切除可能肺がんに対する周術期免疫療法の最適戦略を解析
-がん患者への情報提供での活用に期待-
横浜市立大学医学部医学科 油木理緒奈さん(6年生)と、同大学附属病院 化学療法センター長 堀田信之講師らの共同研究グループは、約4,500人の世界各国のデータを用いてシステマティックレビュー*1を行い、非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬*2の最適な使用方法を検討しました。
本研究成果は、英文医学誌「Journal of the National Cancer Institute」に掲載されました(日本時間2025年7月24日午前9時)。
本研究成果は、英文医学誌「Journal of the National Cancer Institute」に掲載されました(日本時間2025年7月24日午前9時)。
研究成果のポイント
● 約4,500人のデータを用いてシステマティックレビューを実施。
● 切除可能な非小細胞肺がんにおいて、①術前化学療法(従来型の殺細胞性抗癌剤)と比べ、➁術前免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)を併用する治療(術前化学免疫療法)は生存期間を大幅に改善する。➂術後に免疫チェックポイント阻害薬を追加する治療(術前化学免疫療法+術後免疫療法)を行っても、生存期間は改善しなかった。
治療戦略番号・療法 | 術前従来型殺細胞性抗癌剤 | 術前免疫チェックポイント阻害薬 | 術後免疫チェックポイント阻害薬 |
①術前化学療法 | ○ | × | × |
②術前化学免疫療法 | ○ | ○ | × |
③術前化学免疫療法 +術後免疫療法 |
○ | ○ | ○ |
表 各治療戦略における免疫療法および化学療法の組み合わせ
研究背景
非小細胞肺がんは、がんによる死亡者の内約15%を占めており、日本を含む多くの国・地域における主要ながん死亡原因となっています。近年、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、切除可能な非小細胞肺がんに対しても術前・術後に免疫チェックポイント阻害薬を併用する周術期治療が注目されています。従来の標準的治療法とされていた術後化学療法に比べ、術前化学免疫療法を用いると生存期間がより改善することが示されたことから新たな標準治療になりつつあります。
しかし、術前化学免疫療法だけではなく、術後の免疫チェックポイント阻害薬投与を併用することによる、生存期間への影響については、これまで十分に検証されていませんでした。
しかし、術前化学免疫療法だけではなく、術後の免疫チェックポイント阻害薬投与を併用することによる、生存期間への影響については、これまで十分に検証されていませんでした。
研究内容
本研究では、11本の無作為化比較試験(RCT)に含まれる4,532人のデータを用いて、術前化学療法(戦略①)、術前化学免疫療法(戦略②)、術前化学免疫療法+術後免疫療法(戦略③)など複数の戦略を比較しました(表)。対象となった免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1、PD-L1、あるいはCTLA-4を標的とした免疫療法薬であり、ペムブロリズマブ、デュルバルマブ、トリパリマブ、カムレリズマブ、チスレリズマブ、イピリムマブ、リラトリマブ、モナリズマブの8種類でした。解析の結果、術前化学療法単独(戦略①)と比較して、術前免疫療法を加えた術前化学免疫療法(戦略②)では無イベント生存期間(がんが進行せず、再発や死亡に至らない期間)は大幅に改善され、全生存期間(あらゆる原因による死亡までの期間)も延長する傾向が確認されました(無イベント生存期間: ハザード比0.61、95%信頼区間*30.43–0.87、全生存期間: ハザード比0.57、95%信頼区間0.30–1.08)(図1)。一方、術前化学免疫療法に術後の免疫療法を追加(戦略③)しても、無イベント生存期間や全生存期間の延長にはつながりませんでした(無イベント生存期間: ハザード比0.97、95%信頼区間0.67–1.41、全生存期間: ハザード比1.17、95%信頼区間 0.59–2.31)(図1)。


今後の展開
本研究により、非小細胞肺がんの周術期治療において、術前化学免疫療法の有用性が確認される一方、術後免疫療法を追加しても生存期間の改善に寄与しない可能性が示唆されました。今後は、術前療法への反応や手術結果に応じた個別化医療、術前化学免疫療法と術後化学免疫療法の比較検討を進め、がん患者への情報提供での活用が期待されます。
論文情報
タイトル:Immune checkpoint inhibitors as neoadjuvant therapy for resectable non-small cell lung cancer: a systematic review and network meta-analysis
著者:Riona Aburaki(油木理緒奈),Yu Fujiwara(藤原裕),Saya Haketa(羽毛田咲耶), Nobuyuki Horita(堀田信之)
掲載雑誌:Journal of the National Cancer Institute
DOI:10.1093/jnci/djaf190
著者:Riona Aburaki(油木理緒奈),Yu Fujiwara(藤原裕),Saya Haketa(羽毛田咲耶), Nobuyuki Horita(堀田信之)
掲載雑誌:Journal of the National Cancer Institute
DOI:10.1093/jnci/djaf190
用語説明
*1 システマティックレビュー:既存の論文を系統的に検索評価する手法。
*2 免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞によって抑えられていた免疫細胞(T細胞)の働きを再び活性化させることができる。2018年12月に京都大学の本庶佑氏が医学生理学賞を授与されたことでも注目を集めた新しいタイプのがん薬物療法である。
*3 95%信頼区間:真値(知りたい値)を推定するにあたり、95%の確率で真値を捉えると考えられる区間のこと。
*2 免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞によって抑えられていた免疫細胞(T細胞)の働きを再び活性化させることができる。2018年12月に京都大学の本庶佑氏が医学生理学賞を授与されたことでも注目を集めた新しいタイプのがん薬物療法である。
*3 95%信頼区間:真値(知りたい値)を推定するにあたり、95%の確率で真値を捉えると考えられる区間のこと。
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