生命ナノシステム科学研究科生命ナノシステム科学研究科
search

生命ナノシステム科学研究科 博士前期課程修了生 中山理央さんの論文が、Scientific Reportsに掲載されました。

2022.09.02
  • TOPICS
  • 学生の活躍

今後のコムギの育種・栽培技術開発への応用が期待される!

生命ナノシステム科学研究科 博士前期課程修了生の中山理央さんは在学中、コムギの塩ストレス耐性について研究を行い、その研究成果が、2022年7月『Scientific Reports』に論文掲載されました。

論文筆頭著者

生命ナノシステム科学研究科 博士前期課程修了生(2019年度修了)
木原生物学研究所 川浦香奈子研究室(植物ゲノム科学)所属
中山なかやま  理央   りお さん

論文題目

「Comparative transcriptome analysis of synthetic and common wheat in response to salt stress」
(塩ストレス応答における合成コムギと普通系コムギの比較トランスクリプトーム解析)

研究内容

—今回論文掲載に至った研究内容について川浦香奈子准教授に解説していただきました。

塩ストレスは作物の収穫量を減らす主要な環境ストレスの一つです。コムギの育種・栽培を促進するためには、塩ストレス耐性を高めるための改良が必要とされています。
本研究では、耐塩性の高い一般的なコムギ(普通系コムギ)と人工的に作出された合成コムギの塩ストレスに反応する遺伝子を比較解析しました。その結果、合成コムギが普通系コムギとは異なる耐塩性メカニズムを有していることを明らかにしました。この結果は、今度のコムギの育種・栽培に貢献する可能性が期待されます。

*合成コムギ:普通系コムギは栽培されていたエンマーコムギと随伴雑草であるタルホコムギが約1万年前に自然交雑して誕生したとされる。合成コムギは人工的にエンマーコムギの近縁種とタルホコムギを交配して作出される。
図: 普通系コムギと合成コムギにおける塩ストレスに反応する機構の違い : 普通系コムギではナトリウムイオンを細胞外や液胞に輸送する輸送体の遺伝子発現が誘導されていたのに対し、合成コムギでは活性酸素種(ROS)のシグナル伝達経路やリン酸化経路が活性化することが示唆された。

中山さんのコメント

修士課程で行った研究が、こうして論文掲載まで至ったことを大変嬉しく存じます。これも川浦先生の熱心なご指導と、先生方や研究室メンバーとの建設的なディスカッションのおかげと存じ、心より御礼申し上げます。現在、私はアカデミアでの研究を離れ一般企業に勤めておりますが、研究を通して培った探求心や行動力、忍耐力は、日々の業務のなかでも生きており、とても有意義な時間であったと感じています。本研究がより一層進展し、世界の食料問題にわずかでも貢献できることを願っております。

指導教員 川浦香奈子准教授のコメント

コムギは重要作物ですが、ゲノムサイズがヒトの5倍以上、イネの40倍以上と大きく、今回のような全遺伝子を対象とした研究は困難でした。このような状況の中、中山さんは修士課程の2年間でバイオインフォマティクスの手法を自力で習得し、耐塩性コムギの塩応答の機構の解明に挑みました。また、実際にコムギを栽培して表現型を観察したり、コムギ同士を掛け合わせる交配実験を行うなど本論文の鍵となるデータを得ることができました。今回、このような形で論文にまとめることができ、大変嬉しく思います。中山さんが就職先で、この経験を生かして活躍されることを願っています。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加