大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術後の直接経口抗凝固薬の再開のタイミングと安全性 —日本のガイドラインの妥当性を支持—
横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻 市田親正医師(博士後期課程1年、湘南鎌倉総合病院 消化器病センター 部長)、清水沙友里講師(同専攻)、伏見清秀(東京科学大学 )、後藤匡啓客員講師(TXP Medical株式会社)らの研究グループは、診断群分類(Diagnosis Procedure Combination: DPC)データベース を用いて、大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)*1の後に直接経口抗凝固薬(DOAC)*2の再開のタイミングと安全性について調査し、日本のガイドラインの妥当性を検証し報告しました。
本研究成果は、米国消化器病学会の査読付き英文雑誌「The American Journal of Gastroenterology」に掲載されました(2024年8月23日オンライン先行公開)。
本研究成果は、米国消化器病学会の査読付き英文雑誌「The American Journal of Gastroenterology」に掲載されました(2024年8月23日オンライン先行公開)。
研究成果のポイント
● DOAC (直接経口抗凝固薬)を服用している患者数は増加しており、その休薬や再開のタイミングは、特に脳梗塞など血栓塞栓症のリスクに関わるため、慎重に判断する必要がある。
● 大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後のDOAC再開のタイミングを調査した研究は、これまで世界的にも行われておらず、国際的なガイドラインでも統一した見解がなかった。この問題を解決するために大規模なデータが必要であった。
● 本研究は日本全国のDPCデータを使用して17万例を超える大腸ESDの調査を行い、DOACの再開タイミングは、治療後2~3日経過を待つよりも治療翌日に再開することが適切であることを示した。
研究背景
直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用は年々増加しており、特に脳梗塞や肺塞栓症などの血栓塞栓症予防において重要な役割を果たしています。普段は血栓塞栓症予防において、重要な役割を果たしますが、手術では出血リスクが高くなることから一般的に休薬が必要となります。このため、DOACの休薬や再開のタイミングは、内視鏡手術を行う際に大きな課題となっています。特に、大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は出血リスクの高い内視鏡手術となるため、一般的に治療時・治療後の出血を予防するためにDOACの休薬が行われていますが、術後の再開タイミングについてはこれまで十分な研究が行われておらず、国際的なガイドラインでも統一した見解がありません。その背景には、DOAC使用者が全体の3%未満であり、血栓塞栓症の発症率が1%未満と少ないため、大規模なデータが必要であったことが挙げられます。
研究内容
本研究では、日本全国のDPCデータを使用して、17万例を超える大腸ESDの調査を行い、DOACの再開のタイミングが術後出血や血栓塞栓症に与える影響を分析しました。ESD後1日目にDOACを再開した群(早期再開群)と、2~3日後に再開した群(遅延再開群)を比較し、術後出血や血栓塞栓症の発生率を検討しました。その結果、DOACを早期に再開することで血栓塞栓症のリスクが大幅に低下する一方で、術後出血のリスクは遅延再開群と有意差がないことが明らかになりました。また、DOACの中ではダビガトランが最も出血リスクが高い可能性を示しました。本研究は、その症例規模からランダム化比較試験を行うことが難しいため、世界的に重要なエビデンスとなると考えられます。この結果は、日本の抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインを支持するものです。
今後の期待
1. 国際的なガイドラインの見直し
本研究の結果は、日本のガイドラインが推奨するDOAC再開タイミングが適切であることを裏付けていますが、国際的なガイドラインにおいては未だ統一された見解がないというのが現状です。今後は、今回の研究結果を基に、世界的に検証が行われ、国際的なガイドラインの見直しが進むことが期待されます。
2. 周術期でのDOACの変更
本研究で、DOACの種類による術後出血リスクの差異が示され、特にダビガトラン使用者で出血リスクが高い可能性が示唆されました。そのため、周術期においてDOACの変更が有効となる可能性があります。
本研究の結果は、日本のガイドラインが推奨するDOAC再開タイミングが適切であることを裏付けていますが、国際的なガイドラインにおいては未だ統一された見解がないというのが現状です。今後は、今回の研究結果を基に、世界的に検証が行われ、国際的なガイドラインの見直しが進むことが期待されます。
2. 周術期でのDOACの変更
本研究で、DOACの種類による術後出血リスクの差異が示され、特にダビガトラン使用者で出血リスクが高い可能性が示唆されました。そのため、周術期においてDOACの変更が有効となる可能性があります。
論文情報
タイトル:Timing of Direct Oral Anticoagulants Resumption Following Colorectal Endoscopic Submucosal Dissection: A Nationwide Study in Japan
著者: Chikamasa Ichita1,2, Tadahiro Goto2,3,4, Kiyohide Fushimi5, Sayuri Shimizu2
掲載雑誌:The American Journal of Gastroenterology
DOI:10.14309/ajg.0000000000003050
1.市田親正:湘南鎌倉総合病院 消化器病センター
2.市田親正、清水沙友里、後藤匡啓:横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻
3.後藤匡啓:TXP Medical株式会社
4.後藤匡啓:東京大学大学院 医学研究科公共健康医学専攻臨床疫学経済学講座
5.伏見清秀:東京科学大学 大学院 医療政策情報学分野
著者: Chikamasa Ichita1,2, Tadahiro Goto2,3,4, Kiyohide Fushimi5, Sayuri Shimizu2
掲載雑誌:The American Journal of Gastroenterology
DOI:10.14309/ajg.0000000000003050
1.市田親正:湘南鎌倉総合病院 消化器病センター
2.市田親正、清水沙友里、後藤匡啓:横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻
3.後藤匡啓:TXP Medical株式会社
4.後藤匡啓:東京大学大学院 医学研究科公共健康医学専攻臨床疫学経済学講座
5.伏見清秀:東京科学大学 大学院 医療政策情報学分野
用語説明
*1 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD):消化管の粘膜下層に存在する早期がんや腫瘍を一括して切除する内視鏡治療法。従来の内視鏡的粘膜切除術(EMR)よりも大きな病変を一度に切除できるため、より効果的な治療が可能となる。
*2 直接経口抗凝固薬(DOAC):直接経口抗凝固薬(DOAC)は、血液の凝固を防ぐ薬剤の一種で、主に血栓症や塞栓症の予防・治療に使用される。従来のワルファリンとは異なり、食事の影響を受けにくく、定期的な血液検査が不要であるため、患者さんにとって使いやすいのが特徴。
*2 直接経口抗凝固薬(DOAC):直接経口抗凝固薬(DOAC)は、血液の凝固を防ぐ薬剤の一種で、主に血栓症や塞栓症の予防・治療に使用される。従来のワルファリンとは異なり、食事の影響を受けにくく、定期的な血液検査が不要であるため、患者さんにとって使いやすいのが特徴。
お問合せ先
横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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