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難治性下痢に挑む! 胆汁酸性下痢性/便秘症の新規診断法の開発および革新的治療法の開発

難治性下痢に挑む! 胆汁酸性下痢性/便秘症の新規診断法の開発および革新的治療法の開発

日暮 琢磨

横浜市立大学附属病院 内視鏡センター 助教(採択当時の役職)
横浜市立大学 医学部 肝胆膵消化器病学 講師
(令和4年3月時点)


研究の概要

私たちの排便には、肝臓で生合成される消化酵素のひとつ胆汁が大きく関わっていることが近年わかってきました。胆汁は多く分泌され過ぎると下痢を引き起こし、逆に欠乏すると便秘を引き起こすことがわかっています。これらは従来考えられてきた下痢症や便秘症とは異なる病態であり、確立した診断法や治療法がなく困っている患者さんが多くいます。
そこで、これまで診断が難しかった本疾患の病態を解明し、簡便に診断する方法や治療法を確立させることを目指します。

研究成果

便中胆汁酸が過剰になると下痢を引き起こし、欠乏すると便秘になることが近年報告されています。新規便秘治療薬エロビキシバットは回腸末端で胆汁酸再吸収を阻害し大腸内の胆汁酸量を増加、結腸運動と水分分泌を促す便秘症治療薬です。エロビシバットによりどの胆汁酸分画が増加するか、胆汁酸増加が腸内細菌叢に与える影響、などは不明のため、今回、糞便中の胆汁酸濃度および腸内細菌叢に対するエロビシバットの影響について検討を行いました。
図1 図1
便中の胆汁酸濃度はエロビキシバット投与により総胆汁酸や一部の胆汁酸分画濃度が有意に上昇し、腸内細菌叢では門レベル並びに属レベルで有意な変化は認められなかったが、多様性はShannon indexにおいて有意に減少することがわかりました。(右図)
デオキシコール酸などの胆汁酸は多くの細菌に対して殺菌作用を持つことが知られており、腸内細菌叢の多様性の低下はそのためと考えられました。一般的には腸内細菌叢の多様性の低下は,ヒトには有害であるとされていますが、便秘症患者は健常者よりも腸内細菌の種の豊富さとαの多様性が増加することが示されており、便秘の改善より健常者に近づいたいとも考えられる結果でした。

また胆汁酸性下痢についての新規診断法および治療法の開発に向けては、2018年12月から特定当院2例目の特定臨床研究として実施中であり、近日目標症例数に到達する見込みであり、結果を発表したいと考えています。
Labのメンバー(前列中央:日暮氏) Labのメンバー(前列中央:日暮氏)
以上のように、かもめプロジェクトの篤いご支援により胆汁酸性下痢症/便秘症の病態解明、新規診断法/治療法の開発を進めることができました。これもかもめプロジェクトにご支援頂きました寄附者、ご家族の皆様、関係者の方々のおかげだと考えております。本当にどうもありがとうございました。
本研究成果は2020年5月米国シカゴで開催されたアメリカ消化器病学会で発表され、同年9月英国医学雑誌Alimentary Pharmacology and Therapeuticsに掲載されました。
Noboru Misawa, Takuma Higurashi, Atsushi Nakajima, etc. The benefit of elobixibat in chronic constipation is associated with faecal deoxycholic acid but not effects of altered microbiota. Aliment Pharmacol Ther. 2020 Sep;52(5):821-828.
Noboru Misawa, Takuma Higurashi, Atsushi Nakajima, etc. The effect of elobixibat on gut microbiota and the change of fecal concentration of bile acid: a prospective, single-center, non-blinded, single-arm, clinical trial. Digestive Disease Week 2020, Chicago, America, 2020, 5 

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