口唇裂・口蓋裂、小耳症、多合指症ー先天性異常と治療法についてー
口唇口蓋裂、唇顎口蓋裂とは
くちびるや上あご、歯ぐきに裂け目があるという病気のことです。日本人では500人に1人程度と、他の地域と比較するとやや頻度が高い疾患です。
唇顎口蓋裂の発生機序は未だ十分に解明されていませんが、妊娠4-7週ごろに赤ちゃんのくちびるが出来る際に、何らかの異常が発生することで生じると言われています。
裂け目の場所によって、①口唇裂、②口蓋裂、③唇顎口蓋裂(口唇・口蓋ともに裂け目があるもの)と名前が変わります。
①口唇裂、③唇顎口蓋裂はそれぞれ、左右どちらかに裂け目がある片側性のものと、左右どちらにも裂け目がある両側性のものがあります。
②口蓋裂については、裂け目が表側からは見えない粘膜下口蓋裂というものもあります。
口唇口蓋裂、唇顎口蓋裂の治療法
口唇裂:口唇形成術
生後3〜4か月のタイミングで手術を行う施設が一般的です。
全身状態によって前後する可能性があります。
手術までの間、歯科医の先生のもとで、術前顎矯正という歯ぐきの形態をよくする治療を継続して行うことがあり、その上で口唇裂と口蓋裂を一度に閉鎖する手術を行う専門施設もあります。
口唇裂の手術方法(Millard +三角弁法)
口唇裂の手術では、割れてしまった裂を、形態に合わせ綺麗に閉鎖するのみならず、口すぼめに必要な口輪筋の再建を行います。
実際の治療例
右不全型口唇裂
両側完全口唇口蓋裂
口蓋裂:口蓋形成術
発語による構音を考慮し、1歳半頃のタイミングで手術を行うことが一般的です。全身状態によって前後する可能性があります。
口蓋裂があると滲出性中耳炎を繰り返しやすく、難聴の原因となる可能性があります。耳鼻科での診察を行い、必要に応じて鼓膜の切開や鼓膜にチューブを入れる手術を同時に行うことがあります。
口蓋裂の手術方法(Two flap法)
実際の治療例
粘膜下口蓋裂(軟口蓋裂、Furlow法による再建)
両側完全口蓋裂(Two flap法による再建)
唇顎口蓋裂:口唇形成術、口蓋形成術
口唇裂と口蓋裂の手術を各々のタイミングで行います。
生後早期からしっかりとした矯正を行うことで、同時に手術を行う専門施設もあります。
顎裂骨移植
顎裂や骨の欠損には、腸骨の移植を行なうと伴に顎裂の閉鎖を行います。
永久歯の犬歯が良い位置に生えてくるのを促すことが目的で、小学校の中学年頃に行なうことが一般的です。
口唇裂鼻修正術
口唇裂では鼻の軟骨が変形しているため、修正が必要になることが殆どです。
顔がある程度成長した段階で行うことが多く、小学校中学年頃に顎裂骨移植時に同時に行なうことが多いです。
小耳症とは
生まれつき耳が小さいことを小耳症と言います。日本人では6000~10000人に1人とされていますが、実際にはもう少し多いのではないかと言われています。
耳は第一、第二鰓弓という場所から形づくられますが、そこに何らかの異常があると小耳症を来たします。第一・第二鰓弓症候群、トリーチャー・コリンズ症候群、ゴールデンハー症候群などの症候群の1症状としてみとめられることがあります。
ほとんどの患者さんは原因が明らかではありません。しかし一方で、サリドマイドや葉酸拮抗剤、レチノイン酸誘導体などの一部の薬剤との関連性が指摘されています。
小耳症の治療法
小学校高学年(10〜11歳前後)のタイミングで手術を行う施設が多く、一般的です。
肋軟骨という胸の軟骨を取り出して細工を行い耳を形づくるため、少しでも体格が大きい方が望ましく、身長135cm、体重30kg以上が目安とされています。
手術は、①耳介形成術、②耳介挙上術の最低2回の手術が必要で、半年以上間をあけて行います。
①耳介形成術
②耳介挙上術
実際の治療例
肋軟骨移植による小耳症手術(成人例)
浅側頭筋膜弁+肋軟骨移植+植皮による耳おこし術(成人例)
埋没耳
耳介の頭側が一部が皮膚に埋もれ込んだ状態になる疾患で、指で引き出すことも出来ますが、離すと元に戻ってしまいます。発生頻度は400~500人に一人とされ、発生頻度は比較的高いです。
内耳介筋の異常付着が原因の一つとされますが、軽症例では乳児期の装具装着による矯正で、治療が可能な場合があります。
矯正治療が奏功しなかった場合や変形が強い場合には、外科的治療の適応になります。変形を生じている軟骨の修正と伴に、耳介上部の皮膚が不足している場合には、周囲皮膚の移植を行います。
埋没耳に対する手術
多指症、合指症とは
生まれつき手や足の指が多いことを①多指症、手や足の指がくっついていることを②合指症、手や足の指が多くくっついていることを③多合指症と言います。
手足は妊娠4〜7週の間に形づくられますが、その間に何らかの異常があると上記のような手足の先天異常を来たします。
ほとんどの患者さんは原因が明らかではありません。まれに遺伝子の異常や外的要因などによって発症することがあります。
実際の治療例
合指症に対する指間形成術
多指症、合指症の治療法
手は1歳前後、足は1〜2歳のタイミングで手術を行う施設が多いです。
全身状態によって前後する可能性があります。
また、先天性絞扼輪症候群という疾患で手足のむくみや血流障害が強い場合、生後早期に手術を行うこともあります。
多指症:多指症手術
合指症:合指症手術
実際の治療例
多母指症に対する手術
多合指症:多合指症手術
実際の治療例
植皮を使用しない独自の手法
Hayashi A, Yanai A, Komuro Y, Nishida M. : A New Surgical Technique for Polysyndactyly of the Toes without Skin Graft. Plast Reconstr Surg. 114:433-438, 2004. より