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ムール貝からギラン・バレー症候群関連糖鎖と結合する新種のレクチンを発見~『The FEBS Journal』に掲載~

2019.12.03
  • プレスリリース
  • 研究

ムール貝からギラン・バレー症候群関連糖鎖と結合する新種のレクチンを発見

~『The FEBS Journal』に掲載~

横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 大関泰裕教授とイムティアジ・ハサン(大学院生)、同大学院生命医科学研究科 ジェレミー・テイム教授、鎌田健一(大学院生)、長崎国際大学大学院薬学研究科 藤井佑樹講師、藤田英明教授らは、イタリアのトリエステ大学 生命科学部 マルコ・ジェルドル博士らと国際共同研究を行い、日本各地の海で採れるムール貝の一種ムラサキインコガイから、抗腫瘍細胞活性をもつレクチン「セヴィル」(図1参照)を見つけ、その構造と性質を明らかにしました。セヴィルはR-型レクチン構造をもち、ヒトの自己免疫疾患であるギラン・バレー症候群の標的抗原のひとつであるGM1b糖鎖、ナチュラルキラー細胞のマーカーであるアシアロGM1糖鎖、iPS細胞のマーカーのひとつであるSSEA-4糖鎖との結合性を有していました。
研究成果のポイント

  •  「スフィンゴ糖脂質の糖鎖(GM1b、アシアロ-GM1、SSEA-4)に結合する特殊なレクチン「セヴィル」をムラサキインコガイから発見し、その一次構造(アミノ酸配列)を決定した。
  •  セヴィルはR-型レクチンファミリーに属し、アシアロ-GM1糖脂質糖鎖をもつ腫瘍細胞に与えると、糖鎖と結合して細胞を活性化し、細胞死を招いた。

研究の背景

レクチンは糖鎖と結合するタンパク質です。生物は多様な構造の糖鎖と結合するレクチンをもち、その結合を通じて生体防御、感染、細胞増殖調節などの機能をあらわします。海にすむ無脊椎動物は、動物の祖先に近い、すなわち進化の基盤となる遺伝子を持っており、それらのレクチンの構造や結合する糖鎖を明らかにすることは、生物におけるレクチンの役割の解明につながると考えられます。さらに、それらを治療や診断に利用する技術の開発も期待されます。このため、我々は様々な海棲無脊椎動物のレクチンを探索してきました。

研究概要と成果

神奈川県と長崎県で採取したムラサキインコガイから発見されたレクチンを「セヴィル」と名付け、その一次構造(アミノ酸配列)、糖鎖結合性、培養細胞への作用を明らかにしました。セヴィルは、β-トレフォイル(三つ葉)型の立体をつくることで知られるR-型レクチンファミリーに属する一次構造をもち、スフィンゴ糖脂質糖鎖のGM1b、アシアロ-GM1、SSEA-4への顕著な結合性を有していました。GM1bは、細菌感染でできた自己抗体が原因でヒトの神経細胞が攻撃される「ギラン・バレー症候群」の標的糖鎖のひとつで、アシアロ-GM1はがんの免疫に重要なナチュラルキラー細胞に存在する糖鎖、そしてSSEA-4はiPS細胞に存在する特徴的な糖鎖として知られています。アシアロ-GM1をもつ培養ヒトがん細胞にセヴィルを投与すると、細胞内の代謝が活性化され、細胞死を起こすはたらきのあることも認められました。
図1 セヴィルの形とはたらきの概要


今後の展開

GM1bは5つの単糖がつながった糖鎖です。この長い鎖がセヴィルとどのように結合しているか、今後、結合体の立体構造を解明し、糖鎖結合から細胞増殖制御までの反応経路を解明していきます。セヴィルの抗腫瘍活性を解析して細胞に対する作用とそのしくみが理解されることで、レクチンの診断・治療への利用可能性が明らかになると考えられます。

また、ムール貝はレトロトランスポゾン様遺伝子が原因の白血病を起こし、その細胞は海を漂い他種の貝に伝染することが報告されています。貝の腫瘍細胞にセヴィルを投与して、どのような効果がみられるかを明らかにし、比較腫瘍学的な問いにも答えていきます。

本研究の成果は、以下のイベントで紹介されます。

第107回インド科学会議 招待講演(セクション:ニュー・バイオロジー)
開催日:2020年1月3日~7日
主催:インド政府・インド科学会議協会
会場:インド農科大学(インド共和国 ベンガルール市)

 ○うみコン2020
開催日:2020年1月29日
主催:うみコン実行委員会事務局・横浜市(政策局)
会場:横浜市開港記念会館(横浜市)

2020 World Conference Protein Science 招待講演(シンポジウム16:構造糖鎖生物学)
開催日:2020年7月6日~10日
日本蛋白質科学会、The Protein Society、The Asia Pacific Protein Associationによる合同開催
会場:札幌コンベンションセンター(札幌市)




研究費情報

本研究は、科学研究費補助金(JP19K06239)横浜市リーディング事業助成金(トライアル助成)、杉山産業科学財団助成金、横浜市立大学基礎研究費を受けて行なわれました。


論文情報

A GM1b/asialo-GM1 oligosaccharide-binding R-type lectin from purplish bifurcate mussels Mytilisepta virgata and its effect on MAP kinases.
Yuki Fujii, Marco Gerdol, Sarkar M. A. Kawsar, Imtiaj Hasan, Francesca Spazzali, Tatsusada Yoshida, Yukiko Ogawa, Sultana Rajia, Kenichi Kamata, Yasuhiro Koide, Shigeki Sugawara, Masahiro Hosono, Jeremy R. H. Tame, Hideaki Fujita, Alberto Pallavicini, Yasuhiro Ozeki.
The FEBS Jounral https://doi.org/10.1111/febs.15154


問い合わせ先

(研究内容に関するお問い合わせ)

横浜市立大学大学院  生命ナノシステム科学研究科
教授 大関 泰裕 (糖鎖生物学)
 TEL: 045-787-2221 E-mail: ozeki@yokohama-cu.ac.jp

(プレスリリースに関するお問い合わせ、取材対応窓口、資料請求等)

研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510 E-mail:kenkyupr@yokohama-cu.ac.jp
 

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