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慢性腎臓病(CKD)患者の腎予後に与える影響を明らかに
—SGLT2阻害薬とGLP1受容体作動薬の併用療法における先行薬剤の違いに注目—

横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学の塚本俊一郎助教、田村功一主任教授、小林一雄客員准教授(神奈川県内科医学会高血圧・腎疾患対策委員会委員、内科クリニックこばやし院長)らの研究グループは、東海大学腎臓内分泌代謝内科 豊田雅夫准教授、福岡大学内分泌・糖尿病内科 川浪大治教授らと共同で行っているRECAP研究*1において、SGLT2阻害薬(SGLT2-I)とGLP1受容体作動薬(GLP1-RA)の併用療法における先行薬剤の違いが慢性腎臓病(CKD)患者の腎アウトカム(腎臓の健康状態を表す指標)に与える影響について明らかにしました。

本研究成果は、「Diabetes, Obesity and Metabolism」誌に掲載されました(2024年5月19日オンライン先行掲載)。

研究成果のポイント


● SGLT2阻害薬とGLP1受容体作動薬を実際に併用した患者さんのリアルワールドデータを用いて、CKD患者の腎予後に先行薬剤の違いが影響を与えるかどうかを検討した世界初の研究成果である。

● 傾向スコアマッチング*2によって背景因子をそろえた場合、SGLT2阻害薬を最初に使用したグループよりもGLP1受容体作動薬を最初に使用したグループの方がWin ratio*3を用いた解析において腎臓への保護効果が高くなる可能性が明らかになった。

● GLP1受容体作動薬を最初に使用したグループでは、特にアルブミン尿*4の進展抑制効果が高いことが明らかになった。

研究背景

CKD患者数は国内で1,300万人以上と推定されており、新しい「国民病」ともいわれています。特に糖尿病を合併する場合には、心血管疾患や末期腎不全に至るリスクが高くなることがわかっており、その対策が重要となっています。これらの疾患を有する患者さんへの治療効果が期待されている薬剤にSGLT2-IとGLP1-RAがあります。どちらの薬剤も元は糖尿病患者の血糖値の低下を目的で開発された薬剤ですが、その後の研究から血糖値の低下作用を超えた腎臓への保護的作用を有することがわかってきました。近年、両者の併用療法が単剤療法と比べてより腎臓にとって有益である可能性もわかってきていましたが、両者の併用療法において使用する薬剤の順番が腎保護に与える影響は不明でした。そこで、塚本助教、小林客員准教授らの研究グループはSGLT2-IとGLP1-RAを実際に併用した患者さんのリアルワールドデータを用いて、どちらの薬剤の先行グループが腎アウトカムを改善するかについて検討を行いましました。

研究内容

研究グループは、実際にSGLT2-IとGLP1-RAを併用した438人の日本人2型糖尿病合併CKD患者のデータをもとに、傾向スコアマッチングとWin ratioいう解析手法を用いて検討を行いました。傾向スコアマッチングの結果は、腎複合アウトカムの発生率は2グループ間で差がありませんでした(GLP-1RA先行グループ10%、SGLT2-I先行グループ17%、オッズ比1.80、95%信頼区間 [CI] 0.85~4.26、p=0.12)。しかしながら、Win ratioを用いた解析ではGLP-1RA先行グループの勝率は1.83(95% CI 1.71~1.95、p<0.001)とSGLT2-I先行グループよりも有意に高く、GLP1-RAの先行投与の方がより腎保護的である可能性が示されました(表1)。

また、ベースラインからの対数化アルブミン尿(LnACR)変化はGLP1-RA先行グループで有意でしたが、SGLT2-I先行グループでは有意ではありませんでした。特に、GLP1-RA先行グループでは、SGLT2-I併用療法追加後にアルブミン尿の大きな減少を認めました(ベースvs.追加時:-0.01[95%CI、-0.33〜0.31];p=1.0、追加時vs.併用治療後:-0.37[95% CI, -0.68 to -0.06]; p=0.02)。
表1. 先行治療薬によるWin ratio(勝率)の違い(論文中の表を一部改変)

今後の展開

本研究はSGLT2-IとGLP1-RAの併用療法における先行薬剤の違いがCKD患者の腎アウトカムに与える影響を検討した世界初の研究成果になります。CKD患者数が世界的に増加している現代において、本研究成果は今後のCKD治療の進歩に大いに貢献することが期待されます。

論文情報

タイトル:Effect of preceding drug therapy on the renal and cardiovascular outcomes of combined sodium-glucose cotransporter-2 inhibitor and glucagon-like peptide-1 receptor agonist treatment in patients with type 2 diabetes and chronic kidney disease.
著者 :RECAP study group, Tsukamoto S., Kobayashi K., Toyoda M., Kawanami D., Wakui H., Tamura K., et al.
掲載雑誌:Diabetes, Obesity and Metabolism
DOI:10.1111/dom.15652

用語説明

*1 RECAP研究:「先行薬剤別にみた2型糖尿病症例におけるSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬併用投与による腎保護効果の検討」をRECAP研究と呼ぶ。RECAPは“Renoprotective Effect of the Combined Administration of an SGLT2 inhibitor and GLP-1RA in Patients with T2D”の略。

*2 傾向スコアマッチング:無作為割付が難しく様々な交絡が生じやすい観察研究において、共変量を調整して因果効果を推定するために用いられるバランス調整の統計手法。

*3 Win ratio:複合エンドポイントに優先順位をつけて解析を行う統計手法。

*4 アルブミン尿:腎臓が障害されると尿に流れ出てくるタンパク質であり、糖尿病や腎炎など様々な腎疾患で認められる。アルブミン尿は、腎不全進展のリスクであるのみならず、脳心血管病の発症リスクであることも知られている。

お問合せ先

横浜市立大学 広報担当
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp
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