乳房再建について
乳房再建術について
乳房再建術とは、乳がん手術により失われた乳房や形の変わってしまった乳房を再び取り戻す手術で、近年では予防的な乳房切除の際にも用いられます。
手術を行うことで以下の様なメリットが考えられます。
- 乳房を失ったの喪失感が軽減される。
- 「今までと同じ洋服」や「胸の開いた洋服」を着ることができる。
- 水着でプールに入れる。
- 温泉旅行など集団入浴に対する抵抗を少なく出来る
乳房再建のタイミング
乳房再建を行う時期により、以下のような呼び方があります。
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一次再建
乳がんの手術と同時に行う再建手術です。 -
二次再建
乳がんの治療が一段落ついた頃に行う再建手術です。
乳房再建には大きく分けて2通りの方法があります。
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自分の組織(皮膚や皮下脂肪・筋肉など)を使用した方法
*主に、お腹の皮弁又は背中の皮弁を用います。 - 人工物(シリコン)を使用した方法
①自分の組織を使用した方法
A:お腹の皮下脂肪を使用した方法(DIEP皮弁)
- 下図のように血管をつけてお腹の皮膚や脂肪を採取します。
- 胸の内側で肋骨を削り、顕微鏡を使って血管をつなぎます。
- 手術時間は12時間ぐらいです。
- 最初の72時間くらいは絶対安静が必要です。
- 入院期間は2~3週間ぐらいです。
利点
- 大きな乳房を再建できます。
- 健常な乳房に近い質感と下垂具合が表現できます。
欠点
- 血管が詰まると全て失ってしまいます。
- 一度しかできない手術です。
- 部分的に硬くなることがあります。
- 将来的にお腹の筋肉が緩んで出っ張る(腹壁瘢痕ヘルニア)可能性があります。
- 患部以外の場所に大きな傷跡が残り、お臍の作り直しも必要になります。
B:背中の筋肉と皮下脂肪を使用した方法(広背筋皮弁)
- 背中の筋肉とその周囲の皮下脂肪を使用します。
- 脇の下に続く血管を切らずに胸部に移動します。
- 手術時間は8時間ぐらいです。
- 絶対安静期間はなく、入院も2週間前後です。
利点
- 血管をつなぐ必要がないため、比較的安全な手術です。
- 健常な乳房に近い質感や下垂具合が表現できます。
欠点
- 作成可能な乳房の大きさに限界があります。
- 背中に比較的大きな傷ができます。
- 腰から脂肪を採取した場合には、陥凹変形を生じます。
- 背中に水がたまって通院を必要とすることがあります。
- 不随意な筋肉の動きが出ることがあります。
- 萎縮して小さくなる可能性があります。
*近年、大きめの皮弁を採取して2分割する手法により腰部の陥凹変形を軽減し、大きめの乳房を作る工夫も行なっています。
※以上自家組織再建については健常に近い質感を作ることが可能です。
最近の工夫で、背部の皮弁でも腰部の陥凹を軽減しながら、今までより大きめの乳房再建が可能になってきています。
しかし、腹部の皮弁では血管吻合に伴うリスクがあること、手術が成功しても血行状態によっては変形や軟らかさの違いが残ることがあることをご理解の上治療をご検討下さい。
②人工物を使用した方法
- 乳腺切除後、大胸筋下にエキスパンダーを挿入します。
- 術後、通院で定期的に水を注入して膨らませます。
- 予定量まで膨らませてから3ヶ月~1年程度おいた後にシリコンインプラントに交換します。
- 術後1~2週間ぐらいの入院となります。
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エキスパンダー
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シリコンインプラント
利点
- 体の他の部分に傷がつきません。
- 手術時間・入院期間が比較的短いです(乳腺切除手術+1時間半前後)。
欠点
- 大きな乳房や下垂した乳房は十分に表現できません。
- 乳輪乳頭の高さが変わることがあります。
- 細菌感染に弱く、感染した場合は抜去が必要です。
- 10年程度で変形や劣化による破損が起こる可能性があり、10年後を目安に交換が必要とされています。
- 極めて稀に、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)と呼ばれるリンパの癌を発症することがあります。そのため、定期的な外来通院と画像検査の継続が必要となります。