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大腸憩室出血に対する内視鏡観察の「最低時間」を提示

出血源同定率の“頭打ち”を定量化し、内視鏡観察の最適時間を提示

横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻 市田親正医師(博士後期課程2年、湘南鎌倉総合病院 消化器病センター 部長)、同専攻 清水沙友里講師、後藤匡啓教授、湘南鎌倉総合病院 消化器病センター 医長 西野敬祥医師、同センター 中谷聡一郎医師らの研究グループは、大腸憩室出血*1に対して、内視鏡で出血源を確実に捉えるための「最低限の観察時間」を、新規指標「5% plateau time」を用いて定量化しました。

観察時間を延長しても出血源同定率は無限に上昇するわけではなく、一定の時間で“頭打ち(plateau)”に達することを明らかにし、内視鏡観察の最適時間を科学的に提示しました。結果として、挿入時間を含む観察全体のベンチマークは40分であり、さらに造影CTで血管外漏出*2が認められた場合には、出血部位に応じて左側(S状・下行結腸)30分/右側(横行・上行・盲腸)35分/血管外漏出なしまたは造影CT未施行では40分と層別化できることを示しました。本研究成果は、World Journal of Gastroenterologyに2025年10月28日付でオンライン掲載されました。

研究成果のポイント


● 観察時間を延ばしても出血源同定率は上昇し続けず、一定時間で“頭打ち”に達することを示した。

● 出血源の同定効率から40分が最低限必要な検査時間であることを示した。

● 造影CTの所見に基づき、必要な観察時間を層別化できることを明らかにした。

● 造影CTで左側(S状・下行)結腸に血管外漏出を認める場合は30分、右側(横行・上行・盲腸)では35分、血管外漏出がない場合や造影CTの未施行例では40分が確保すべき下限であることを明確にした。
図1 累積出血源同定率と全体での5% plateau time

研究背景

大腸憩室出血は、日本における消化管出血入院の主要な原因疾患であり、人口の高齢化に伴って患者数が急増しています。内視鏡で出血源を正確に捉えられれば止血が可能となり、再出血を防ぐことができますが、自然止血する症例も多く、そのため、「何分観察すべきか」という明確な指標が存在せず、術者の判断に依存したばらつきが課題となっていました。

研究内容

本研究では、日本有数の救急病院における大腸憩室出血1,037例を対象に、内視鏡で出血部位を特定するまでに要する時間を定量的に分析しました。観察時間を5分ごとに区分し、追加の5分間観察を行っても出血源が新たに見つかる割合が5%未満となる時点を「5% plateau time」として評価し、その結果、観察時間を延ばしても出血源の発見率は上がり続けるわけではなく、一定時間で“頭打ち(plateau)”に達することが明らかとなりました。全体では40分がこの「5% plateau time」に相当し、造影CTで血管外漏出(持続出血を示す所見)が確認された場合には、出血部位によって必要な観察時間が異なりました。左側(S状・下行結腸)では30分、右側(横行・上行・盲腸)では35分、血管外漏出がない場合や造影CTを実施していない場合は40分が目安となりました。

本研究の意義

患者数が増加する本疾患において、長時間の検査は高齢患者への負担や内視鏡室の運用効率にも影響します。本研究により、「最低限どれだけの検査時間をかければ十分か」という具体的な指標を、初めて科学的根拠に基づいて提示することができました。

論文情報

タイトル:Minimum colonoscopy observation time for colonic diverticular bleeding: A new benchmark based on the 5% plateau time
著者: Chikamasa Ichita, Tadahiro Goto, Takashi Nishino, Soichiro Nakaya, Sayuri Shimizu
掲載雑誌:World Journal of Gastroenterology
DOI:10.3748/wjg.v31.i40.112033

用語説明

*1 大腸憩室出血:大腸の壁にできた小さな袋状のくぼみ(憩室)の血管が破れて出血する疾患。高齢者に多くみられ、日本では消化管出血による入院原因の中で最も多い。多くは自然に止血するが、再出血することもあり、内視鏡による出血部位の特定と止血が重要となる。

*2 血管外漏出:造影CT検査で造影剤が血管の外に漏れ出す所見。現在も出血が続いている(持続出血)ことを示唆する重要な指標であり、内視鏡での出血部位特定に役立つ。

お問い合わせ先


横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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