人工膝関節全置換術におけるステロイドの使用は安全か?
全国24万例のビッグデータ解析で、感染リスクはごくわずかに上昇
研究成果のポイント
● 全国の24万件超のTKAを解析した大規模後ろ向き研究
● ステロイドの使用群において、術後感染の診断・再手術率がわずかに増加
● ステロイドを使用した群において、喫煙歴、複数の持病がある場合、日常生活動作の低下が術後感染の主なリスク因子
● TKAの件数が増加している中で、治療方法に重要な科学的根拠を提供


研究背景
TKAは膝の軟骨がすり減って起こる変形性膝関節症などの疾患に対し、痛みの軽減や歩行機能の改善に有用で、世界的に広く普及している手術です。TKAの手術は強い痛みを伴うため、近年では術後の痛みの軽減を目的にステロイドが使用されるようになりました。ステロイドの使用により、術後の痛みや腫れの軽減、鎮痛剤の使用量の減少、早期のリハビリ、入院期間の短縮などのメリットが報告されています。
一方で、ステロイドは免疫を抑制する作用があることから、術後の感染のリスクも懸念されています。TKAの術後に感染が起きると、洗浄や人工関節の入れ替えなどの再手術が必要となり、治療には患者さんと医療者の双方に大きな負担がかかります。TKAの術後感染の発生率は1%程度と低いため、十分な数の症例を集めることが難しく、これまでステロイド使用による感染リスクを正確に評価した研究が不足していました。
一方で、ステロイドは免疫を抑制する作用があることから、術後の感染のリスクも懸念されています。TKAの術後に感染が起きると、洗浄や人工関節の入れ替えなどの再手術が必要となり、治療には患者さんと医療者の双方に大きな負担がかかります。TKAの術後感染の発生率は1%程度と低いため、十分な数の症例を集めることが難しく、これまでステロイド使用による感染リスクを正確に評価した研究が不足していました。
研究内容
2016年~2022年の全国DPCデータを用いて、TKA を受けた242,571例を対象に解析を行いました。今回は除痛効果が強いと報告されているトリアムシノロンという種類のステロイドに焦点を当てました。全症例のうち7.2%でトリアムシノロンが使用され(ステロイド使用群)、92.8%ではトリアムシノロンが使用されませんでした(対照群)。
解析の結果、ステロイド使用群では対照群と比較して、感染による再手術の発生率が0.15%上昇しました(ステロイド使用群:0.40%、対照群:0.25%)。また、感染の診断率については0.71%の上昇が見られました(ステロイド使用群:2.9%、対照群:2.2%)。
患者さんの背景を揃える統計手法(傾向スコアマッチング)を用いた分析でも、感染による再手術の発生率の差は0.16%と同様の結果でした。また、ステロイド使用群の中で術後感染のリスクが高かったのは、喫煙歴がある方、複数の持病がある方、日常生活動作に介助が必要な方でした。
解析の結果、ステロイド使用群では対照群と比較して、感染による再手術の発生率が0.15%上昇しました(ステロイド使用群:0.40%、対照群:0.25%)。また、感染の診断率については0.71%の上昇が見られました(ステロイド使用群:2.9%、対照群:2.2%)。
患者さんの背景を揃える統計手法(傾向スコアマッチング)を用いた分析でも、感染による再手術の発生率の差は0.16%と同様の結果でした。また、ステロイド使用群の中で術後感染のリスクが高かったのは、喫煙歴がある方、複数の持病がある方、日常生活動作に介助が必要な方でした。
今後の展開
今回の研究でステロイドの使用により感染率が上昇していたものの、その差はごくわずかであることが示されました。これまでに報告されたステロイド使用の痛みの軽減などのメリットを考慮すると、ステロイドの使用を全面的に控えるべきとは言えませんが、特にリスク因子を持つ患者さんでは感染に十分注意を払う必要があります。
この研究により、これまでデータが不足していたTKAにおけるステロイド使用の安全性について、重要な判断材料が医療現場に提供されました。
この研究により、これまでデータが不足していたTKAにおけるステロイド使用の安全性について、重要な判断材料が医療現場に提供されました。
論文情報
タイトル:Association Between Intraoperative Periarticular Injection of Triamcinolone and Early Postoperative Infection in Total Knee Arthroplasty: An Analysis of a Japanese Nationwide Database
著者:Shingo Kurihara, Chikamasa Ichita, Tadahiro Goto, Kazuhisa Hatayama, Kiyohide Fushimi, Sayuri Shimizu
掲載雑誌:The Journal of Arthroplasty
DOI:https://doi.org/10.1016/j.arth.2025.04.041
著者:Shingo Kurihara, Chikamasa Ichita, Tadahiro Goto, Kazuhisa Hatayama, Kiyohide Fushimi, Sayuri Shimizu
掲載雑誌:The Journal of Arthroplasty
DOI:https://doi.org/10.1016/j.arth.2025.04.041
用語説明
*1 DPCデータ:Diagnosis Procedure Combination(診断群分類)データベースは、急性期入院医療における診療の実態を把握することを目的に、診断群分類に基づいて厚生労働省へ提出される全国規模の医療情報データベースである。診療報酬請求のための病名や処置、手術、薬剤、検査、在院日数などの詳細な情報を含んでおり、リアルワールドデータとして臨床疫学研究への応用が可能である。
*2 人工膝関節全置換術(TKA):変形性膝関節症などの疾患で膝の痛みが出たり機能が低下したりする場合に、膝関節を人工のインプラントに置き換える手術。
*3 ステロイド:副腎皮質ホルモンに似た構造を持つ抗炎症作用が強い薬剤。TKAの術中に関節周囲へ注射することで、炎症を抑制し、痛みや腫れを軽減する効果がある。今回の研究で焦点を当てたトリアムシノロンは、局所注射としてのみ使用される中間持続型の副腎皮質ステロイドで、強い抗炎症・除痛効果を持つが、免疫抑制作用により感染リスクが懸念されていた。
*2 人工膝関節全置換術(TKA):変形性膝関節症などの疾患で膝の痛みが出たり機能が低下したりする場合に、膝関節を人工のインプラントに置き換える手術。
*3 ステロイド:副腎皮質ホルモンに似た構造を持つ抗炎症作用が強い薬剤。TKAの術中に関節周囲へ注射することで、炎症を抑制し、痛みや腫れを軽減する効果がある。今回の研究で焦点を当てたトリアムシノロンは、局所注射としてのみ使用される中間持続型の副腎皮質ステロイドで、強い抗炎症・除痛効果を持つが、免疫抑制作用により感染リスクが懸念されていた。
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