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リンパ浮腫とその治療法について

リンパ浮腫とは

血液のほとんどは心臓のポンプ機能で動脈血として体の隅々まで送られた後、静脈血として心臓に戻ります。その間に一部が組織に浸み出し、リンパ液としてリンパ管内を通って心臓に戻ります。
このリンパ液の流れが阻害され、鬱滞することでむくみなどの症状が出現することをリンパ浮腫といいます。
WHOの記載では「世界で1億4000万〜2億5000万人」とあり、本邦では10〜15万人と推定されていますが、患者人口の正確な把握は困難と言われています。

リンパ浮腫は原発性(先天性含む)と続発性に分けられます。
原発性は、リンパ浮腫患者全体の約10%と推測されており、遺伝子異常によるものもありますが、多くは明らかな原因の同定が困難とされています。
続発性は、リンパ浮腫患者全体の約90%を占め、原因が特定できるものをさします。
原因としては悪性腫瘍手術に伴うリンパ節郭清(腋窩、頸部、骨盤内、鼠径部などのリンパ節)、放射線照射、転移リンパ節や腫瘍の増大によるリンパ系の物理的閉塞、感染症(リンパ管炎、蜂窩織炎、白癬など)、寄生虫(フィラリア)、外傷や熱傷などがあげられます。
本邦では乳癌や子宮癌などの悪性腫瘍治療の後遺症で発症することがほとんどです。

リンパ浮腫の診断法

リンパ浮腫以外の浮腫の原因は多岐に渡り、心機能低下による心原性、腎機能低下による腎性、肝機能低下による肝性、甲状腺などのホルモン異常におる内分泌性、静脈の機能低下による静脈性、肥満による脂肪性、寝たきりや活動性低下による廃用性、薬剤性などがあります。
リンパ浮腫はこれらのむくみとの鑑別が重要であり、外来での問診や診察のほかに採血やエコー検査でリンパ機能の低下以外の原因がないか精査が必要となります。
当院ではリンパ機能の評価のため、SPECT-CTリンパシンチグラフィーやインドシアニングリーン(ICG)リンパ管造影検査を導入し、病歴や身体所見の診察、画像精査の結果から総合的に診断しています。

SPECT-CTリンパシンチグラフィー

リンパ管に取り込まれる造影剤(99mTc;ラジオアイソトープ)を皮下に注射してリンパ管の流れを撮影する放射線検査です。
手足のどの部位でリンパ液が鬱滞しているか、リンパ管の輸送機能がどれくらい保たれているかを3次元的に評価することができます。
また、同時に撮影したCT検査により皮膚や皮下組織の精査を行うことができます。

SPECT-CTリンパシンチグラフィーSPECT-CTリンパシンチグラフィー
Maegawa J et al: Type of lymphoscintigraphy and indications for lymphaticovenous anastomosis: Microsurgery 30:437-442,2010より

インドシアニングリーン(ICG)リンパ管造影検査

リンパ管に取り込まれる造影剤(インドシアニングリーン)を皮下に注射して、赤外線カメラでリンパ管の流れを撮影する検査です。
皮膚を透過して、リアルタイムに手足のリンパの流れが悪い部位や鬱滞している部位を評価することができ、診断や手術部位の決定に役立てています。

インドシアニングリーン(ICG)リンパ管造影検査インドシアニングリーン(ICG)リンパ管造影検査
Kitayama S et al: Real-time direct evidence of the superficial pymphatic drainage effect of intermittent pneumatic compression treatment for lower lymb lymphedema. Lymphat Res Biol 15: 77-86, 2017より

リンパ浮腫の治療法

圧迫療法

リンパ浮腫の治療法の基本は圧迫療法です。
圧迫療法には専用のストッキングやスリーブ、グローブ、包帯(以下、弾性着衣)を使用します。
弾性着衣の購入費用については、自治体の補助の適用になっているため、申請を行うと後日、購入費用の7割(上限あり)が還付されます。
申請には病院で発行される「弾性着衣等装着指示書」が必要となります。

圧迫療法の画像圧迫療法の画像
TERUMO(株) ジョブスト®︎ エルバレックスより

外科的治療:リンパ管静脈吻合術(LVA)

圧迫療法を継続した上で蜂窩織炎を繰り返す場合や、手術によってさらなる浮腫の改善が見込める場合には、外科的治療の対象となります。
この手術はリンパ管静脈吻合術(以下、LVA)と呼ばれ、顕微鏡を用いてリンパ管と静脈をつなぐことで、手足の鬱滞したリンパ液を静脈経由で心臓に戻す手術です。
LVAでは、腕や足の皮膚を2〜3cm切開し、リンパ管(約0.3mm)を探し、近くの静脈と吻合します。主に全身麻酔で行いますが、心疾患などのために全身麻酔の負担が大きいと判断した場合には局所麻酔で行うこともあります。
入院期間は約1週間で抜糸後に退院となります。LVAは健康保険の対象として認められています。
多くの症例では、LVA後、蜂窩織炎の頻度の低下や患肢の周径、むくみの程度の改善傾向を認めますが、効果には個人差があります。
リンパ浮腫の進行でリンパ管が変性ている場合やリンパ管が見つからなかった場合など、LVAを行っても効果が見られない可能性があります。
また、術後に効果を認めても、時間の経過とともに吻合部が狭窄したり、閉塞してしまう可能性もあり、原則としてLVA後も弾性着衣による圧迫療法の継続が非常に大切です。

  • LVA吻合部の略式図

    LVA吻合部の略式図

  • 実際の顕微鏡でみたLVA吻合部

    実際の顕微鏡でみたLVA吻合部

実際の症例

ご本人の許可を得て写真を使用しております。

  • LVA前

  • 初回LVA後7年6ヶ月

(現病歴)
子宮癌に対して広汎子宮全摘出術と放射線療法を施行された患者です。
摘出後、両下肢のむくみと炎症を繰り返すため、精査加療目的に当科紹介となりました。
SPECT-CTリンパシンチグラフィー施行し、悪性腫瘍術後に伴う重症の続発性下肢リンパ浮腫(maegawa分類で右type5,左type4)の診断となり、弾性着衣による圧迫療法およびLVA施行しました。

初回LVA後7年6ヶ月の時点で、右足の周径は足背-2.3cm、足関節-6.5cm、下腿-15cm、大腿-10.4cm、左足の周径は足背-1.1cm、足関節-3.2cm、下腿-2.2cm、大腿−2.0cmの改善を認めました。圧迫療法は継続中です。