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あざ(母斑)と巨大色素性母斑について

母斑とは、「遺伝的ないし胎生的素因に基づき、生涯のさまざまな時期に顕現し、かつきわめて徐々に変化しうる皮膚面の色ないし形の異常を主体とする限局性皮膚病変である」と教科書的に記載されています。
生じる色によって「赤あざ」「黒あざ」「青あざ」「茶あざ」「黄あざ」といった呼ばれ方もしますが、元になる細胞や特徴が異なるため、病変に応じた治療が必要になります。
「赤あざ」については、毛細血管が元になるため、血管奇形のページで解説を行っているため、それ以外の母斑について、解説をしていきます。

母斑

色素性母斑

いわゆるほくろになります。母斑細胞が皮膚の表面近くに集まって色素を作るためにできる褐色又は黒色に見えるアザです(黒あざ)。「ほくろ」といわれる小さなものから、大きな拡がりをもつ「母斑」といわれるものまであります。
「母斑症」といわれ、遺伝や他の病気と同時に生じるものもあり、その診断には専門的な知識や検査が必要になります。

治療には、癌であるかどうかの見極めが大事で、時には組織の検査をする必要があります。
良性のものであれば治療の方法は様々で、電気やレーザーでアザを薄くしていく方法とメスで切り取る方法に大きく分かれます。
大きなものは何回かに分けて手術をしたり、皮膚を移植したり、周りの皮膚を拡げたりと色々な工夫をしなくてはならないことが多く、専門的な治療が必要になります。
特に、大人になった時に20cm2を越える病変は、「巨大母斑」と言われ、癌を生じる可能性があるため、通常の色素性母斑とは異なる考え方が必要になります。ページの最後に解説します。

色素性母斑のイラスト色素性母斑のイラスト

太田母斑

色素細胞(メラノサイト)が皮膚の深いところ(真皮)に集まって出来るアザで、目の周りや頬を中心とした片側顔面に出来る青アザの代表です。
思春期以降の女性に多いのが特徴ですが、乳児期から濃くなっていくものや両側に出来るものもあります。
また、肩の周りにできる同じ様なアザは伊藤母斑と呼ばれます。

治療にはレーザーが用いられ、反応も良好ですが、小さい頃の方がより効果的とされ、各々の病変に応じたあて方を考えていきます。

太田母斑の説明画像太田母斑の説明画像

蒙古斑、異所性蒙古斑

色素細胞(メラノサイト)が皮膚の深いところ(真皮)に集まって出来る青アザの一つで、生まれつきあるアザの代表になります。
蒙古斑は、殆どの人のおしりや背中にあって学童期には自然に消えていきます。ただし、足や腕など通常あまり出来ない場所にある蒙古斑を異所性蒙古斑と呼び、特に、四肢の病変は消えにくいため治療の対象になることがあります。レーザーを用いた治療が選択されます。

蒙古斑 異所性蒙古斑 下肢の異所性蒙古斑 レーザー治療後蒙古斑 異所性蒙古斑 下肢の異所性蒙古斑 レーザー治療後

扁平母斑

皮膚の色をつくるメラニンが皮膚の浅いところに増えて出来る、平らなくっきりとした茶色のアザです(茶あざ)。
生まれつきあるものが殆どですが、数の多いものには神経線維腫症といった全身の病気がひそんでいることもあり、注意が必要です。
大人になってから出来る肩や腰の周りに出来るものはベーカー母斑とも呼ばれ、毛が生えることもあります。
治療にはレーザーや切除の手術が行われますが、レーザーでは再発してくることも多く、治療に難渋することもあります。

扁平母斑 ベーカー母斑扁平母斑 ベーカー母斑

表皮母斑

皮膚の表皮にある角化細胞が増えて厚みを増すアザで、茶色でいぼ状のザラザラした局面になります。Blaschko線と呼ばれる発生学的な分布に沿って線状又は列序性に配列して、広い範囲にみられることもあります。
治療はレーザーなどを用いて削る様な手術が行われますが、きずあとが目立ってしまうこともあります。

表皮母斑の様子表皮母斑の様子

林礼人/大原國章 こどものあざとできもの —診断力を身につけるー 2020 より

脂腺母斑

頭や顔に出来ることのある黄色調の病変で、脂腺のみならず、皮膚や毛穴を構成する様々な細胞から出来る母斑(アザ)になります。
生まれつき存在し、初めは黄色からやや赤みを帯びた毛の生えない斑状の病変ですが、年齢と伴に疣状に隆起して、褐色調になっていきます(黄アザ)。
皮膚の癌が出来てしまうこともあるため、注意が必要で、切除が必要になります。
切除の際には、簡単に縫い寄せられないこともあり、皮弁移植などの工夫が必要になることもしばしばです。頭の縫い傷には毛が生えないため、切開する方向などを慎重に検討しながら、治療を行っていきます。

乳児期の病変 学童期の病変乳児期の病変 学童期の病変
基底細胞癌の合併例 切除時のデザイン(Z形成や縫い方に工夫) 術後9ヵ月 瘢痕性禿髪も目立たない基底細胞癌の合併例 切除時のデザイン(Z形成や縫い方に工夫) 術後9ヵ月 瘢痕性禿髪も目立たない

林礼人/大原國章 こどものあざとできもの —診断力を身につけるー 2020 より

巨大色素性母斑

生まれつきある大きな黒アザの中で、成人で直径が20cm以上、乳幼児の場合は頭部で直径9cm以上、体幹で直径6cm以上の色素性母斑を巨大母斑を呼びます。
母斑の黒色は母斑細胞が作り出すメラニン色素が原因になります。
母斑細胞は主に表皮と真皮の境界や真皮の中に存在しますが、皮膚中枢神経系にも母斑細胞が存在する場合もあります。
先天性巨大色素性母斑は悪性黒色腫(メラノーマ)発症のリスクが高い(3%程度)とされており、早期に母斑を切除することが望ましいとされています。

巨大色素性母斑の様子巨大色素性母斑の様子

林礼人/大原國章 こどものあざとできもの —診断力を身につけるー 2020 より

巨大色素性母斑に対する治療

治療には様々な手法があり、母斑の大きさや局在によって、メラノーマのリスク、整容面を考慮しながら治療を進めます。
治療法には、自家培養表皮、ドライアイス圧抵、キュレッテージ、分割切除術、レーザー治療、ティッシュエキスパンダー、植皮術を用いた方法などがあります。
それぞれメリット・デメリットがありますので、母斑の大きさ、部位等を考慮し治療法を選択していくことになります。複数の治療法を組み合わせて行う場合もあります。

キュレッテージ

生後間もない期間では、母斑とその下の部分の間に比較的簡単に剥がすことが出来る層が存在します。
そこで、母斑組織を鋭匙(エイヒ)という器械を使って剥がし、母斑を剥がした後は自然に皮膚が張ってくるのを待ちます。
皮膚を移植する必要はありませんが、瘢痕として傷跡が残存します。また、母斑の色が残ったり、再発したりする可能性もあります。
生後早期に母斑細胞を減らした上で、将来的に傷跡に対する手術を検討します。

分割切除術

母斑を何回かに分けて切除し、縫い縮める方法です。
切除術の間隔は半年~1年あけ、切除後の傷跡が柔らかくなってから次の手術を行います。
最終的に、縫合線が1本の目立ちにくい線になる様に工夫しながら切除を計画します。一度では取り切れないものの切除を可能にしたり、一度で切除するよりも縫合線を短く出来るため整容面に優れるといった利点があります。
ただし、切除可能な大きさには限度があり、時間を要します。

分割切除術分割切除術

ドライアイス圧抵療法

ドライアイスを母斑組織に押し当て、母斑細胞を死滅させる治療法です。
少し強めに当てる必要があり、表面に水ぶくれが出来たり、1-2週間は染み出しが続く場合があります。
何度も繰り返す必要があり、比較的軽度な瘢痕を生じることもあります。まだらに色抜けする形になりますが、侵襲が少なく小さな病変には効果的な治療法のひとつです。

  • 治療前の下肢病変

  • ドライアイス圧抵療法の画像

    治療後約4年

レーザー療法

母斑の部位にQスイッチルビーレーザー、エルビウムヤグレーザー、V-Beamレーザーとの同時照射など、母斑の状態に応じたレーザーを選択して照射し色を薄くしていきます。 
他の治療に比べ侵襲は少なく、縫合した傷跡が出来ない利点があります。
しかし、何度も繰り返し照射する必要があり、深くまで母斑細胞が存在する場合には治療が難しく、色の残る場合が多いです。

レーザー療法の様子レーザー療法の様子

林 礼人:形成外科医・皮膚科医のためのイチから分かるレーザー治療 羊土社, 2017 より

自家培養表皮

自家培養表皮は、患者さん自身の皮膚から取り出した表皮細胞を体外で培養して表皮細胞のシートを作製し移植する方法です。
切手大サイズの皮膚から全身を覆えるほどの表皮細胞シートを3週間程度で作製することが可能です。
日本では自家培養表皮ジェイスが先天性巨大色素性母斑、重症熱傷、表皮水疱症に対して保険適応となっています。
小さな皮膚から培養し、広い面積を治療できることがメリットですが、移植した後の肥厚性瘢痕などの課題もあります。

自家培養表皮を使った治療の流れ

自家培養表皮①自家培養表皮①

培養表皮移植による実際の治療例(広範囲の場合)

他部位からの植皮術も有用ですが、全身性などの広範囲の場合には、培養表皮を用いた治療が試みられています。

  • 培養表皮移植の画像
  • 切除病変

  • 培養表皮移植時

  • 術後約4年

再生医療ナビにおける林教授へのインタビュー記事

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ティッシュエキスパンダー

皮膚の下にシリコン製の風船を入れて膨らませ、徐々に皮膚を伸ばし、伸ばした皮膚を植皮を利用して母斑を切除した部分をカバーする方法です。
整容的にも優れた方法ですが、膨らますのに時間を要し、定期的な通院が必要になり、挿入部の管理も必要になるため、乳幼児期の治療には向きません。

顔面瘢痕に対するエキスパンダー使用例

顔面瘢痕に対するエキスパンダー使用例顔面瘢痕に対するエキスパンダー使用例

林礼人/大原國章 こどものあざとできもの —診断力を身につけるー 2020 より

植皮術

母斑の部分を切除した上で、正常な部位の皮膚を取って移植する方法です。
分割切除で対応できないような大きな母斑でも治療可能で、以前から行われていた手法になります。植皮した部分は周囲と比べて色味や質感が異なり、皮膚を取った部分も傷跡として残るため、取る部位への配慮も必要になります。

  • 分層シート植皮術

  • 植皮生着後の所見