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呼吸器病センター

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPDとは

COPDは有害物質を長期に吸入することで生じる疾患です。主に喫煙が原因とされており、喫煙者の15~20%がCOPDを発症するといわれています。受動喫煙や大気汚染、職業的な塵埃、化学物質も原因と考えられています。吸入された有害物質は、肺の中の気管支に炎症が起こし、咳や痰の原因となるだけでなく、気管支内の空気の通り路が狭くなり空気が通過しづらくなります。気管支が枝分かれした奥にあるぶどうの房状の小さな袋である肺胞(はいほう)が破壊され、肺気腫という状態になることもあり、酸素の取り込みや二酸化炭素を排出する機能が低下します。COPDではこれらの変化が併存すると考えられており、治療で元に戻ることはありません。
COPDの主な症状は、階段の上り下りなど体を動かしたときの息切れや、風邪でもないのにせきやたんが続いたりすることです。一部の方では、喘鳴や発作性呼吸困難などぜんそくの様な症状を合併する場合もあります。
喫煙開始の年齢が若いほど、また1日の喫煙本数が多いほどCOPDになりやすく、進行しやすいと言われています。日本では、昭和初期(1930年代)から1970年代まで、たばこ消費量の増加が続きましたが、それから約30年遅れて、COPD死亡者数の増加がみられています。

検査

COPDの診断は、確定診断にはスパイロメトリーといわれる呼吸機能検査が必要です。最大努力で呼出できる全体量(努力性肺活量)と、最初の1秒間で呼出量(1秒量)を測定し、その比率である1秒率(1秒量÷努力性肺活量)が気道の狭くなっている状態(閉塞性障害)の目安になります。気管支拡張薬を吸入後の1秒率が70%未満であり、他の疾患を除外できればCOPDと診断されます。胸部エックス線画像で肺の透過性亢進や過膨脹所見が重症では見られますが早期診断には役立ちません。高分解能CTでは肺胞の破壊された、早期の気腫病変を発見できますが、COPDの診断には閉塞性障害の有無が重要となります。
また、COPDは全身の炎症、骨格筋の機能障害、栄養障害、骨粗鬆症などの併存症をともなう全身性の疾患です。これらの肺以外の症状が重症度にも影響を及ぼすことから、併存症も含めた病状の評価や治療が必要になります。

治療法

COPD治療の目標は、
  1. 症状および生活の質の改善
  2. 運動能と身体活動性の向上および維持
  3. 増悪の予防
  4. 疾患の進行抑制
  5. 全身併存症および肺合併症の予防と治療
  6. 生命予後の改善
が目標となります。
気流閉塞の重症度だけでなく、症状の程度や増悪の頻度を加味し治療を段階的に増強していきます。

禁煙

COPDの主な原因である喫煙を続けていると呼吸機能低下の進行が避けられないため、禁煙が治療の最も基本となる治療となります。
たばこへの依存性の強い人は、禁煙補助薬と呼ばれるニコチンパッチやニコチンガムなどを使用したり、非ニコチン製剤の飲み薬を使って禁煙する方法もあります。
一定要件を満たした医療機関では、薬物療法による禁煙治療は保険適用の対象となります。

薬物療法

症状や活動性の改善と将来の増悪や進行リスクを低減するため、気管支を拡げて呼吸を楽にする気管支拡張薬が薬物治療の中心となります。
その他、たんを出しやすくする喀痰調整薬、感染症を防ぐ抗生物質や、増悪を繰り返す場合には吸入ステロイド薬を使用することがあります。

気管支拡張薬

短時間作用性抗コリン薬(SAMA)および短時間作用性β2刺激薬(SABA)

短時間作用型の気管支拡張薬は運動や入浴など日常生活での呼吸困難の予防に有効です。気管支を拡げる作用は抗コリン薬の方が強く、気管支を拡げるまでの時間はβ2刺激薬の方が速くなります。

長時間作用性抗コリン薬(LAMA)

COPDで最も効果を示す気管支拡張薬と考えられています。継続使用しても効果が弱まることがありません。1回の吸入で作用が12~24時間持続します。長期的には、COPD患者さんの疾患の進行や死亡率を抑制する可能性が報告がある薬もあります。閉塞隅角緑内障の患者さんでは禁忌であり、前立腺肥大症の患者さんではまれに排尿困難症状の悪化することがあります。

長時間作用性β2刺激薬(LABA)

β2受容体を刺激することで気管支平滑筋に働き気道を拡張します。作用が12~24時間持続し、長期間使用しても効果の減弱を認めません。効果は劣るものの、夜間症状やQOLの改善に優れた貼付型のβ2刺激薬も使用されます。

長時間作用性抗コリン薬・β2刺激薬配合薬(LAMA/LABA)

長時間作用性抗コリン薬とβ2刺激薬を配合したことで、作用機序が異なる薬剤の効果を得られ、副作用のリスクが低下され、より強力な気管支拡張効果が期待できます。それぞれを単剤で使用した場合と比べ、閉塞性障害や肺過膨張効果が大きく、息切れも改善できます。

メチルキサンチン

一般的に1秒量の改善効果は吸入の気管支拡張薬より小さいとされますが、長時間作用性β2刺激薬との併用では気管支拡張効果が上乗せされたとの報告があります。副作用に嘔気や不整脈があることから、血中濃度のモニタリングを継続しながらの使用が推奨されています。

喀痰調整薬

COPDの増悪抑制と、QOL改善が報告されている例があります。

抗生物質(マクロライド)

COPDの増悪を抑制することやQOLを向上させることが報告されています。

ワクチン

COPDに合併した呼吸器感染症は重症化しやすいこと、COPD増悪の原因となることから、ワクチンの接種が重要です。
従来からのインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの他、新型コロナウイルスやRSウイルスのワクチンもあります。インフルエンザワクチンは重篤な増悪を減少させると報告されています。また、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを併用することによって、インフルエンザワクチン単独の場合に比べCOPDの感染性増悪の頻度が減少することが報告されています。すべてのCOPD患者さんとその家族や介助者にも接種をおすすめします。

呼吸リハビリテーション

呼吸リハビリテーションの中心となるのは、運動療法、セルフマネジメント教育、栄養療法、心理社会的サポート、導入前後・維持期の定期的な評価です。呼吸困難低減や運動能力向上、健康QOLの改善については、薬物療法など他の方法よりも有効とされています。外来・入院ともにリハビリテーションを導入する場合があります。

在宅酸素療法

肺機能低下が進行し、通常の大気では十分な酸素が取り込めない低酸素血症を、呼吸不全という症状に陥ることがあります。家庭で持続的に酸素吸入する在宅酸素療法で、QOLや生存率の向上が報告されています。在宅酸素療法の適応には条件があります。
導入にあたっては、患者と家族が酸素療法の目的、意義、必要性を理解し、安静時・労作時・睡眠時の酸素流量の確認と吸入酸素流量の遵守、酸素提供装置の安全な利用方法、機器の保守管理、災害および救急時の対応、日常生活に関すること、増悪の予防と対応、福祉制度の利用および医療費などについて、医療者が説明および指導を受ける必要があります。

COPD増悪の治療について

COPD増悪は、感染などを契機に空気の通りづらさが悪化し、咳嗽や喀痰、また喘鳴や呼吸困難などCOPDの症状が短期間で悪化した状態です。酸素投与を要する中等症以上のCOPD増悪は入院治療となります。COPD増悪には、内服もしくは点滴でのステロイド投与、短期作用型β2刺激剤の吸入、細菌感染が疑われる場合は抗菌薬での治療を行います。
入院期間:7~10日程度