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スマートシューズを用いた高齢者の歩行機能の検討
~産学連携による共同研究の成果を発表~

横浜市立大学附属病院 救急科 三澤菜穂医師、西井基継講師らの研究グループは、株式会社MTG(本社:愛知県名古屋市 代表取締役社長:松下剛)と共同で、高齢者の病気やけがのリスクの低減を目指した調査研究を行っています。

これまでに、横浜市在住の患者さん62名を対象として、スマートシューズを履いた歩行調査を行い、高齢者と若年者の比較を行った調査結果を、6月16日開催(横浜)の日本老年医学会で発表しました。
 

研究背景

高齢者の転倒は、救急搬送や要介護の主な原因となり、転倒のリスクについて評価し、予防することは、社会的な課題です。転倒のリスク指標として、筋肉量や筋力だけではなく、歩き方や歩くときの重心の移動、加速度などの歩行指標の重要性が報告されていますが、これまでの研究で、定点における特殊な環境で評価されてきた歩行指標は、必ずしも日常生活レベルを反映しているわけではありません。

最近、スポーツ能力の向上を主な用途として、歩行指標を日常的に簡便に収集できる、感知型デバイス搭載靴(スマートシューズ)が開発されました。一方で、高齢者におけるその有用性は十分に検討されていません。そこで、スマートシューズにより、高齢者に特徴的な日常生活レベルでの歩行パターンおよびその指標を抽出することを目的として、調査研究を行いました。
 

研究内容

横浜市在住の一人で歩くことが可能な患者さんを対象として、スマートシューズを履いて歩行を行い、歩行指標(地面反力、左右方向せん断力、推進方向剪断力、加速度)のデータを収集しました。そして、このデータを65歳以上の高齢者群と65歳未満の若年者群で、統計学的に比較検討しました。

被験者は計62名で、高齢者群50名、若年者群12名でした。どちらの被験者群においても、Barthel Index*1、SARC−F*2、ボディマス指数(BMI)および筋肉量などは差がありませんでした。スマートシューズで得られるセンサー圧のデータを検討したところ、高齢者と若年者で有意な差を得ることができました。(図1)

加齢による歩行変化の特徴を捉えることができたと考えられます。日常の活動度、ボディマス指数(BMI)および筋肉量が保持されている高齢者においても、スマートシューズを用いることで、日常生活における歩行安定性の低下を早期に検出できる可能性が示されました。
 
図1.母趾球(足の親指の付け根)にかかる各センサー圧
左:前方向を正とした前後方向にかかる力(推進力)、中:外側方向を正とした左右方向にかかる力(左右せん断力)、右:下方向を正とした垂直方向にかかる力(地面反力)のいずれにおいても、若年者と高齢者で有意差を認めた。

今後の展開

高齢者や、基礎疾患をかかえるサルコペニア*3の患者さんは、骨格筋量や骨格筋力の低下により、転倒や急病での救急搬送の増加につながります。基礎疾患のコントロールと共にサルコペニアに対する予防も大変重要であり、本研究成果を踏まえて、在宅筋肉トレーニングなどの新たな在宅管理療法の開発につなげたいと考えます。 

用語説明

*1 Barthel Index(バーセルインデックス):
ADL(日常生活動作)を評価する指標の一つで、介護やリハビリを受けている方、病気や障がいを持つ方の日常生活で使う身体の能力を把握するために使われ、「食事」「移乗」などの10項目を対象に、それぞれ0〜15点の点数をつけることで、日常的によく行う動作をどれだけ自立して行えるのか評価する。

*2 SARC-F:
加齢や疾患によって筋肉量が減少し筋力が低下する「サルコペニア」症候群の診断において、5つの質問で構成されるSARC-Fがサルコペニアのスクリーニングに使用される場合がある。

*3 サルコペニア:
主に加齢に伴って生じる、筋肉量の減少および筋力の低下、身体機能の低下のことを示す。

 
事業ビジョンに「VITAL LIFE〜世界中の人々の健康で美しく生き生きとした人生を実現します〜」を掲げ、HEALTH、BEAUTY、HYGIENEの領域で、ブランド、商品、サービスを開発しています。 

お問合せ先

横浜市立大学 広報課
mail: koho@yokohama-cu.ac.jp  
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