新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化に関与する遺伝子を発見
~COVID-19の重症化リスク予測への応用に期待~
2024.08.19
横浜市立大学大学院医学研究科 呼吸器病学教室の田中克志助教と金子猛教授、同研究科 視覚器病態学教室の目黒明特任教授と水木信久教授らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象に、免疫応答で重要な役割を担うヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)*1の遺伝子解析を行い、HLA-DQA1*01:03とHLA-DQB1*06:01の2つのHLA遺伝子型が、日本人集団においてCOVID-19の重症化リスクと有意に相関することを発見しました。
本研究成果は、国際学術誌「HLA: Immune Response Genetics」に掲載されました(2024年7月23日)。
本研究成果は、国際学術誌「HLA: Immune Response Genetics」に掲載されました(2024年7月23日)。
研究成果のポイント
● COVID-19患者を対象にHLA遺伝子解析を実行し、COVID-19肺炎の重症度とHLA遺伝子型との関連を解析した。
● HLA-DQA1*01:03とHLA-DQB1*06:01の2つのHLA遺伝子型が、COVID-19の重症化と有意な相関を示した。
● HLA-DQA1*01:03とHLA-DQB1*06:01は、オミクロン株流行期以前および流行期以降において、COVID-19の重症化との関連が一貫して確認された。
● 本研究の成果は、COVID-19の重症化リスクを予測するための基礎情報(バイオマーカー)になることが期待される。
研究背景
COVID-19は、軽度の感冒症状のみで改善する例から重度の肺炎に至る例まで、症状の重症度はさまざまです。ヒト白血球抗原(HLA)は、ウイルスなどの体外から侵入する病原体に対する免疫応答に重要な役割を担っています。HLAの遺伝子型と呼吸器感染症の関連については、過去に肺結核などで報告されています。本研究では、COVID-19の重症度とHLAの遺伝子型との関連を調査することを目的としました。
研究内容
本研究では、209例のCOVID-19患者(20歳以上)を対象としました。8種類のHLA遺伝子(HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DQA1、HLA-DPB1、HLA-DQB1、HLA-DRB1)について遺伝子解析を実行し、おのおのの患者が保有するHLA遺伝子型を決定しました。
COVID-19の重症度とHLA遺伝子型の関連を評価するため、COVID-19患者群を重症群(91例)と非重症群(118例)の2群に分けてHLA遺伝子型の保有頻度を比較しました。2群間の関連解析は、「オミクロン株流行前(2021年12月以前)」、「オミクロン株流行期(2022年1月以降)」および「全研究期間」の3つの期間に分類して行われました。
オミクロン株流行前では、HLA-DQA1*01:03の遺伝子型を保有する頻度は、非重症群(10.5%)と比較して、重症群(35.2%)で有意な上昇を示しました。また、HLA-DQB1*06:01の遺伝子型を保有する頻度も、重症群(32.4%)と非重症群(7.9%)の間で有意な差が認められました。
オミクロン流行期においても、統計学的に有意ではないものの、HLA-DQA1*01:03とHLA-DQB1*06:01の2つのHLA遺伝子型は非重症群と比較して重症群で保有頻度が多い傾向を示しました。研究期間全体を通して見ると、HLA-DQA1*01:03の保有頻度は重症群で30.2%、非重症群で14.4%、HLA-DQB1*06:01保有頻度は重症群で44.5%、非重症群で26.7%と、いずれのHLA遺伝子型も重症群で保有頻度が有意に高いことが認められました(表1)。このことから、HLA-DQA1*01:03とHLA-DQB1*06:01の2つのHLA遺伝子型は新型コロナウイルスの株の種類に関係なく、COVID-19の重症化に関与することが示唆されました。
COVID-19の重症度とHLA遺伝子型の関連を評価するため、COVID-19患者群を重症群(91例)と非重症群(118例)の2群に分けてHLA遺伝子型の保有頻度を比較しました。2群間の関連解析は、「オミクロン株流行前(2021年12月以前)」、「オミクロン株流行期(2022年1月以降)」および「全研究期間」の3つの期間に分類して行われました。
オミクロン株流行前では、HLA-DQA1*01:03の遺伝子型を保有する頻度は、非重症群(10.5%)と比較して、重症群(35.2%)で有意な上昇を示しました。また、HLA-DQB1*06:01の遺伝子型を保有する頻度も、重症群(32.4%)と非重症群(7.9%)の間で有意な差が認められました。
オミクロン流行期においても、統計学的に有意ではないものの、HLA-DQA1*01:03とHLA-DQB1*06:01の2つのHLA遺伝子型は非重症群と比較して重症群で保有頻度が多い傾向を示しました。研究期間全体を通して見ると、HLA-DQA1*01:03の保有頻度は重症群で30.2%、非重症群で14.4%、HLA-DQB1*06:01保有頻度は重症群で44.5%、非重症群で26.7%と、いずれのHLA遺伝子型も重症群で保有頻度が有意に高いことが認められました(表1)。このことから、HLA-DQA1*01:03とHLA-DQB1*06:01の2つのHLA遺伝子型は新型コロナウイルスの株の種類に関係なく、COVID-19の重症化に関与することが示唆されました。
今後の展開
本研究により、HLA遺伝子型とCOVID-19重症度の関連が明らかになりました。本研究の成果は、COVID-19の重症化リスクを予測するための基礎情報(バイオマーカー)になることが期待されます。重症化リスクを正確に予測することで、ワクチンや抗ウイルス薬を、重症化しやすい患者へ適切に投与することが可能となり、COVID-19の将来的な予防および治療戦略に寄与することが期待されます。
論文情報
タイトル:HLA-DQA1*01:03 and DQB1*06:01 are risk factors for severe COVID-19 pneumonia
著者: Katsushi Tanaka, Akira Meguro, Yu Hara, Lisa Endo, Ami Izawa, Suguru Muraoka, Ayami Kaneko, Kohei Somekawa, Momo Hirata, Yukiko Otsu, Hiromi Matsumoto, Ryo Nagasawa, Sosuke Kubo, Kota Murohashi, Ayako Aoki, Hiroaki Fujii, Keisuke Watanabe, Nobuyuki Horita, Hideaki Kato, Nobuaki Kobayashi, Ichiro Takeuchi, Atsushi Nakajima, Hidetoshi Inoko, Nobuhisa Mizuki, Takeshi Kaneko
掲載雑誌: HLA: Immune Response Genetics
DOI: 10.1111/tan.15609
著者: Katsushi Tanaka, Akira Meguro, Yu Hara, Lisa Endo, Ami Izawa, Suguru Muraoka, Ayami Kaneko, Kohei Somekawa, Momo Hirata, Yukiko Otsu, Hiromi Matsumoto, Ryo Nagasawa, Sosuke Kubo, Kota Murohashi, Ayako Aoki, Hiroaki Fujii, Keisuke Watanabe, Nobuyuki Horita, Hideaki Kato, Nobuaki Kobayashi, Ichiro Takeuchi, Atsushi Nakajima, Hidetoshi Inoko, Nobuhisa Mizuki, Takeshi Kaneko
掲載雑誌: HLA: Immune Response Genetics
DOI: 10.1111/tan.15609
用語解説
*1 ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA):ヒトの主要組織適合性複合体であるHLAは極めて高度な遺伝的多型性(個人差)を示し、自己と非自己の識別という免疫学的に重要な役割を担っている。HLA遺伝子の多型性が抗原ペプチドに対する免疫応答の個人差を決定する遺伝的な要因となり、様々な疾患に対する感受性を規定していることが示唆されている。
お問合せ先
横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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