるSIX6遺伝子および緑内障関連遺伝子の発現
相関報告種:人と犬のどちらで緑内障との関連が報告されているかを示す
機能分類:緑内障の病態に関わる主な生物学的機能を示す(神経系:神経細胞の機能・保護に関与、ECM(細胞外マトリックス):組織構造の維持に関与、中間:神経系・ECM の両方に関与)
SIX6遺伝子は網膜組織で高い発現を示した

今後の展開

今回の研究により、人の主要な緑内障遺伝子であるSIX6が犬においても緑内障の発症に関与することが明らかになりました。緑内障の発症頻度が最も高い柴犬では、SIX6の遺伝子のSNP検査(遺伝子診断)を行うことで、若齢期から緑内障の発症リスクを把握し、早期診断や定期的な眼科検査の判断に役立つ可能性が示されました。また、今回得られた知見は、人と犬の両者において緑内障発症メカニズムの解明や有効な治療法の開発に貢献することが期待されます。

用語説明

*1  リスクアレル:アレルとは、ゲノム上の特定の遺伝子座において、父母それぞれから受け継いだ塩基配列が異なる場合に存在するそれぞれの塩基配列の型を指す。疾患の発症リスクと相関を示し、疾患感受性が高まる方向に作用するアレルを「リスクアレル」と呼ぶ。

*2  SNP:single nucleotide polymorphism(一塩基多型)の略。DNAの特定の一つの塩基が他の塩基に置き変わることで生じる変化で、その塩基配列の置換が生物集団内で1%以上の頻度で存在する場合にSNP(スニップ)と呼ぶ。SNPは最も多く存在する遺伝子多型であり、疾患の罹り易さ(疾患感受性)や医薬品への反応の違いなどに関わることがある。

研究費

本研究は、横浜市立大学リサーチ・クラークシッププログラムの支援を受けて実施されました。 

論文情報

タイトル:Genetic link across species: SIX6, a major human glaucoma gene, confers susceptibility to glaucoma in Shiba-Inu dogs
著者:Satoko Baba, Akira Meguro, Nobuyuki Kanemaki, Aoi Maeda, Hiroki Takahashi, Masaki Takeuchi, Lisa Endo, Eiichi Nomura, Jutaro Nakamura, Yuki Mizuki, Shun Kanasashi, Takuto Sakono, Norihiro Yamada, Nobuhisa Mizuki
掲載雑誌:Investigative Ophthalmology & Visual Science
DOI:https://doi.org/10.1167/iovs.67.1.5
 

参考文献

1.Kato K, et al. Incidence of canine glaucoma with goniodysplasia in Japan : a retrospective study. J Vet Med Sci. 2006;68(8):853-858. 

お問い合わせ先

横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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