生命ナノシステム科学研究科生命ナノシステム科学研究科
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【論文掲載】海の環形動物におけるR-型レクチンの多様な局在性が明らかにされました

2021.08.27
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海の環形動物におけるR-型レクチンの多様な局在性が明らかにされました。

横浜市立大学客員教授 SMアベ・カウサル(バングラデシュ チッタゴン大学)*、同客員教授 山田雅雄(株式会社グライコテクニカ・エムック)、同客員准教授 イムティアジ・ハサン (バングラデシュ ラジャヒ大学)*、同客員講師 藤井佑樹 (長崎国際大学)*、理学部学生 林 龍平(令和元-2年度 理数マスタープログラム)は、同大理学部教授 大関泰裕(糖鎖生物学研究室)らと共に、海の環形動物である多毛類ゴカイのもつR-型レクチンとよぶ糖鎖結合性タンパク質の体内分布を調べ、表皮、腎組織、神経束などの組織に、糖鎖と結合して存在していることを初めて解明しました。

*本学大学院生命ナノシステム科学/国際総合科学研究科博士後期課程修了者

<研究内容>

レクチンは、ウイルス、細菌、植物からヒトにまで広く存在する「糖鎖結合性タンパク質」の総称です。これまでに世界中で発見されてきた1万種以上のレクチンは、約100パターンのアミノ酸配列と、30種類のタンパク質の骨格へ分類されることが知られています。糖鎖は、ヒトの血液型物質やウイルスの感染標的などに働く分子の鎖です。レクチンは糖鎖と結合して、免疫や細胞間のコミュニケーションなど、生命の重要な役割りを担っています。
ヒマシ油を採取する工芸作物トウゴマの種子には、「リシン」と呼ばれる毒素タンパク質が含まれ、その毒素の一部 (=B鎖)はレクチンです。リシンB鎖のアミノ酸配列と似たレクチンを「R-型レクチンファミリー」と呼び、その遺伝子は、植物をはじめ、キノコ、細菌、原生生物、古細菌、ヒトなどの動物、ウイルスにまで、広く存在しています。
さまざまな生物から発見されているレクチンですが、それらが生物のどこに存在しているかを明らかにした研究は多くありません。糖鎖生物学研究室の教員と学生による研究グループは、海の環形動物に属す多毛類から発見したR-型レクチンPnLが、ゴカイ体内のどの器官に存在するかを抗体と蛍光顕微鏡を用いて観察しました。
その結果、PnLは、ゴカイの剛毛、表皮細胞、血管、神経束、腎管に存在していました(図右)。さらにPnLの局在する部位のいくつかには、このレクチンが結合するガラクトースを含んだ糖鎖も検出されました。このことから、R-型レクチンPnLは、多毛類ゴカイの体内で、糖鎖と結合し存在していることが明らかとなりました。

<今後の研究展開>

ゴカイやミミズの属す環形動物門は、貝類の属す軟体動物門などと、幼生の形が共通し「冠輪動物(かんりんどうぶつ)」と分類されます(図左)。本研究の結果は、これまで明らかにしてきたムール貝R-型レクチン(関連記事)の役割りを比較し考察するうえでも有用になります。さらに環形動物のR-型レクチンは、ミミズを用いて1990-2000 年代に研究された日本発の成果があります。本研究で新たに得られた結果から、ミミズのレクチンの局在性と比較し、環形動物のもつ高い再生能力などが、レクチンと糖鎖によりどのように制御されており、 動物が海から陸へ生存圏を広げたことでレクチンはどう進化したか、などの生命科学の問いに関する考察を深めてゆきます。

本研究の結果は横浜市立大学基礎研究費およびJSPS科学研究費補助金を受け、スイスの学術雑誌Moleculesより2021年8月7日に出版されました。また、本成果は第23回比較グライコーム研究会(8月21日 横浜みなとみらい)で発表されました。

<発表論文>

論文題目 “Diverse localization patterns of an R-type lectin in marine annelids.”
発表者 Sarkar M. Abe Kawsar, Imtiaj Hasan, Sultana Rajia, Yasuhiro Koide, Yuki Fujii, Ryuhei Hayashi, Masao Yamada, Yasuhiro Ozeki
学術雑誌 Molecules (Basel) 26巻 論文番号4799.(2021)
DOI https://doi.org/10.3390/molecules26164799
発表年月日 2021年8月7日

問合せ先

横浜市立大学
大学院生命ナノシステム科学研究科/理学部
教授 大関 泰裕
Tel:045-787-2221 E-mail:ozeki@yokohama-cu.ac.jp
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